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第四話

 次の日、アリーシャは朝早くから宿の朝食を頂き、そのまま外へと出た。

 無論、目的のあっての行動だ。昨日から今日は行く予定の場所がある。 



「早朝だと言うのに、随分人が多いんだな……」



 クラス拝命所へ向かう道程の大通りで、周囲を眺めていたアリーシャが呟く。

 彼の元居た世界も戦争やらでそれなりに騒がしかったが、首都などの朝はやはりそれなりに静まっていたものである。

 それがリブルーラはどうだろうか。冒険者と思わしき人々が集い、門に向かって歩いていく。

 商人と思われる者がなにやら走ってどこかへと駆け出す後姿。

 朝早くだと言うのに既にあちらこちらには露店が見え、多くの店が次々と開店していく。

 時刻にすればまだ七時頃だと言うのに、だ。



 時に露店商などに声を掛けられながら、あるいは、どこか軽薄そうな身なりの男性に声を掛けられながらアリーシャは進む。

 向かっているのはリブルーラの中央区に位置する、公的機関が集う一帯。

 図書館も実はそこにあったのだ。他にも冒険者登録所や、今日目的のクラス拝命所。

 ただしくは職業クラス選定所と呼ばれる、その者が現在なれるクラスを見定め転職出来る施設。

 それもこの中央区に位置している。とはアリーシャが宿屋の主人に聞いた情報、そして図書館で得た知識であった。

 アリーシャが石を煉瓦状にして舗装した道を歩くたび、軍靴がカツッカツッと音を立てる。



 他にも着ている軍服は正装用の為、肩には特殊な装飾。

 袖などには宝石をあしらったボタンなどなど。腰に刷いたブロードソード――先日購入した――と、その意志の強さを窺わせる容姿と相俟って。

 一種、近づき難い雰囲気がアリーシャからは放たれている。

 元々アリーシャは生前より幾分固いタイプの人間であったのだ、やや頭が固いと言うか、頑固な部分もあろうか。

 そんな人物が歩いていれば当然、人々には少なからず注目を掛けられるというものなのだが、大隊長として人前や、大勢の軍人の前に出ていた経緯から、敵意の無い視線にはほとほとアリーシャは無頓着である。



 宿から出て十数分、中央広場にアリーシャは到着した。

 中央には魔法で地下水を汲み上げられ、盛大に噴水が空を奔っている。季節は不明だが、朝でもそこそこの暑さであり、その細かい水しぶきは心地が良い。

 落下した水はそのまま細い専用の水路を流れ、街中を巡って最後には地下に戻っていく。

 夏場は涼しく、冬は噴水が停止することで凍結を避けている代物だ。

 この広場を囲むように様々な公的施設、神的施設が立ち並んでいるのがアリーシャには見て取れた。

 大部分は昨日の図書館訪問で熟知している。



 南門から真っ直ぐ入り広場に行くと、右手に大図書館、左手には役所が。

 図書館の隣には探知の神“イーディア”を信奉するイーディア神殿が建っており、そこでは自身の信奉する神に関した情報その他が調べられる。

 逆に役所の隣には冒険者登録所が並び、その更に隣にアリーシャの目的である職業クラス選定所が続いていた。

 北側から入ったアリーシャは円状の広場、その右手側に存在する大きな建物。

 モダン建築な感じであり、役所と近い雰囲気だ。





「すまない、ここでクラスの紹介を受けられると聞いたのだが」

 


 建物に入ると、右手と左手に二階へと繋がる階段が。

 そして正面には横一杯のカウンターが存在し、三名程女性が資料整理らしき事をしていた。

 その中の中央に位置する場所に居た女性に、アリーシャが臆する事も無く声を掛ける。

 アリーシャの姿に一瞬メガネを掛けた三つ編みの、恐らく人間種ヒューマンの女性が一瞬驚いた顔を何故かしたが、直ぐに笑みを浮かべ口を開いた。


 

「はい、こちらではその人が現在なれるクラスを調べ、転職することが出来ます。もしかして、初めての方ですか?」

「ああ、良かったらどうすればいいか教えてもらえないだろうか?」

「畏まりました。と言ってもそう難しい事ではないんです、それでは取り敢えず右手の階段から二階へ上がって下さい」



 そう言うと女性はカウンターの奥に向かう。見ればどうやらそちらにも階段がある。

 取り敢えず言われたとおりに階段へと向かい、そのまま二階へと進んでいく。

 幾分急勾配なそれを上ると、幾つもの仕切り付きの小部屋がある中部屋へと出た。

 その数五つ程だろうか、入口は簡単な押し扉であり、空白の下部からは奥に椅子が垣間見える。

 さて、どうすればいいのかと思案した時、奥の階段から先程の女性が向かってきて口を開いた。



「それじゃあそうですね、取り敢えずこっちの小部屋の椅子に座ってもらっていいかしら」


 言われた通り扉を押し、対面式のカウンターに備えられた椅子に座り込む。

 すると、反対側の扉から女性が入ってきて向かい側の椅子に座り込んだ。


「先ずは貴女の現在なれるクラスを見定めます。この水晶に手を置いてもらえるかしら」



 見ればカウンターの中央には、両手で握っても余りある大きさの水晶が台座に嵌め込まれている。

 これこそがクラス判定の水晶であり、特殊な魔道具マジックアイテムだ。

 アリーシャが言われるままに、そっと両手で水晶の横を包むように触れる。

 すると、水晶の中心にゆらゆらとした文字列が浮かび消え、また浮かんでいく。

 都合数度、それら全ての文字列を女性は備え付けの白紙に羽ペンに素早く書き込む。

 全てを書き込むと、女性が幾分驚いた表情のまま口を開いた。



「驚いたわ……貴女、無職だったのね。それなのにこんなクラスが出るなんて――」


 

