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第十五話

 剣を受け取ってから1週間と少しが経過した。

 あの後、剣を一度ラウルへと渡し、剣身にアリョーシャの名と、現在のアリーシャの名を刻み込んでもらった。

 それは持ち主との絆を深める為に必要な行いであるらしい。

 武器以外にも防具も用立てる事が可能らしく、もしコミュニターを通じての市場で満足いく代物がない場合、あるいは何か材料を見つけたら持ち込めと言われた。

 と言っても、まだまだ低レベルの現状では満足な素材すら手に入らないのだが……




「怪我はないか?」


 “明かりの塔”最上階、4層目に居たボス、“アイアン・ガーゴイル”が消滅していくのを確認し、アリーシャが二人へと声をかける。


「……大丈夫」

「私よりアリーシャさんこそ大丈夫ですか? 狂化、それに狂撃、使ってましたよね?」

「んっ、ああ。大丈夫だ、流石に疲れたがそう大したことではない」



 嘘だ。狂化の破壊衝動は凄まじい。一般人であれば、あるいは初心者であれば容易く我を失うのは確実である。

 そして“狂撃”、6レベルで習得したスキルであり、狂化中にのみ使用可能な条件アクティブスキル。

 一撃使う毎に最大生命力の3パーセントを消耗、技力も同上消費する。

 何より、5割の確率で正気度を1消費すると言う狂力なスキルだ――誤字ではない――

 効果はその分凄まじく、相手の物理的防御力を30%この一撃のみ無効化し、更に通常の186%相当の損傷を相手に与える。

 それでいて狂撃1と頭につくことから、成長性を持っている事が分かるのだ、最終的にどれほど強力なスキルへと変貌するのか楽しみであり、同時に恐ろしくもあった。



「でも……」

「大丈夫だ、それより早めに脱出しよう」



 納得いってないと言う顔のリーゼロッテを無視し、有無を言わせず脱出の鈴を鳴らす。瞬間、軽やかな音が鳴り全員ダンジョンから姿を消した。

 一瞬の浮遊感を感じた直後、全員がリブルーラから1時間程の距離にある平原に姿を現す。

 既に塔はその存在を消滅させる瞬間であり、全員が見守る中あっさりと陽炎のように揺らめき消失する。

 アリーシャも含めて全員から肩の力が抜けていく。ダンジョンは脱出まで決して気は抜けないのだ。

 前回ボスを倒して安心したところでバックアタックに会い、軽度とは言えリーゼロッテとエヴリーヌが怪我を負った。

 幸い回復魔法で傷も残らず回復したが、同じ轍は踏まないようにしなければいけない。



「よし、今回の分配を済ませてしまおう」

「……(こくり)」

「分かりました」



 全員が頷くのを確認したところで一度アリーシャへとドロップ品を集める。

 パーティー機能にあるアイテム譲渡を使えば、簡単に相手のアイテムボックスへとアイテムを送ることが出来るのだ。

 今回獲得したアイテムは以下になる。


 ブラッディバットの羽×5対

 ブラッディバットの牙×8本

 レッドウーンズの核×3つ

 ブルーウーンズの核×2つ

 ゴブリンの棍棒×4つ

 ゴブリンファイターの剣×4本

 ゴブリンシャーマンの杖2本

 彷徨う鎧の盾×1つ

 彷徨う鎧の鎧×1つ

 彷徨う鎧の剣×1本

 彷徨う剣の剣×5本

 ガーゴイルの銅像×1体

 ちいさな宝石箱×1つ

 明かりの塔踏破の証×1つ

 シザ・シールド×1つ

 魔力の指輪×1つ

 鋼のロングソード×1つ

 アイアン×3つ

 鉄くず×4つ

 黒色の魔石×1つ

 青色の魔石×1つ  

 


