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第二話

主人公の背丈を150以下から、150とちょっとに変更しました。




 ――交易都市リブルーラ。

 世界最大の大陸“アハートゥ”にある商業国家、“ネプセントリア”の数ある交易都市の一つだ。

 リブルーラはその中でも中規模交易都市に位置し、その人口は10万人相当にも及ぶ。

 このリブルーラはアハートゥでも東にあるネプセントリア。その中でも西に位置し、他の国家への共通ルートとして人の行き交いが激しい。


 そのお蔭で物流も激しく、様々な国の品々が市では並んでいると言う。

 物の消費も激しくなるため、一部の物価は割高であったり、宿の類も通常に比べると高いと言う弊害はあるが、多くの情報を入手するには打ってつけと言えよう。



 と、そこまでリブルーラに関する記述が載った書物を読み解き、アリーシャは軽く息を吐く。

 元来は無学者であり、本を読むよりは身体を動かす方が性に合うアリーシャだ。

 いまだ2時間とこの“リブルーラ大図書館”に訪れてから経ってはいないのだが、早くも軽い頭痛に見舞われていた。

 尤も、それはアリーシャの教養と関係なく、文字が強制的に視覚と脳内で母国語に変換されていく為、通常より負荷が激しいのが理由なのだが、無論アリーシャの知る所ではない。

