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世界が終わる日のこと

作者: 霧島卓兎

深夜のテンションで書いてしまったものです。

朝起きて見直すと……後悔!

とりあえず掲載してみます。

「なぁ美空、これからどうしようか」

「うん、そうね寛人」

 本日はおれの誕生日。しかし、どうやら今日、世界が終わってしまうらしい。理由はよくわからない。各メディアは地球が滅ぶという旨だけしか報道しなかったのだ。ただの学生であるおれ達は、その事実を受け入れることしかできず、二人で手を繋ぎ、呆然と世界滅亡へのカウントダウンを続けるテレビを見つめるばかりだった。

「……俺たち、付き合って何年目だっけ」

「付き合い始めたのは中学2年生の頃くらいだから、五年目だね」

「五年も付き合ってるとなると、大人ならとっくに結婚してるかもな」

「……そだね」

一時沈黙。気まずい空気が流れる。

 おれは今までずっとおれの力で、一生美空を養っていく事を夢にみていた。そのような未来を築くために、あくせくとするのが現在の生きがいである。いや、であった。

 しかし、そんな未来はもう来るはずはない。今日で世界は終わってしまうのだから。

 ひたすら続いた沈黙の中、美空はポロポロと涙をこぼし始めた。

「どうしたんだ?」

「……だって、もう寛人と一緒にいられないのが……悲しくて、私……ずっと寛人についていくのが夢だったのに……」

「……あぁおれもだよ」

 おれは美空がおれと同じようなことを思ってくれていることが純粋に嬉しかった。だが、同時にそんな未来がもう来ないことを恨めしく思ってしまう。そんなことを思うと、途端におれは悲しくなり、美空の肩を抱き寄せた。美空は抵抗すること無く、おれに身を委ねてくれた。

「ねぇ寛人」

「何?」

「やってみる?」

「何を?」

「……言わせないでよ」

 おれは美空が顔を赤らめ、目を背ける仕草をみて、美空が何を表していたのか、それとなくわかった。

おれみたいな男に五年も付き合ってくれた美空には色々と迷惑をかけてしまった。それにおれは心から美空のことを愛してる。だから、美空が望むなら、何でもやってやりたい気持ちであった。しかし。

「そんなことできない……」

「……そうなの。我慢はしなくていいよ?寛人に何されようが……嬉しいし……」

「我慢とかそんなのじゃなくて……おれはお前との子がちゃんと養えるくらいになってからじゃないと、したくはない」

 これはおれの中で決めたルールである。無鉄砲に快感だけを得たくは無かった。折角、人間に生まれたのだ。最後の一瞬まで、美空とは理性ある恋を続けていたいとおれは思った。

「……そう」

 おれの言葉の後、美空は少しだけ悲しげな表情をしていた。思い返せば、美空は普段からこんなことを言い出さないため、こんな提案をされたことには驚いた。もしも、この提案を出すまでに、彼女の中で色々と考えが巡り、ようやく踏ん切りが付き、勇気を出して取った決断が無下にされたとするならば、美空にとって、おれが否定したことは悲しいことでは無かったのでは無いか。

 もしも、本当にそうだったならば、美空に何かプレゼントを。世界が終わる今日に、一生思い出に残るプレゼントをしてやりたいと思った。思考を張り巡らせると一つの良案が思いついた。

「行こう美空」

 運よく本日はおれの誕生日。おれは美空の手を引き、家を飛び出した。



「着いた」

「急にどうしたの?……市役所?」

そう、おれが尋ねたのは市役所。美空に最高のプレゼントをあげるために。

「美空!結婚しよう!」

「へっ!?いっ……いきなり!?」

美空は驚いた表情を見せた。いきなりプロポーズしたおれとしては、その反応は実に嬉しいものだ。

「今のおれにはお前を養っていけるかわからない。でも、頑張れば何とかはなると思う。こんなおれでいいなら、おれと結婚して下さい」

 おれはこんな無鉄砲な決断をしたのは初めてだった。今までは全ての準備を整えてからでないと、おれは決して実行には移さなかったから。しかし、今回はもうこれでいいのではないか。何せ、時間がもう残されていないのだから。美空が喜び、美空が傷つかない。そんな最高のプレゼントは、結婚しか思い浮かばなかったのだから。おれは美空に向かって手を突き出し、返事を待っている。

