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第十一話

 アリーシャが鋭い踏み込みで熊のような魔物、“ジャイアントベア”の懐に潜り込む。

 そのまま腹から搾り出すような咆哮により、一気に注意を自身に集中させる。

 茶色い体毛、赤い瞳。そして鋭い鉤爪。その太い両腕をグッと振り上げ、まるで抱擁するように振り下ろす。

 スウェーの要領で素早く回避し、エンチャントウェポン・火の効果を纏ったブロードソードをその丸太のように太い腕に袈裟懸けに振るう。

 厚い毛皮による抵抗感。それを生前を凌駕した膂力で振りぬく。

 それでも斬り飛ばすには至らない。半ばまで斬り裂かれた腕は深々と傷を負い、更に高熱により傷口を苛む。

 


『ボァア゛ア゛ア゛ッ!!』



 

 直接内部を焼かれる痛みに、ジャイアントベアが遮二無二しゃにむに両腕を振り回す。

 口元からは涎が飛び散り、その目は痛みによる理性を失った獣の光が宿っている。

 大振りで隙の大きい一撃を周囲の木々を盾にしながら回避し、横に回りこんで懐に再び接近。

 その瞬間大木に命中したジャイアントベアの一撃で木片が飛び散り、まるで散弾のように頬を切るが無視。

 鋭い呼気と共に腰を落とし、軍靴の踵が地面にめり込む程力を溜めて、横殴りの全力に更に重斬を乗せて解き放つ。


 

 大振りな振り下ろし後の隙を突いた一撃はまるで吸い込まれるように、正確無比に横っ腹に命中。

 ブチブチッと、毛皮を断ち切りその太い胴体を半ばまで斬り裂き更に内部を焼いた。

 鮮血が地面に飛び散り、耳障りな悲鳴をあげ暴れるがやがて力を失い始める。

 遂にドゥンッ! と、その2メートルを優に超す巨体が地面に倒れ付し消滅していく。

 少し離れた位置に居たエヴリーヌとリーゼロッテが駆け寄ってくる。

 そのまま回復魔法を唱えようとしたリーゼロッテに、アリーシャが待ったを掛けた。 



「回復は必要ない。今回は殆ど手傷を負っていない」

「それでも体力を多少でも回復出来ますよ」


 少しだけ荒い息を吐くアリーシャを見て告げるが、それでも首を横に振る。

 瞳を閉じ、何か探るような仕草の後に口を開く。


「大丈夫だ。周囲に幸い魔物の気配は無い、少し休憩すれば平気だ。回復魔法も使用回数があるのだろう?」

「……はい。今のわたしでは、5回も使用すれば使用不可能になってしまいます」

「それなら尚更温存しておくべきだ。ボスで2回は使えるようにしておきたい」

「分かりました。でも、ダメージが大きいと判断した場合は躊躇無く使いますからね?」

「ああ、それで構わない」



 結局妥協点を見出すことで決着。話しが終わったのを見計らっていたのか、エヴリーヌがアリーシャの横に近づいてくる。

 そのまま近くの大木に背を預け、少しの間話した通りに休憩を取る事となった。

 既にダンジョンに潜って5時間以上。ここ、3層目に進入して既に一時間近いだろうか。

 木々の密集レベルも少しずつ増している。出現する魔物も先ほどのジャイアントベアのように、2層目よりも強力だ。

 経験値も2層目の魔物に比べ2倍近く貰える。リーゼロッテは既に4レベルに上昇していた。

 幸い事前に単独行動しかしないと調べてあった魔物だが、その膂力から繰り出される一撃は下手すれば即死に繋がり兼ねない。

 初心者にとっては鬼門とも呼ぶべき中々侮れない魔物である。



 腰に括り付けてあるポーチから保存食である、干し肉を取り出し噛り付く。

 横でエヴリーヌもアリーシャに言われて用意した、同じ干し肉を口にもごもごと含んでいる。

 何の肉かは知る由もないが。塩による味付けと、噛めば噛むほど染み出す旨味は悪くない。

 しっかりと臭みも取られており、これなら確かに売れる筈だと道具家の店主のドヤ顔をアリーシャは思い出す。

 反対側に取り付けた小型の水筒から水を補給していると、近くからきゅるるっと、何やら可愛らしい音が聞こえてきた。

 はて? と、隣に座るエヴリーヌに視線を向けるが、固い干し肉を千切るのに一生懸命であり気づいていない。

 


