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第十二話

 左手に挟んだスローイングダガーを最大の膂力で持って投擲。

 まるで撓る鞭のような腕の振りで放たれた3本のダガー。

 寸分違わず額と両目に向かって飛んでいくが、ゴォッと音のしそうな程の豪腕で呆気無く振り払われる。

 正面からの投擲では効果がないと判断するのと同時、咆哮の射程内に踏み込み腹から搾り出すような雄叫びをあげる。

 知能そのものは低いのか、その目にはありありと敵意が浮かび、向こうからアリーシャに向かって突撃を開始し始めた。

 


 両腕を振り上げ、口の端から涎を撒き散らし、振動を地面に伝えながらドスンドスンと巨体に似合わぬ速度で距離を詰めてくる。

 それを迎え撃つようにバックラーを前にしつつ、ブロードソードを構え、更に出し惜しみせずに“狂化”を迷わず使用。

 瞬間心臓がドクンッ! と一際高鳴り、何かどす黒いようなものが血液と共に身体中を掛け巡るのを感じた。

 苦痛とも快楽とも判断のつかない感覚が脳髄を侵し、筋肉が膨張するように力が漲っていく。

 相変わらずドクドクと心臓が早鐘のように煩いが、時間にして一秒足らずで思考がクリアに染まる。



 まるで抑圧されていた何かから解放されたような、そんな素晴らしいまでの解放感。

 肉体に張る力は先ほどとは比べ物にならず、目に映るブラッドベアーの動きは一段遅く感じる。

 今なら軽く人の頭部を果実のように砕くことが出来そうだと、凶暴な笑みを浮かべ自ら走り出す。

 増加された筋力により爆発的な推進力を得て、地面の土を踏み込むたびに散らしてはあっと言う間に距離を零へと変える。

 ブラッドベアーが対処を行うより早く、移動と共に発動した気斬オーラブレードによる袈裟懸けの全力を叩き込む。

 まるで鉄のような感触が毛皮越しに伝わるが、それを無理やり振りぬく。



「チィッ、浅いか!?」



 浅いとは言え、噴出する血に構わず振るわれた両腕をバックステップで回避。

 同時に鈍い音が響き、地面に深々と爪痕が刻まれる。

 まともに食らっては胴体がグシャグシャになりかねない膂力だ。

 それを理解しても、思考を埋め尽くすのは破壊衝動。

 その肉体をズタズタに斬り裂き、肉の塊に変えたくて仕方が無い。

 湧き上がる力が捌け口を求めて体内を彷徨っている。



「オォオォオオッ!!」

『ブルァアァアアァッ!!』



 気づけば獣の如き咆哮をあげて再び一歩踏み込み、ブラッドベアーと死闘を繰り広げていた。

 摺り上げるようにブロードソード跳ね上げた瞬間、その太い両腕に阻まれ、逆に振るわれた片腕をバックラーで無理やり逸らし。

 高速の突きを重斬を交えて繰り出し肩口を抉ってやる。

 瞬間筋肉の収縮に巻き込まれブロードソードが固定されてしまい、振るわれた豪腕の先、爪が脇腹を抉っていく。


 軍服の防御力を越え、3本の爪痕が刻み込まれジクジクと傷が熱を持ち鮮血を垂れ流す。

 痛みを興奮にドパドパ溢れた脳内麻薬で中和し、筋肉を引き締め血を止め、更にダガーを抜いて投擲。

 肩の傷に刺さり、そのままバックラーで押し込み傷口を広げてやる。

 怒りの咆哮がブラッドベアーから捻り出され、負けじとこちらも雄叫びをあげ、ブロードソードを引き抜いて一閃、二閃と白刃を煌かせる。



 増加した筋力でも一歩膂力は劣るが、それを持ち前の技術でカバー。

 振るわれる鋭い爪の1撃を斜めから摺りあげるように弾き、もう1本の腕から繰り出される破壊の1撃をシールドバッシュで弾く。

 2撃後の隙を突くように重斬で逆袈裟に斬り付け、先程の傷口を正確になぞっていく。

 血飛沫が飛び、びちゃりとアリーシャの顔を真紅に染め上げるが、ぺろりと真っ赤な鮮血を一舐めしては再び攻防に舞い戻る。



 鋭敏化した感覚に足音が2つ。それを無視して使用時間がきたオーラブレードを発動。

 突進しながら振るわれた1撃を紙一重、くりると回転して回避。

 その脇腹に全力の斬撃を捻り込む!