 すると、美空は驚き、大きく見開いた目に涙を溜め込み始め、おれの手を優しく包み込んだ。

「はい……喜んで!」

 美空がそう告げると周りからパラパラと手を打つ音が聞こえてきた。どうやら道行く人が足を止め、おれ達を祝福してくれたようだった。おれはこんな大勢の前でプロポーズしていたのかと思うと急に恥ずかしくなってしまう。

 そんなおれ達の元にカッターシャツを着た小太りの男が近づいて来る。

「おめでとう、私はここの役所の職員だ。婚姻届けの手続きをしよう」

 おれ達は男について行き、一つの窓口に辿り着く。

「さぁ、この紙を埋めて」

 おれ達の前に男が一枚の紙を差し出した。その紙の上部には婚姻届けとゴシック体で書かれてある。おれがボールペンで一通り空欄を埋めていくと、美空があることに気づいた。

「印鑑……」

「あっ!!」

 完全に盲点であった。手元の婚姻届けは印鑑を打てば完成というところまでできていたのに。

 男の耳に美空の声が聞こえたのか、婚姻届けをヒョイと男はおれ達から取り上げた。

「あの……今から印鑑を取りに帰るんで」

「帰る時間はあるのかい?」

 男は野太い声で言った。時刻は2時52分。世界滅亡まであと一時間を切っていた。

「今回だけは認めよう。次回からは持ってくるように!二人ともおめでとう!」

 男がそう言うと、書類を受け取った。どうやら手続きを終えたようだった。

「式はどうするんだい?」

「えっと……それは……」

「急いで結婚を決断したみたいだね、ガハハ」

 男はそう言って高らかに笑っていた。

「いいよ……寛人。式なんてあげなくても。私は寛人と一緒にいれれば、それだけで嬉しいよ」

「でもお嬢さん、今日はおそらく人生で一番嬉しい日だ。質素な物でいいなら私達でどうにかしよう」

 男はそう言うと役所にいる職員を全員呼び集め始めた。




 式は市役所の前の広場で行うこととなった。男は両親は我が子の晴れ姿をきっと見たいだろうと思ったのか、街中に式の案内のアナウンスを流したため、両親どころか見知らぬ人まで式に参列していた。

「ふむ、市役所の中には職員が10名か。ガハハ、無断欠勤もいいところよ、さて式を始めようか」

「はい、お願いします」

 男が合図を送ると市役所の中から美空が美空の父と共に歩いて来た。化粧道具を誰かから借りたのか、美空の唇には紅が引いてある。

おれの元まで美空が辿り着くと、美空の父が口を開いた。

「美空、いい人に出会えたね。寛人君、娘を頼んだよ」

「……はい」

「えー、それでは、誓いの言葉を」

男は神父の役を演じてくれているようだった。おれはありがたくそれに乗じる。

「私、松井寛人は生涯、妻である広瀬美空を生涯愛し、喜びは分かち合い、悲しみは共に乗り越え、永遠に愛することを誓います」

「私、広瀬美空は生涯、妻である広瀬美空を生涯愛し、喜びは分かち合い、悲しみは共に乗り越え、永遠に愛することを誓います」

「では、誓いのキスを」

 おれは美空を抱き寄せ、お互い目を瞑り、ゆっくりと唇を重ねた。少し時間が経ち、唇を離すと再び、おれの視界に美空が現れる。

「美空、今までありがとう」

「なに言ってんの、これから結婚生活が始まるんでしょ」

 美空はもう目の前の絶望を考えたくはないようだった。おれもそうだ。絶望なんてしたくはない。

「あぁ、そうだな。美空愛してる」

「私も寛人のこと愛してる、大好きだよ」

 ここに残すのは、美空への最高の愛と最高の感謝を……。

 おれ達が再び唇を重ね合わせた瞬間、世界はついに終わりを迎えた。おれは息絶える瞬間まで、人生を後悔することは無かった。

 最高の人生だった。


こんな駄文を読んで頂きありがとうございます。


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