 休憩がてら、アリーシャは昨日の事を思い出す――――





 ――アリーシャがリブルーラに到着したのは日が暮れる直前であった。

 門番にはあの神が気を利かしたのか、様々な都市や国家で通用すると言う通行証を見せる事で難なく入る事ができた。

 地図上では交易都市としか載っていなかったが、中々に大きな都市であり、行き交う人々も見たことない人種ばかりでアリーシャは酷く驚いたものである。


 エルフやドワーフ、ホビットやゴブリン、他にも色々な獣の特徴を備えた獣人族や、古より魔物の血を引くという魔族。

 割合的には人が一番多いが、全体で見れば通常のヒューマンは5割を下回っているようにアリーシャには思えた。



 それだけはない。都市模様も随分とアリーシャの世界とは違う。

 いや、共通部分も多いのだが、それに混じって見たことのないものも多いのだ。

 都市は城塞式であり、東西南北に門以外は堅牢で高い石壁により囲われている。

 都市の大きさは直径1キロはあるだろうか。通路は石畳で舗装され、民家も煉瓦式が多く見られた。

 神殿のような施設、身分の高い者が住む地区、一般的な住居地区や民宿地区などなど。



 逆に意味不明な魔法なんたら店や、空中で浮かぶ巨大なクリスタル。

 空を我が物顔で飛んで移動する人々。一部には物理法則を無視しているとしか思えない、“空中庭園”のようなものさえ、アリョーシャの瞳には見て取れた。

 広場に向かえば魔法で滾々と湧き出す噴水や、空中に浮かぶ看板など。

 およそ元の世界ではあり得ない光景であった。



 取り敢えずその日は近くの酒場に入り、この世界の酒を楽しみつつ適当な宿の情報を入手することにするアリーシャ。

 見た目が少女の為、最初は入店を断られるかと警戒したのだが、そのような事もなく入れたのには脱力したものである。

 この世界。容姿と年齢がイコールではないことなど、ザラに存在しているのだ。


 酒場は日が暮れる直前であるせいか、じょ々に人が集まっていき、アリーシャが退出する頃には席の殆どが埋まっていた。

 酔った数名がアリーシャをナンパしようと声を掛けてきたが、軽くあしらわれてしまう。

 アリーシャに男と付き合う気など1ナノミクロン程もない。



 幸い、そこまで柄の悪い者は訪れない酒場なのか、断ったからと言って「あんだとゴラァッ!!」的に襲い掛かってくる。

 なんてアリーシャの世界ではよくあった出来事にはならずにすんだのは、それこそ幸いであったろう。

 アリーシャにしても、己より身体能力が優れている程度であれば、十分に相手取る程度は容易いと思っている。

 が、そこに明確な武術。それも手錬の者ならば容易くは無いだろうとも考えていたのだ。

 特にここは異世界。アリーシャの知らない武術や、魔法なるものもあるのだ、油断は命を容易く脅かす。

 その後、どうやら生前程酒には強くないらしく、やや赤みの差した頬で紹介された宿屋に向かう。





「すまない、部屋は空いているだろうか」



 リブルーラの南門。そこから真っ直ぐ進み、東地帯。つまりは民宿地区へと進み、目的の宿屋“安らかなる停”へと入る。

 宿屋の等級としては下の上。朝食と夜食、それに風呂は部屋に完備だが昼食は外で食べる決まりだ。

 値段は1日で銀貨1枚に、銅貨30枚。この等級としてはやや安い方だろう。

 アリーシャがカウンターで立っている主人。酒場のマスターから聞いた特徴と一致することから、ここの主人に間違いないない。

 その主人に話し掛ければ、筋肉質で大柄な人間族ヒューマンの主人だと思われる男性が口を開いた。



「お嬢さんのような人が泊まるにゃぁ、ちっと品が足りないと思うがいいのかい?」



 さっと服装やら容姿やらを素早く眺めた店主が、恐らく身なりから推測したのだろう。

 遠まわしにもっと他があるだろう。厄介ごとはごめんだと、そう告げてくる。

 確かに、この都市を軽く歩き回ったアリーシャでも、この軍服以上に作りがしっかりした衣服は1名も見かける事はなかった。

 これでも死ぬ前には王族身辺警護及び、騎士大隊長の身であったのだ。


 正装用のこの軍服も他とは違い特別製であり、一着で家が建つ代物である。

 容姿と合わせれば、どこかの上流階級の息女。しかも護衛も無しな事から、何か厄介持ちだと判断しても無理はないだろう。

 それを察したアリーシャが、誤解のないよう言葉を紡ぐ。



「主人が言いたいのは分かるが、安心してほしい。私は別に身分が高い訳ではないし、この宿屋も酒場のマスターから教えてもらったんだ。迷惑は掛けないさ」


 酒場のマスターと聞いて、厳ついオヤジの顔が一瞬驚いた表情を見せる。


「あいつがね……あれで職業柄人を見る目はある奴だ。よし、分かった! 鍵はコイツだ。部屋は2階の206号になる。料金は先払いで、毎朝まだ泊まるのか朝食時に聞く決まりだ」



 どうやら酒場のマスターとは旧知の仲らしく、驚きの表情から一転、温かな笑みで鍵を渡してくれる。

 人柄も良さそうなのを見るに、料金のわりに良い宿を見つけたかもしれないとアリーシャは内心で喜ぶ。

 生前。まだ稼ぎが悪かった頃、それこそ宿と言えないような場所で泊まった事も数知れずだ。

 酒場のマスターに感謝しつつ、銀貨1枚に銅貨30枚を異空間から取り出し、カウンターにざっと並べる。

 それを素早く数え、筋骨逞しい主人が口を開く。



「確かに……食事は一時間後だ、少し遅れても構わないが、あまり遅いと冷めちまう。不味い飯が嫌なら早めに降りてくることを勧めるよ」

「忠告痛み入る」



 そう言って主人に背を向け急勾配な階段を上り、2階の指定された部屋に向かう。

 どうやら他にも10室程あるらしく、半分以上の部屋からは人の気配を感じ取れる。

 206号室のノブを回し中に入る。部屋は一室のようで、それにトイレと一体の小さな仕切りタイプのシャワーが一緒になった個室。


 一室とは言え、簡素なベッド以外は小さなテーブルと椅子だけのせいか、そこまで狭くは感じない。

 取り敢えず椅子を引き、そこに座り込めば、ギィッ――と、年季の入った木製特有の軋みが鳴った。

 しかし、作り自体はしっかりしているのか、壊れそうと言う感じはしない。


(さて、と明日は情報入手を優先するとして。金銭の確保ルート、これは早急にどうにかしないといけないだろうな……)


「確か……入っていた金額は、金貨10枚分だったか。酒場と先ほどを差し引いても、金貨9枚と銀貨複数。暫くはどうにかなるだろうが、安物でも武器は欲しい。その値段によって、この先の路銀確保の優先度は変化しそう、か」