 感じる抵抗感を左足を前に踏み出し、それを軸に無理やり振りぬく事で見事に深い損傷を与える事に成功する。

 流石に効いたのか苦痛の咆哮が鳴り響いた瞬間、予想外の1撃が飛び出した。

 


「ッ――石の礫(ストーンブラスト)だと!?」



 ブラッドベアーの足元から飛び出した拳程の無数の石の礫。

 瞬時に高速を伴い放たれる。風切り音と共に飛来する凶器の群れ。

 それをバックステップしつつ回避し、避け切れない分をバックラーで弾き、ブロードソードで叩き落す。

 二十メートル程距離をあければ魔法が止んだ。

 後方から2人分の足音。

 


「レイヴンさん!? 直ぐに回復を――癒しの光よ(キュア・ライト)



 リーゼロッテの焦った声と同時、暖かな光がアリーシャを包み込み傷を塞いでいく。

 そこでようやく今までの己がらしくないと気づいた。

 今も湧き上がる破壊衝動。鼻に薫る女性特有の匂いに、本能が押し倒せと、獣性の如き暗い欲望がぐつぐつと煮え滾るのを感じる。

 ブラッドベアーが傷口を庇い突撃してこないのを確認し、素早くステータスを確認すれば状態が“凶暴”となっていた。

 どうやら狂化を使用すれば、正気度に余裕があろうと強制的にこの状態へと移行シフトしてしまうらしい。



「……レイヴン?」



 エヴリーヌがアリーシャの異変に気づき、心配そうに声を掛けてきた。

 その姿を見て、小さな身体を思う存分に蹂躙しては貪りたくなる凶暴な衝動が駆け巡る。

 まるで業火の如く燃え上がる暗い感情を無理やり鋼の精神で縛りつけ、更に犬歯で唇を噛み切り痛みで更なる正気を保つ。

 ブラッドベアーの返り血で紅色をした唇。それを更なる鮮血が上塗りし、白い肌を伝い地面へと零れていく。    

 


「れ、レイヴンさんッ!?」



 唇からあふれ出す血にリーゼロッテが慌てた声を上げるが無視。

 脂汗を滲ませ、内から湧き出す破壊衝動を懸命に押さえ込む。

 まるで暴れ馬を手懐けるように燃え上がる衝動を力で捻じ伏せていく。

 力に踊らされるのではない。あくまでアリーシャとして力を使わねばならないのだ。

 何とか無理やり落ちつかせる事に成功し、荒い息を一回吐き出す。

 吐息は熱く。油断すればまた暴走してしまいそうであった。



「だ、大丈夫ですか?」


 おろおろと、心配そうに見詰めてくるリーゼロッテとエヴリーヌ。

 柄ではないと思いつつも、笑みを浮かべて頷いてやる。


「大丈夫だ。スキルの代償で気が高ぶっているに過ぎない。それよりも、効果の時間が勿体無いから私は再び突撃する。エリー、指示は必要ないな?」

「……(こくり)」

「よしっ。後を頼むぞリーゼロッテ」

「分かりました、お気をつけて……」



 しっかりと頷くエヴリーヌと、渋々といったリーゼロッテをその場に残し、ブラッドベアーへと駆けていく。

 瞬間増大する破壊衝動を今度は押さえつけず、それに方向性のみを与える。

 即ち――ブラッドベアーへの殺意。そして粉砕。

 動きで翻弄するようにジグザグに移動し、距離を詰めた瞬間振るわれた巨腕をしゃがみ込んで回避。


 跳ね起きるように右下からブロードソードを降りぬき、先ほどつけた脇とは反対の脇腹を斬りつけ、そのまま後方に抜ける。

 瞬間ブラッドベアーの全身に火の礫が次々と命中。

 煩わしそうにエヴリーヌを睨みつけ、移動しようとした瞬間、アリーシャの咆哮が響き渡った。

 それに惹かれるように怒りに燃えた瞳がアリーシャに向き直り、その4本の腕から爪の乱撃を浴びせてくる。



 それを1撃目を紙一重で回避し、左からきた別の1撃をバックラーで弾く。

 肩から生えている3本目の腕から繰り出される強力な一撃。

 その軌道を読み、流れに合わせてブロードソードの腹に重斬を乗せて丸太の如く太い腕に叩き込む。

 伸びきった一撃に重い衝撃を貰い、前のめりに体勢が崩れた瞬間、更に右下から摺り上げるように重斬で左脇腹の傷をなぞる様に放つ。見事に会心の1撃が吸い込まれていく。

 相手の体重も合わさり、あっさり深々と脇を抜け、そのまま左回りに回転し遠心力毎シールドバッシュを背部にお見舞いすればその巨体が地面に沈み込んだ。

 同時にエヴリーヌの詠唱が響き渡る。



「……凍てつく吐息、その身を凍らせて――凍結せし大地(フリジス・フィールド)