 そう言って先程書き込んだ紙とは別の紙を用意し、何やら書き込むとサッとアリーシャに差し出す。


 クラス:ウォリアー

 条件:肉体を鍛えた経験がある。武器を持ったことがある。

 効果:体力・筋力の成長性にボーナス。及び体力・筋力に上昇補正。


 クラス:ナイト

 条件:肉体を一定以上鍛えている。盾と片手剣の扱いを一定以上習熟している。

 効果:体力・筋力の成長性にボーナス。及び体力・筋力に上昇補正、敏速に下降補正。更に物理耐性が上昇する。


 クラス:ソードマン

 条件:肉体を鍛えたことがある。刃物の扱いに慣れている。

 効果:筋力・敏速の成長性にボーナス。及びそれらに上昇補正。重装が装備できない。


 クラス:ブレイダー

 条件:肉体を一定以上鍛えている。剣の扱いを一定以上習熟している。一定上の敏速成長性を保有している。

 効果:筋力・敏速の成長性にボーナス。及びそれらに上昇補正。二刀を装備出来る、重装が装備できない。


 クラス:マジックナイト

 条件:一定以上の肉体鍛錬、剣系習熟度を有している。魔力の成長性が一定以上、あるいは魔法適正の高い種族である。

 効果:体力・筋力・魔力に少々の成長性ボーナス。及びそれらに上昇補正。


 クラス:シーフ

 条件:一定以上の敏速の成長性を有している。

 効果:敏速・器用度の成長性にボーナス。及びそれらに上昇補正、体力に下降補正。重装備ができない。


 クラス:アーチャー

 条件:弓を扱った事がある。

 効果:器用度の成長性にボーナス。及びそれらに上昇補正、体力に下降補正。


 クラス:マジシャン

 条件:魔力の成長性が一定以上。あるいは魔法適正の高い種族。

 効果:魔力・精神の成長性にボーナス。及びそれらに上昇補正、体力・筋力に下降補正。


 

「こ、これ全部だと――?」



 思わず漏れた言葉だが、女性も苦笑を隠せないようである。

 よく見れば分類的にはウォリアーの上位置換と言われるナイトや、ソードマンの上位置換とされるブレイダーなど、一部には初期から出ないと思われるようなクラスまで見受けられた。

 女性にしてもここまで多くの。いや、中位職が初期で出る人物を見るのは初めてであった。

 ある意味ではアリーシャ以上の驚きであったと、そう言えるかもしれない。

 女性の勤務暦はもうかれこれ、既に五年以上なのだから――



「す、すまない……明日もう一度来てもいいだろうか?」



 流石にこの多さを見て、即時決断は無理だ。

 しかもクラスは一度決定すると、上位置換にしか転職出来ないと言う制約がある。

 魔力の才能は無いことからして、選ぶなら近接職だが、それでも即断するのは危険だろう。

 そう判断した結果の言葉であった。まさかアリーシャもこんな結果になるとは思っていなかったのだ。



「ええ、構いませんよ。わたしもこんな結果は初めてですし……あっ、こちらの紙はお持ちになって構いませんので」

「助かる。では、迷惑を掛けた」



 そう言ってアリーシャはクラス拝命所を後にした。

 まだ時刻は昼前だ、このまま戻るのも味気が無いというもの。

 そう判断し、予定の繰上げとなるが、先に冒険者登録所に向かう事にする。

 すぐ隣の冒険者登録の、クラス拝命所や役所と似た作りの建物へと入っていく。

 建物の中はクラス拝命所と同じような作りであり、代わりにカウンターの一定毎に衝立がされている。

 さて、どの衝立に入るかと悩んでいると――



「いらっしゃいませ、冒険者登録ですか?」 

「ああ、構わないか?」


 中央の耳が長い銀色の髪が艶やかな、年の頃二十前後の長身の女性が声を掛けてきた。

 にこやかな笑みに背中を押されるように、気づけばアリーシャの口からするりと返事が零れていた。 


「はい勿論ですよ。それではこちらの紙に必要事項を記入して下さい」


 

 そう言って渡された紙に目をやれば、名前や現在のクラス、信奉している神。

 他にも何故か年齢や身長まで、いささか必要なのか? と、そう思ってしまいそうな項目まで幾つも存在していた――


 


 その後、書き込めない部分は空白で提出し、必須事項と言う部分だけは埋まっていたらしく、冒険者であると言う証拠の、通行手形にもなる金属製のカードを貰う。

 注意としてカードは再発行にお金が掛かると言われる。それも銀貨十枚と、中々に高い。

 その後はリブルーラを一通り探索し、夕暮れと同時に一度帰宅。

 店主の出す美味い飯を食べ、慣れそうにない風呂を済ます、残りの時間はクラス拝命所でもらった紙二枚。

 より詳しいクラス情報の載ったそれと睨めっこをしたのであった――――







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