 何をするにしても金だ。生前より金銭には色々な意味で関わりの深いアリーシャは、人より金銭に関しての意識が強いという自負がある。

 使うにしろ、そうでないにしろ、多くあるに越したことはないのだ。

 未だ物価や貨幣価値が不明な事を考えれば、明日はその辺を先ず調べるべきだろうかと思案する。

 金銭に関しては剣さえあれば、生前と同じく傭兵と言う手も取れるのだ。

 そこで気になる点は魔物と言う存在だな、とアリーシャは思考する。



 どれ程手強いのか。それを金銭に絡められるのか。

 それに魔法。魔物もアリーシャの世界には居なかったが、魔法も未知数だ。

 名前だけではどのような物かすら検討が付かない。これは魔物にも当てはまるのだが……

 明日は武器の購入と、これらを知ることが最重要課題だな、とアリーシャは明日の行動方針を決定する。

 と、そこで緊張が和らいだせいか、尿意が急激に襲ってくる。



「ッッ……トイレはっと」



 情けないながら、女性となってのトイレは初経験。

 どうも溜めすぎたのか、歩く度に漏れそうな気がして、歩き方が酷くぎこちないものとなってしまう。

 生前では度々お世話になった相棒の存在がないせいか、酷く下半身に違和感を感じる。


 これは暫くは悩みそうだと思考しつつも、なんとかトイレに辿り着く。

 これで衣服が女性用であれば、脱ぐのに手惑い、もしかしたら失禁などと言う最悪の事態になっていたかもしれない。

 が、今は軍服。脱ぐのは手馴れたものである。



「ッ――ふぅ……」



 男なら愚息のお陰でそうでもないのだが。

 やはりホースのない女性だと、気をつけないと股に少々飛び散ってしまうらしい。

 排尿の何とも言えない感覚に背筋をぶるりと震わせながら、備え付けの柔らかな紙で股間を拭く。

 と、そこで初めてマジマジとそこを見てしまったのだが……



(肉体年齢は確か……16歳であった筈。それにしては随分と、何と言うか……“幼い”な)



 女性のソコを見たからと言って、アリーシャは別段大きな感情を喚起しない。

 生前ではそれこそ何十と女性を抱いた経験があるからだ。

 傭兵とは常に死と隣り合わせである。ゆえに、生存本能が種を残せと性的欲求は人より高まり易い。

 これはアリーシャだって例外ではなかった。

 年上や同年齢、果てには10代の少女を抱いた経験だってある。



 それらの経験から見て、現在の肉体のソレは何と言うか……幼かった。

 ややぷっくりしたそこは皺など無く、ぴったりと閉じている。

 更に言えば無かった。毛が1本も。ツルツルであった――

 アリーシャには知る由ことではないが、美少女は皆パイパンの法則である。

 アリーシャに少女愛好趣味はないのだが、流石にマジマジと見ていれば僅かながらでも性欲が沸き上がろうというもの。



 頭を振り煩悩を追い払う、更に折角だと風呂に入ることにするのだが。

 小振りながら形の良い胸だとか、きゅっとくびれたなだらかな腰だとか。

 肉付きは薄いが魅力的な臀部だとか……水を弾く白く滑らかな肌やら、余計悩ましい思いをしたのは余談である。





「どうしたんだい? 何だか湿気たツラしているじゃないか」



 女性の肉体、それに髪の洗い方など流石にアリーシャだって知る筈もなく。

 取り敢えず何時もより丁寧に洗ってから、そろそろ時間だろうと1階に降りてきたのだが。

 宿屋の主人がアリーシャの顔を見て、訝しげな表情で訊ねてきた。



「いや……ちょっと具合が悪いらしい」

「なんだなんだ。お前さんの身体だろうに……ホレ、取り敢えず食って今日は早めに寝るこったな!」



 流石に自分の裸体を見て、何とも言えない思いに駆られた。

 なんて言える筈もなく、適当に誤魔化しの言葉を告げる。

 すると、ドンッ! と言う座ったカウンター席の前に皿が置かれた。

 作り立てなのだろう。湯気がほくほくと立ち上るそれは、アリーシャの認識からすれば恐らくはクリームや牛乳を使用したシチューではないだろうか。

 幾分見た事の無い材料が見隠れしているが、匂いはクリーミーかつスパイシーで食欲をそそる。



「そうすることにする。では」



 一緒に置かれた木製のスプーンを使い一口。

 野菜による自然な甘味に、スパイスの刺激的な味が口に広がる。

 そのままぶつ切りで入れられている肉を口に含めば、しっかりとほぐれ、思ったより柔らかな感触だ。

 少々癖のある肉のようだが、それがスパイスとクリームに合っている。

 どうやらこの肉体、猫舌なのか、悪戦苦闘しながらもはふはふと一心不乱に食していく。



「良い食べっぷりじゃねぇか。もう一皿、いるだろう?」


 気づけば皿は空で、それなりの量があった筈なのに胃袋はまだまだ入ると訴えている。

 どうやら主人の料理の腕は中々らしいと思考し、アリーシャは告げる――


「ああ、もう一皿頼む」


 自然に異常事態の連続できゅっと引き結ばれられていた唇、それが綻ぶ。

 異世界初の料理は、熱々ながらも非常に満足の行くものであった……







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