 ブラッディバットはそのまま吸血蝙蝠が大きくなった魔物だ。全長60センチ程もあり、意外に群れずに単独で襲ってくる。

 ウーンズ系はいわゆる不定形生物であり、ゲル状の身体は物理に非常に強い反面、火や電撃、氷の魔法なんかにはかなり弱い。

 特徴と言えば色が属性に対応していることくらいだろうか。

 ゴブリン系は小人のような姿であり、身長は大抵1メートル程だが、一部それより高い者もいる。

 知能はそこそこ高く、道具を扱い、1部は魔法まで使う。

 集団で行動しており、レベル自体は6と、周囲の魔物が7や8であった事を考えればそう高くはないのだが、知能を有する魔物はやはり厄介だ。

 前衛に後衛を意識して襲ってくる為、レベルが低くても侮れない。



 彷徨う鎧と剣に関しては3層目から出現し始めた魔物であり、そのレベルは8と高かった。

 名前の通り、器物に生命が宿ったような魔物であり、鎧は強固な守りを、剣は鋭い一撃を持つ低レベル帯ではかなり強力な魔物と言える。

 魔法剣アリョーシャでなければ彷徨う鎧を切り伏せる事は難しかった事だろう。

 ボスであったガーゴイルも彷徨うシリーズと似た魔物であり、見た目は悪魔を模した石像だ。

 中心で猫が立ち止まるようなポーズで、くろがねの像が佇んでいたのだが、事前知識がなければ魔物と分からなかった可能性もある。

 その防御力はまさに鉄そのものであり、超重量から繰り出される鉤爪はまさに破壊の旋風だ。

 狂化に狂撃を使ったのも、戦闘を長引かせるのを忌避した結果である。



 ガーゴイルのレベルは9。このダンジョン自体がアリーシャ達にとってワンランク上のダンジョンであった。

 確かに魔法剣アリョーシャの攻撃力は非常に高いが、それでも相手は物理防御の高い魔物でありボス。

 しかもレベルも向こうが上となれば、持てる全力を尽くすのが当たり前だろう。

 そんな相手であったが、戦闘時間そのものは5分と掛からなかった。

 短期決戦の為、狂撃を連発したり、火と氷を併用した温度差による攻撃を用いた結果、前衛であったアリーシャこそそれなりにダメージを負ったが、後衛への被害も無く戦闘は終了した。

