狂う程の愛を、君に。
急に思いついたので、先輩と後輩のヤンデレな物語を書いてみました。
楽しんでいただけると幸いです。
―紅く、何処までも紅く広がる君の紅い血を見て、思わず頬を緩める。
「ああ…やっと、やっと僕だけのものになってくれた…」
君の血液の付着した刃物を、ほんの少し舐めてみる。
「…全く…こんなに手間をかけさせて…」
君は最後まで、手のかかるヒトだったねぇ…。
「…でも、僕は」
そんな手のかかる君の事が好きでした。
…ねえ、先輩?
君は、一生ボクだけのモノだカら…ネ?
夕陽を浴びて、柔らかく輝く君の髪を、掬っては落とすという行為を繰り返す。
「なんて幸福な日だろうか」
ボクは、紅く、紅く、紅い塊となった君へ口づける。
君の見開かれた瞳も、ほんの少し開かれた薄い唇も、地毛なのか解らない赤毛も全てを愛しているよ。
あんなにボクは君へ愛を伝えていたのにねぇ?
死んじゃうなんてさ。
でも、君が悪いんだよ?
君がボクを振ったりするからさ。
ボクの大好きな蒼空君。
可愛い蒼空君。君は怯えてた。
『ボク』っていう存在にね?
可愛い蒼空君。可哀想な蒼空君。
でも君が悪いんだよね?
ボクは目を閉じてつい先程の会話を思い出す。
―先輩は、おかしいですっ!
僕が友達と話しただけであんな風に…!
ああ、可愛い蒼空君。可哀想に、震えてる。
でも、そんな所が可愛い。
―…どうして?
ボクが一歩蒼空君へ向かって足を踏み出すと、蒼空君が一歩後退する。
じりじり、じりじりと不思議なステップを踏む。
くすっ、と思わず笑みが零れる。
蒼空君の瞳には、『恐怖』の色が浮かんでる。
『こわい』『いやだ』『たすけて』
蒼空君の瞳に浮かぶのは、そんな気持ち。
(…『怖い』は良いけど、『嫌だ』は傷つくなぁ…)
―…でも、『助けて』はあげないよ?
だって、君も望んだことでしょう?
じりじり、じりじり。
ああ、可哀想な蒼空君。
ついに逃げ道は無くなったね?
…だから、君に最後のチャンスをあげる。
「…ボクのこと、スキ?」
どうか、「YES.」って言って欲しいなぁ。
ああ、怯えた目も大好きだよ。
君の瞳も、笑顔も、血も、肉も、果ては骨さえも僕は愛せる。
ウサギみたいな蒼空君。
可愛い、のになんだか酷く苛々するよ。
可愛い蒼空君。可哀想な蒼空君。
君は僕を愛さなくちゃ。
だって、決められたことでしょう?
可愛い蒼空君。君の行動なんてお見通しだよ?
可哀想な蒼空君。君は左へ逃げる癖があるね。
可愛い蒼空君。本当は楽しいんじゃない?
可哀想な蒼空君。君は僕以外には愛されないよ?
可愛い蒼空君。だから僕だけ見てよ。
可愛い蒼空君。可愛くて、可愛くて、可愛くて。
そして、とっても可哀想な蒼空君。
「可愛い蒼空君。追いかけっこはもうお仕舞いだよ?」
きゅっ、と掴まえた君の腕を力一杯引き寄せて。
小刻みに肩を震わす君を後ろから抱き締めたんだ。
「可哀想な蒼空君。これが本当に最後だよ?」
まだ答えはお預けだったからね。
小刻みに肩を震わす君が、ぴくりと反応する。
君が俯いて僕を見ようとしないから、顎を持ち上げて無理矢理上を向かせる。
「可愛い蒼空君。ボクを愛しているかい?」
震える蒼空君を見つめる数秒間。
なんだか酷く愉しい。
……でも、君はこう言ったんだ。
「先輩なんか……大嫌いです」
嗚呼、可愛い蒼空君。
君は言ってしまったね。
ボクが世界で一番大嫌いな言葉をさ。
可哀想な蒼空君。
ごめんよ。ボクは力の加減を知らないんだ。
可哀想な蒼空君。
ボクはいつも持ち歩いている小型のカッターナイフを、蒼空君の首筋へあてる。
(このまま、切るのもいいけれど…)
少しの間でも、彼を覚えておきたい。
ボクは、蒼空君へ口づける。
蒼空君が、ボクを押し退けそうだったから、蒼空君の両腕を蒼空君の頭の方へと固定して。
「…っ、はな、せ…」
途切れ途切れに、息を吐き出す蒼空君。
本当は、スキなのかな?
絡み合う舌の熱だって、
必死に逃げようとする可愛らしさだって、
―……本当は、全部好きなんだ。
逃げても無駄だよ。すぐに教えてあげる。
ボクは君より一年年上だからね。
『年上は年下へ教えてあげなさい』って先生も言っていたでしょう?
クチュクチュとした水気のある音は、室内へと響いている。
「…っ、…っっ!」
必死に逃げようとするけど、無駄だよ?