 地面が急速に冷却され、倒れたことによりその巨体の大部分を凍結され身動きを封じられるブラッドベアー。

 更に重ねてエンチャントウェポン・火属性がブロードソードに付与される。

 赤熱に輝く剣身を構え、残り少ない狂化を最大限を活かすためにオーラブレードを発動。

 そのまま円を描くように走りだし、その首筋目掛けて跳躍。

 高々と舞った肉体は重力に引かれて落下。そのままの勢いを乗せて重斬を発動。

 その首元に死神の如き一撃が叩き込まれ、一瞬で切断。氷を砕き、溶かしながら剣身が地面に埋まり、切られた首が宙を飛んでいく。

 夥しい量の鮮血が首から迸り、その勢いが弱まるのと同時にその巨体が消えていく。



「ふぅ……」



 溜息と同時に狂化が切れ、燻っていた衝動が霧散していく。

 こちらに走り寄ってくる2人を横目に見つつ、ウィンドウを展開。

 戦闘記録を眺めれば――



 〔ブラッドベアー を 倒しました。300の経験値を得ました〕

 〔ブラッドベアー は 小さな宝石箱を落としました。小さな宝石箱は分配されました〕

 〔ブラッドベアー は 茶色の魔石を落としました。茶色の魔石は分配されました〕

 〔ブラッドベアー は 筋力の指輪を落としました。筋力の指輪を獲得しました〕

 〔ブラッドベアー は 散策の森林踏破の証を落としました。散策の森林踏破の証じゃ分配されました〕



 過去最大のドロップ量にやや驚くも、喜びこそすれ困惑はする必要はないだろうと落ち着く。

 顔を上げれば丁度2人がアリーシャの所まで到着したところであった。



「よし、話しはあるだろうが取り敢えずは脱出しよう」


 そう言ってアリーシャがコミュニターを起動、アイテム欄から脱出の鈴を取り出す。

 チリンッ、と言う涼やかな音が鳴り響いた瞬間、3人の姿はその場から掻き消えていた……






 脱出後、リブルーラの街中。広場の噴水前で3人は話しあっていた。

 2人の会話を噴水の縁に腰掛け、足をぷらぷらさせているエヴリーヌが見守っている。



「分配はこれでいいんだな。ボスのみはドロップした人が貰う、後は適当に数を合わせて分配したが」

「はい、大丈夫です。でも、脱出の鈴分は引かなくてよかったのですか?」

「ああ、今回は結構ドロップしたからな。十分プラスになるから構わない。それよりよかったらフレンド登録をしてもらいたいのだが」



 アリーシャの言葉にしかし、なにやら考え込む仕草を見せるリーゼロッテ。

 フレンド登録はその人の大まかな現在位置。

 そしてメールと呼ばれる機能を使い、手紙のようなものを送る事ができるようになる。

 登録には相手の了承が必要であり、登録すれば両者の一覧に相手の名前が登録される。

 その性質上、フレンド登録は考えて行わないと厄介ごとに繋がりかねないのだ。



「駄目だろうか? 今はいいが、この先もっと傷を負う事は多くなる。そこに回復職が居るのと居ないのとでは大きな違いがあるんだ。無論そちらの都合がいいときに付き合ってくれればいい」

「あ、いえ! 違うんです! 別に登録が嫌と言う訳ではないんです。それはこちらからお願いしたいくらいで。レイヴンさん、とても頼りになる人ですし、ただ……」


 そこで言いよどむリーゼロッテに無言で先をさとす。

 すると恥ずかしそうに顔を赤らめ口を開いた。


「冒険者って、荒くれ者が多かったり。犯罪者も多いと聞いていて、お2人のような人に出会えて、嬉しくて、その……フレンド登録の申し出を聞いてちょっと驚いてしまったんです」

「それじゃあ登録に問題はないな」

「はいっ!」



 元気よく返事を返すリーゼロッテの姿に微笑ましい気持ちになりながら。

 コミュニターを起動。操作項目からフレンド登録を選び、パーティーメンバーから相手を選択。

 フレンド登録の申請をしますか? と言う項目のイエスをタッチ。

 すると少しの間が空いて一覧にリーゼロッテ・エレスティアル・ルシャ・エトワールと言う名前が登録される。



「あ、あの。レイヴニアンって?」

「あー……一応名前は基本的に伏せるようにすることにしているんだ。一応アリーシャ・レイヴニアンが私の本当の名前になる」



 その後、雑談を交えつつ、お互いの宿屋を告げ、その日は解散となった………





後書き


今回はスケルトンロード時より少しだけ戦闘描写を丁寧にしてみました。

心持ち、程度ではありますが……

え? 全然駄目?


ごほん。雑魚のドロップは結構な数なので記載しませんでした。

今回は何気に雑魚が装備を二個も落としてくれたのでラッキー。

現在は正気度正気スキル、どんなのがいいかなぁと模索中。


それでは感想評価、特に感想は励みとなりますので心よりお待ちしております。

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