美少女戦士に転生しまして
*ほぼ設定のみ *微百合要素あり。
私、一 睦月は、美少女戦士をやっております。
ええ…自分で言っちゃうんです。美少女と。だって、しょうがないじゃないですか!! そういうものなんですから。
さてさて、ここは『少女マンガ』の世界。
どどーんと、ワードを並べます。
『転生』『少女マンガ』『ヒロイン』
以上のキーワードで解って下されば…ええ、転生しました。
少女マンガの世界でヒロインに。
しかも、ばっちりこの世界の設定など、余す事なく覚えています。
――だって、私……前世でこの作品の作者だったのです。
私は、前世では新人漫画家でした。
編集の企画で、『アニメ化』ありきの作品を描かせていただく新人漫画家に抜擢されまして、担当編集者と打合せの切磋琢磨の日々。日夜、プロットを練ったり、ネームを描いたり、原稿を描いたり。アシスタントさん達に囲まれて、まさに文字通り、命を削って描いておりました。幸いにもアニメは好評を得て、第二期の報告をもらった時に……過労で倒れて…そのまま……。ってわけです。
漫画もアニメも大人気だったので、さぞかし贅沢な暮しをしていたと思われますよね? まったくそんなわけもなく。新しい仕事場、アシスタント代などで、出版社に借金を抱えていたくらいで。しかも、新人漫画家の原稿料…しかも少女漫画家は少年漫画や青年漫画よりも、ずっと相場は安いのです。グスン。
連載開始当初はかなりの極貧の生活をしいられ、アニメも軌道に乗って、グッヅ販売も好調。ようやく借金も返せて…ってこれからって時にですよ! いやー。もう、漫画家になんかなりたくない。ちゃんと、恋愛がしたかった。おっと、すいません。話が脱線いたしました。
さてさて、この世界は前世の私が描いた作品『美少女戦士☆the lunar calendar(陰暦)』は、文字通り陰暦を捩った名前の女の子たち12人が、和風ゴシックメイド服みたいなミニスカ戦闘服で悪と戦う話です。
なぜ、その事に気付いたかといいますと、その12人の女の子は同じ施設に暮らしていまして……。
色とりどりの髪の色をした美少女たち。極めつけに、名前が私が安易に考えた陰暦。如月やら睦月やら師走までいると…もう、記憶が戻らない方がおかしいと。
そして、彼女たち、一人一人に辛い過去があるのです……すいません。それも私が考えました。
その鬼畜な設定を担当さんとインド料理を食べながら、『みんな、親なしにしよっか! 不幸な過去があればある程、読者のハートを捉えるじゃない?』『いいですね! そのアイデアいただきですっ! トラウマなんか強烈なのいれちゃいましょうか?』『いいじゃん。いいじゃん』と、アルコールがはいりながらの打合せ(会社経費)……酔っ払いの戯言で、彼女たちに創られた“トラウマ”に罪悪感が半端ないのです。
私の場合、6歳の頃に両親が交通事故で亡くなり施設に入所しました。そこで出会ったキャラ達……。
みんな、瞳の色が暗く、一切光がなかった……笑顔がなく、眼が死んでいたのです。
前世の記憶が戻った私は、もうっ!! 頑張りました。
「私が、この子たちを救う!!!」
自分の作ったキャラクターは、いわば我が子です。
いえ、この世界のキャラクター全員が、私が作った…我が子たち!!
みんな、みんな、大事です。
いうならば……美少女戦士となった12人の……いえ、地球の敵となる、悪のキャラクターも私の子!!
みんな、みんな、救いたい!
一人、一人のキャラクターの“トラウマ”原因は、熟知しております。その原因の事件にキャラクターの設定も頭の中にばっちりです。(前世での私は、キャラクターの人生を妄想するのが大好きで、キャラクターの全員の人生表を作っていました。プロフィールはもちろんのこと、誰と結婚して、子供をもうけるか、漫画には使わない設定もワンキャラ、ノート見開き2ページに詳細に書き込んでいました)
――そして
とうとう、美少女戦士となる13歳になりました。
因みに、サポートキャラのペットはピンク色をしたオカメインコのムーンちゃんです。
すでに、敵も含め、みんなの“トラウマ”を取り払ってしまったんですけどね。みんなの笑顔が明るくなって、私は幸せです。
選ばれた、12人の美少女戦士。
それに、敵対する“月影の帝王”。
夜中の世界が寝静まった時間が私たち美少女戦士の時間。
さぁ! みんなで地球の平和を守るのよ!!!
の……はずが……。
「「「「「「「「「「「睦月ちゃーん!!」」」」」」」」」」」
私の腰に巻き付く手。水色の髪をした如月。 私の左右の手に絡んでるのは、弥生と卯月の双子。皐月と水無月はずっと月影の帝王を睨んでいるし、文月は変身後にも関わらず、文庫本を手にしながらも、目線はこちらをチラチラ。葉月はスマホで、なぜか私の顔を「パシャッ」と撮って、長月は私の髪の毛をいじっている。水無月と霜月に師走は、軽く雑魚敵をやっつけていました。
対する月影の帝王。
黒いマントに、顔にはヘンテコなマスク。(すいません。私が考えたのに)雑魚敵を従えて、なにやらプリプリしております。
「お前ら、俺の睦月に近づくな!」
「何よ! “月影の帝王”なんて名前がついているあんたに言われたくない! 厨二病がうつるでしょ! しっ! しっ!」
色違いの和風ゴシックメイド服調の戦闘服を着つつも、なぜか敵の月影の帝王(正体は担任教師)と、私の取り合いになっているのです。 あれ? 月影の帝王さん…地球征服はいいのですか? え? もう、そんなつもりはない? ああ、そうですか。すいません。
「お、お前らな!! 次の中間テストで、覚えていろよ!!」
「わーーー、職権乱用。信じられなーい。 嫌いよね? こんなコスプレロリコンな大人って、嫌いよね? ね? 睦月ちゃん」
「そ、そうなのか!? 睦月!! 嘘だから、嫌わないでくれ!!!」
「………ア、ハハ、ハハハ」
戦う理由もないのに、どうして私たち集まっているのでしょう。 え? 私の所有権の取り合い? どういう事ですか?
すっかり、全キャラを落としてしまった私……。
おかしい。百合属性なんて、キャラクターにはついてないはずなのに。
☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆
哀れ、睦月は気付いていなかった。いや、前世では忙しくて、そこまで目が届いていなかったのだ。
この世界は、確かに前世の睦月が作った少女マンガの世界。しかし、この世界に共鳴し、色々な他者の手で創られた“二次元(同人誌)”の世界も、カオス的に繋がっていた事を。美少女12人の世界は、特に大人の男性読者の心をつかみ、めくるめく“百合”の世界が、拡がっていた事を。
「「「「「「「「「「「睦月ちゃーん、大好き」」」」」」」」」」」
睦月がそれに気付くまでのカウントダウンは始まっている。
「あれ?」
**キャラクター表**
一 睦月
二島 如月
三谷 弥生
四方田 卯月
五十嵐 皐月
六車 水無月
七海 文月
八雲 葉月
九紀 長月
十川 神無月
十一夜 霜月
十二里 師走
髪の色もそれぞれ違う。
みんな、(恋愛的に)睦月が大好き。
睦月…今世でもちゃんとした恋愛が出来そうにない。