なんて無駄な労力。
呆れて言葉も出ないって、こういうことを言うんだね。
「…離してほしい?」
「…離せ」
「ごめんなさいは?」
「…は…?」
「ボクを『大嫌い』って言ってごめんなさいは?」
少しだけ不機嫌そうに僕を見上げる君。
ああ、可愛いね。…でも。
「『ごめんなさい』は、言えるようにしないとね?」
可愛い蒼空君。でも、とても可哀想な蒼空君。
君はあの排気ガスにまみれた青空と一緒だね。
表面上では輝いているのに、くすんだ色をしているんだ。
可哀想な蒼空君。
最後に、もう一度だけ聞いてあげる。
「ねぇ、蒼空君。ボクを愛しているかい?」
答えは……
「貴方なんて、大っ嫌いです」
でも、と次の言葉を紡ぎ蒼空君は儚げに微笑んで、こう言ったんだ。
「……俺を愛しているのなら、貴方が俺をどれくらい愛しているか、俺自身に教えてください」
誘惑されたのは、ボクの方だったみたいだ。
思わず苦笑してから、カッターナイフを、蒼空君の首筋へあてる。
―ズブッ
―ああ、蒼空君。
「やっと、ボクだけのものになってくれたね」
可愛い蒼空くん。可哀想な蒼空くん。
「…これくらい、君をアイシテルんだよ?」
可愛い蒼空くん。愚かな蒼空くん。
可哀想な蒼空くん。伝わったかな?
可愛い蒼空くんの瞳から溢れた一筋の涙を、指で拭う。
―ぺろっ
「…可愛い蒼空くん。やっと…」
ボクだけのものに、なってくれたね。
可愛い蒼空くん。可哀想な蒼空くん。
愚かな蒼空くん。君は自分に自信が無かったんだ。
可哀想な蒼空くん。だからボクに期待して。
可愛い蒼空くん。本当はボクに溺れるのが怖かったんだろ?
君の涙はしょっぱいね。
しょっぱくて、ほんの少し、苦い。
ああ、可哀想な蒼空くん。
君にはボクを愛せないよ。
ああ、なんて可哀想な蒼空くん。
ああ、なんて愚かな蒼空くん。
無理矢理したあのキスに、君が過剰に反応していた事を、ボクは知ってるよ?
ボクは、きゅうっ、と唇の端をまげて嗤った。
久しぶりに、心の底から『嗤った』気がする。
「可愛い蒼空くん。君はずうっとボクだけのものだからね…?」
手のかかる君へ、ボクからのプレゼントをあげる。
ボクは、自分の首へ先程蒼空くんを突き刺したカッターナイフを突き刺す。
「…ねえ、蒼空くん…」
―明日は、綺麗な青空かな。
―カラカラカラ…。
僕は古ぼけた教室の扉を開ける。
「…ああ、やっぱり」
予想通りの愛しい先輩の行動に、思わずクスリと笑みが零れる。
目の前で倒れるこの人は、僕が『嫌いだ』と告げると、絶対に僕を自分のものにしようとして殺そうとするから、念のために『替え玉』を使って泳がせておいたら、案の定。
―弟だったのになあ…。
顔も、姿も、声も何もかもが瓜二つの僕の双子の弟。
ただ、一つだけ違うのは―
「先輩を愛してるか…だね」
僕は幸せな表情で微笑む先輩の元へ、ゆっくりと歩く。
「…でも、さっきはちょっと嫉妬しちゃったよ?先輩。『僕』じゃないのに『僕』
だと思い込んで、愛を告白してるんだもん。挙句の果てにはキスまでしてさ。
本当、先輩は馬鹿だねえ?
…でも、あいつも馬鹿だよねえ?僕はちゃーんと言っておいたのに。
『一人称は『僕』にしろ』ってさあ?」
最初の方は、怯えたフリをしてたけど、もう限界かなあ?
ずうっと先輩だけ見てたんだよ?もういいよねえ?
「ねえ、先輩。僕を愛してる?」
…ああ、失礼。愚問だったね。
貴方は「愛してる」って言ってたのに。
「ねえ、先輩。愛してるよ」
僕は、先輩へ口づけると、先輩のボタンをブレザーから金色に輝く第二ボタンを一つ引きちぎる。
―…こんなの、馬鹿みたいだと思ってたけど。
指先で『それ』を弄びながら、自分の第二ボタンを引きちぎり先輩の手に乗せる。
『第二ボタンは特別な人への贈り物』。
不意に誰かの言葉を思い出す。
―…じゃあ、これは先輩から僕への『愛の証』なんだ。
嬉しくて、嬉しくて嬉しくて。
僕は第二ボタンに口づけると、教室を出る。
―ねえ、先輩?
先輩から貰った『愛の証』、僕は死ぬまで大事にするよ?
例え、この体が尽きて骨だけになったとしても。
僕は、あナたダけヲ、アイシテルから。
感想やアドバイス、不明な点や詳しく知りたい点など教えて頂けると幸いです。
ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました。