1、たくましい彼女と呆れてしまう男子
どんどん投稿していきます。他にも書いている小説がありますので良ければどうぞ。(ほかのは一旦ですが投稿を中止していますので完結済みになっています)
「ねえー、ハードル準備してってばー」
「いやいや、そういうお前がやれや」
幽霊のようにふらふらしながらダルそうにそう頼んでいる女子がいた。一人の男子に呆気なく断られると、ふらふらハードルに向かって歩き始めた。
彼女は細い腕でグラウンドの端にあるハードルを三つ運ぼうとし始めた。後ろにはまだ七つハードルがある。
錆があちこちに目立つそのハードルは金属で出来ていて重く、実に持ちにくい。
だからか彼女はカニのような歩き方でグラウンドの中央までハードルを運び始めた。時々彼女の足にハードルが当たる。そのたび少し顔を歪めて痛がっている。
「いたたたっとー。ねえ男子、運んで!」
運び終わると、次はどすどすと堂々と男子に向かって歩いて行き、強めに頼んだ。
「俺たちは今、軸の確認をしてるんだよ。邪魔すんな」
一人の男子はキレ気味で答えると、他の男子たちと話し始めた。
「あれはやばいよな! パワー強すぎ!」
彼女はあきらめることなく、さらに言った。
「ねえ、その話さ、軸の話? 軸の確認してるんじゃないの? ゲームの話でしょ」
彼女は若干キレながら言った。そして図星だとでも思っているのか不敵な笑みを浮かべた。さらには男子たちからの答えを腕組して待っている。
すると次は違う男子が面倒くさそうに答えた。
「あのノジック君の軸を鍛えるトレーニングについて話してるんですけど! それでそのトレーニングやってみよっかって話してたんですけど!」
確実にゲームとかのであろう話をその男子はうまく言いくるめようとした。
「じゃあ、パワーってのは何?」
彼女は男子が話を言いくるめてくるのが分かっていたのか、全く動じずに質問を続けた。大きく胸を張りながら。
「軸のパワーですけど! あの人、軸のパワーすごいよねって言うだろ。ははは!」
その男子は彼女を指差しながら言った。そしてざまー見ろ、とばかりに笑った。そして後ろからもう一人男子がやってきて、彼女に行った。
「言葉、大丈夫か? なんなら俺の担任の先生、呼んでこようか? ふっ」
実にイラつく男子である。完璧なる挑発行為だ。
だが彼女はそんな挑発には乗らず、大きく深呼吸をした。このような事になったのは初めてではないようだ。
そして彼女は男子に向けて軽くふっ、と笑った。
「じゃあ、先生に言うね」
最終兵器だ。
だが男子たちはピクリとも驚かず、止めもしなかった。
「何も言わないってことは言ってきていいんだね。じゃあ」
彼女は男たちに背を向けると、勝利の笑みを浮かべ、ガッツポーズをした。そしてゆっくり、まるで止めにでも来てほしいかのように歩いた。
男子たちはと言うと、こそこそと何か話していた。
さすがの男子たちでも先生に怒られるのは面倒臭く、嫌である。だからといって男子たちは素直に止めて、とは言わない。否、言えない。彼らの無駄に硬いプライドのせいでだ。だから男子たちはこういって見せる。
「ダッセー。先生に言うとか、お前の歳でやることじゃねーわ」
呆れてしまう。
男子たちはヒヤヒヤしていることだろう。この餌で彼女が釣れなかったらやばいと。先生が来て、怒られると。
心から彼女には釣られないでほしいが、餌に今にも食いつきそうだ。
「ダサくてもいいし。クソ男子」
おっ、言葉は悪かったが釣られなかった。これで男子の数人はピクついただろう。
だが男子たちはまだ余裕そうだ。まだ餌があるとでも言うのだろうか。無駄な引き出しだけが多くて困ってしまう。謝ると言う引き出しもあればいいのだが。きっと南京錠ででも固く閉ざされているであろうが。
「じゃあ、じゃあ・・・・・・」
さすがに先程以上の餌は無いらしい。
男子たちからはどうすんだよ! とうまく彼女を止めるための術を話し合っているようだ。
さあ、どうだ男子。その南京錠を開けて、謝ってくれないだろうか。そうすればお前たちは確実に一段階成長できる。
「お、おい! もういいわ、行けば?」
駄目なようだ。
「ジョマー先生、男子たちがー」
「分かってるよ。おいで。話し合おう、ラーシーさん」
僕は自ら彼女に歩み寄って、頭を撫でた。
安心して泣くであろうと思っていたが彼女は泣かなかった。実にたくましい。
彼女は男らしい。
男子たちにはぜひ、彼女を見習ってほしい。
いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたり、気になる点がありましたら「感想」をお願いします。ご要望があれば遠慮なくどうぞ。可能な限り対応させていただきます。
最後に。史上最大級の感謝を!