 お陰で隠しているが、正気度は既に5割まで減っており、どうも狂化後の思考にも違和感を感じてしまっている。

 ドロップ品の中、アリーシャが1つの品に注目した。



「魔力の指輪、か……すまないが、これはエヴリーヌに渡しても構わないか?」

「あっはい、私は構いませんよ。効果は魔力上昇ですか?」

「どうやらそのようだ。魔力値を5上昇させる効力らしい」

「……いいの?」


 話しの流れに気づいたエブリーヌが、少しオロオロとした感じで言葉をつむぐ。


「はい、それにその系統のアクセサリはもう装備しているんです」



 そう言って右腕の、裾で見えなかった部分を2人に見せてくる。

 アリーシャが視線を向ければ、そこには銀色のアンクレットが装着されていた。

 恐らくそれが魔力向上の効果を発揮するのだろう。

 アクセサリの装備数は決まっている。もしかしたら他にも装備しているのだろうか。

 そうアリーシャが考えていると、中々エブリーヌから反応が返ってこない事に気づく。

 あまり好意に慣れていないのか、エブリーヌの表情は晴れない。

 というより、どうすればいいのか分からないのかもしれない。

 ぽんっとエブリーヌの小さな頭に手を乗せ、くしゃりと触り心地のよい髪をかき混ぜるように撫でてやる。



「こう言う時はありがとうって言えばいいんだ」


 するとエブリーヌが言葉無く一度こくりと頷き、己より背の高いリーゼロッテを覗き込むように視線を向け、口をそっと開いた。


「ありがとう」


 短い言葉かもしれない。それでも込められた想いはきっととても真摯なものだ。

 リーゼロッテにも伝わったのだろう、「どう致しまして」と、そう言うと思わずといった感じで笑みを浮かべる。


「アリーシャも、ありがとう」


 くいっと軍服の袖を引かれ、はて何事かを思えばこの言葉である。

 思わずキョトンっとした顔をしてしまう。が、直ぐにアリーシャもリーゼロッテと同じく「どう致しまして」とその頭を撫でながら口にする。



「よしっ、それじゃ後は適当に分配するが、証が欲しい者は?」



 アリーシャの言葉に誰も反応しない。証は図書館で判明した事だが、称号へと変える事が出来る。

 ただ低級のダンジョンの証ではなんの意味も無い為、現状では価値がないと思って間違いない。

 特に反応がないのを確認し、大体図書館で得た知識を参照して売却金額が均等になるように配分していく。

 アリーシャの配分はシザ・シールド×1、アイアン×3つ、鉄くず×4つ、黒色の魔石×1つだ。

 盾は性能的にも今の物より優れているので、2人の好意で譲ってもらうこととなった。

 残りは主にラウルのところへと持ち込むのを考慮してのアイテムである。

 魔石に関してはそれなりの金額で換金も出来る為、資金的にも悪くはない。

 脱出の鈴代は結局全員で負担になったので、ややプラスとなるだろう。



「よし、分配に不満がある者は?」

「……(ふるふる)」

「大丈夫です。それに、元から金銭的にはあんまり困っていないですから」



 確認の為に聞けば、エブリーヌは何時ものように首を振り、リーゼロッテも特に問題はないようだ。

 冒険者で一番揉め事が起きるのは分配である。これは図書館の司書であるフランセットから得た情報だ。

 傭兵も同じことが言えたので、言われなくてもアリーシャはこの辺は徹底するつもりである。

 円滑な仲を保つには、些細な事から大雑把なことまで、気を配る事は非常に多い。

 


「さて、私は今日は宿へと戻るつもりだが、2人はどうする?」



 アリーシャの言葉にエブリーヌとリーゼロッテが考え込む。

 時刻は未だ夕方前だ。野良でも短時間のパーティーに割り込むことは出来るだろう。

 それでなくとも換金所へと赴いたり、道具屋へと行ったり。

 あるいは2人は女性なのだから、身嗜み用の日用品を見に行くと言う選択肢だってある。

 エブリーヌもリーゼロッテも容姿的に言えば非常に整っているのだ、冒険者だからとって自身を磨かないのはアリーシャだって損失だと思ってしまう。

 特にリーゼロッテは細かな所作に上流階級特有の品が見て取れた。これはアリーシャが生前貴族とも付き合ってきた経験上、まず間違いない。



 なぜ上流階級の子女が冒険者を――と言う疑問が沸かないでもないが、そこはまだまだ常識には疎いアリーシャだ。

 余計な事を詮索するのはあまりよくないだろうと自重している。

 もしかしたら、一定年齢時に冒険者として活動するなんて言う風習があるのかもしれない。

 あるいは家訓かもしれないし、とにかくそう言う理由だって十分あるのだ。

 そんな事をアリーシャがつらつらと考えていると、先にリーゼロッテが口を開いた。



「そうですね、1回私も宿に戻りたいと思います。ちょっと汚れちゃったので」

「……エヴリーヌも、お風呂入りたい」


 何やらリーゼロッテの言葉に思うところがあったのか、エブリーヌも賛同気味な声音で続けて言葉述べた。


「では、全員宿屋へと1度戻ると言う事か」

「はい、早く汗とか流したいですしそろそろ向かいませんか?」

「……(こくこく)」



 エブリーヌも賛成なのか、しきりに首を縦に振っている。

 アリーシャはそうでもないが、やはり女性としては汗や汚れは歓迎出来ないのだろう。

 そう言うアリーシャもそれなりに清潔好きではある為、特に反論することもなくリブルーラへと歩き出す。

 街道で魔物が出る事は少ないが、決して無いわけではない。それはエブリーヌとの出会いでも証明されている。

 とある世界では帰るまでが遠足であると言うが、それに習うように3人はリブルーラに到着するまで気を抜かずに歩いていった。




 


 

 

後書き


メインに集中していたお陰でこちらの執筆が遅れました^^;

おかげで、中々書くのに時間を食った上に、暫く文体とか安定しないかもしれません。

二話程は様子見なことになりそうです。

そろそろ一章として展開を進めて行こうと思います。

十五万字以内には一章終了させたいので。


執筆の合間、気分転換など用にようこそ魔界くりふぉとへ!! と言う話しを連載しています。

もしよかったらそちらも見てやって下さいなと、ここで宣伝しておく汚い作者をお許しくださいませ。


それでは、次回の更新でまたお会いしましょう!

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