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水の精霊にTS転生!   作者: アリエパ
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泉の精になりまして

 雨が降っていた。貴女が大好きだった雨が。でも、私はあまり好きじゃなかったな。

 だって、私には滅多に微笑んでくれなかったくせに、雨粒一つでコロコロ笑うから。曇りの日は天気ばかり見上げて、いつもより私を構ってくれなかったし。

 今では貴女の子供っぽい笑顔が思い出せるから、少し好きになったけど。


「ねえ、起きて。雨だよ。早くしないと、止んじゃうよ?」


 なんで勝手に眠ったの?ずっと一緒にいると言ってくれてたのに、置いてけぼりにして。私の気持ちを確かめもせずに、自分だけで決めちゃって。私が望んだ愛の言葉も何もなしに、いつもずれた答えばかりで。

 文句を言う相手の思い出から想像される姿は、幼いあの日のまま時が止まってる。なのに氷に映り込む自分は、あの日よりだいぶ大人になっていた。


「早くしないと、私がお姉さんになっちゃうよ?」


 貴女だったらそんなことを言われればむきになって飛び起きてくれる。そう期待して出てきたつぶやきも、重たい氷に吸い込まれてしっまた。ただ厳然とそびえる氷塊に、さみしくて、少しでもそばにいたくて、身を寄せる。髪に纏わりついた雨が冷気に軋みを上げて、びしょぬれになった服が重く硬くなっていく。

 体から熱が奪われて、瞼が霜で覆われていく。ふふ、このまま凍っちゃえばいい。そうすれば、もっと傍にいれる。貴女の一部に、溶け込んで、凍り付ける。

 そう望んでも、雨は長くは続かなかった。氷がピシりと上げる音と共に瞼を開けて見た空は、いつの間にか鈍色から茜色に塗り替わっていた。体を包んでいた氷棺も、身に危険を覚えた魔力が熱になって溶かしてしまった。

 ああ、だけど、もうすぐ夜になる、また寒さが来る。涙も凍るような寒さが、再び私を氷にしてくれる。見つめた氷の先にある、澄み切った透明な青の中にある唯一の白との距離はため息が出るほど遠いけど、それでも今よりは、凍ってしまえば近づける。

 だけど


「ねえ、ユニエ。大好き」


 一度も返事が返ってこなかった言葉を手向けて、氷に頬ずりををした。

 早く答えを聞かせて。愛してるって、笑顔で言って。


 だから、早く目を覚まして?


~~~~~~


「うーん、どこだここ?」


 気が付けば、見知らぬ場所にいた。湖、いやそれにしては小さい。さしずめ泉といったところか。その上に浮かんでいる。なんでこんなところに?確か喉が渇いたから、自販機から何か飲み物を買おうとしてボタンを押したら、爆発して…ん、爆発!?

 慌てて自分の体を見回すと


「何だ、水?体が透けてる、、、」


 思わず声に出した。体が水で出来ていた。向こう側がぼんやり見える。腕を振ってみると、水でできたそれは自分の意思の通りに動いた。

 と言うか、ここはどこ何だ?周囲には鬱蒼と木が生い茂っているて、イズミの周りだけ樹が生えていない。上から見たら、きっと森か何かの中にポツンと穴が空いたかのように泉があるのだろう。考えを巡らせながら、周りを見渡していると背後から


 ガサガサ


 と、音がした。

 振り返るとそこには、大きな角の生えたウサギらしき動物がいて、泉の水を飲み出んでいた。え?角? あっけにとられていると、その後ろから金属の針で身を包んだ犬が忍び寄り、ウサギに襲いかかった。首に噛み付かれ、血がドクドクと流れている。突然の出来事に呆然としていると、犬がこちらを見た。


「ひっ!」


 次は自分の番か!?

 しかし、犬は水を舐め、ウサギの死骸を咥えてどこかに去っていった。

 心臓がバクバクとなっている と思った時、気がついた。心音がしない!どころか呼吸さえしていない!


「やっぱり霊的な何かかな。」


自分に言い聞かせるように言っていたら、だんだん落ち着いてきた。見たことのない動物。水で出来た奇妙な体。


「異世界転生というやつか」


 しがないサラリーマンで、両親もいないし結婚していないから妻子もない。前世に未練はあまりないし、このまま過ごしてみるのもいいだろう。

 何とかして生きていこう。分からないことだらけだけど。

 決意もほどほどに、現状を確かめないと。さてまずは…ん!?

 あたりを見回そうと首をめぐらしていたら、突然猛烈に喉が渇いた。そうとしか言えないような渇水の衝動。先程のウサギや犬がしたように、手も使わずに顔を水面につけて水を飲んだ。長い時間ずっとそうしていたら、ようやく衝動が収まった。途方もない充足感に包まれ、ぼんやりしていた。

 満足して、食事の後に感じる穏やかな眠気を感じる。 ああ、眠く、、、

起きたら夜だった。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


「この体は何なんだ?」


 改めて考えてみる。よく見ると、眠る前にみた時より、心なしか輪郭がはっきりしているように思う。水を飲んだからだろうか?試しに今度はちゃんと手を使って救おうとすると、


「ん?手から吸収してる、、、」


 別に口から飲まなくてもいいみたいだ。しばらくして水面から手を離してもう一度体を見回すと、輪郭がよりはっきりとしている。なんだか寝る前に感じた程ではないが、満足感も感じる。水を吸収するといいみたいだ。しばらくはこのまま水を飲んで生活しよう。


~~~~~

 〈数日後〉


 水をしばらく我慢してから吸収した方が効率がいいと気づいたり、吸収した水と同じぐらいの体積の水を操れるとことがわかったり、色々あった。水を使って魔法ごっこをし、水を吸収するのを繰り返して過ごしている。



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