 もしかしてと隣の木に背を預けているリーゼロッテに目線を向ける。

 先程から所在無さげにきょろきょろしており、もしやとアリーシャも思っていたのが。

 どうやら的中らしい。そのまだまだ少女と呼んで差し支えの無い、端整な顔には見事な朱が差していた。

 アリーシャの視線に気づき、更に顔を真っ赤にした途端――くぅー……と、またもや可愛らしい音がなる。

 どうやら今度はエヴリーヌにも聞こえたようで、不思議そうにリーゼロッテを見ている。

 その視線に最早茹蛸もかくやと言わんばかりに顔を真っ赤に染めていた。



「あー……もしや保存食の類を用意していなかった?」



 アリーシャの質問に顔をやや伏せつつ、耳も力なく垂れ下がり。

 小さく「はい……」と、口にする。恥ずかしいのだろう、その一言を言うのも勇気が必要であった筈だ。

 しかし無常にも再びそのお腹から食事を要求する音が鳴り、とうとう完全に俯いてしまう。

 


「えっ?」



 すっと、リーゼロッテの視界に一本の大きめな干し肉が映る。

 お腹が空きすぎて幻覚でも見え始めたのだろうかと、そう思って恨めしげに干し肉を眺めるも、それが消える様子は無い。

 流石に戸惑い、顔を上げればその干し肉を支えているのは白く滑らかな手だ。

 そのまま先を追っていくと、真剣な顔をしたアリーシャの顔と視線がぶつかる。瞳が語っていた、食えと。

 貰ってもいいのか迷い、それでも更に主張を繰り返すお腹の音に負け、そっと両腕を伸ばして受け取る。



「……あ、ありがとうございます」

「気にするな。戦場でひもじい思いをしていた時、食料を分け与えて貰ったことがある。それ以来私は、この手の食料は必ず多目に持ち運ぶことにしているんだ」



 単語の意味は分かっても、ここ最近戦争なんて聞いたことがなかったリーゼロッテは。

 きっと何か別の意味だろうと解釈し、今度は聞こえないようにまた「ありがとうございます」と口にする。

 そっと口に運んだ干し肉は、元々身分もあり、豪勢な食事を食べていたリーゼロッテの胃袋を、不思議なくらいに満たしてくれた。

 リーゼロッテの性格は本当は少し臆病だ。冒険だって、実は今回が初めてだし、チャットをするのだって勇気を振り絞った。

 他人から見れば、きっと当たり前のこと。でもリーゼロッテにはとても大きな勇気が必要だったのだ。

 その結果巡り合えたレイヴンとエリーと言う2人の女性。

 初めて出会った冒険者が、こんなにも優しい人であったことに、リーゼロッテは心の内で神に感謝を捧げるのであった――――







「……凍てつく吐息、その身を凍らせて――凍結せし大地(フリジス・フィールド)



 先手必勝と放たれたエヴリーヌの新魔法が魔物の群れに炸裂。

 瞬く間に地面がパキパキと言う音と共に凍りつき、6体全ての行動を封じる。

 2節魔法ながら、レベルに対して強力な魔力を持って発動された凍結魔法は、通常より強力に顕現したのだろう。

 猪の頭に角を持った“ホーンボア”の全てが足を動かそうとするが、その身の腹まで凍らされてはすぐに脱出は出来ない。

 エヴリーヌの素早い判断を無駄にしない為にも、アリーシャは地面を這いながら木々を縫うように瞬く間に先頭の一体に接近。



 まるで豚のような鳴き声を浴びせてくるホーンボアの横に回りこみ、5レベル時に習得した新スキルを発動させる。

 上段にブロードソードを構えグッと力を溜め込む。

 一秒程でその剣身には、揺らめく半透明のオーラのようなものが纏わりつく。

 “気斬オーラブレード”と呼ばれるスキルだ。

 消費技力8であり、その力を剣に纏ってダメージ率を一撃だけ200%にまで引き上げる。

 再使用に30秒掛かるが、錬度が高まったのか強化された重斬2と合わせれば非常に強力な一撃と化す。



 今回は重斬を使わず、そのまま気合一声と同時に腰を落とし振り下ろす。

 狙い違わず首元に命中。肉と骨を絶つ感触と共に、一瞬後にはその首がゴトリと地面に転がる。

 まるで滝のように鮮血が噴出し、そのまま粒子となって溶けるように消えていく。

 それを眺めることをせず、即座に直ぐ後方のもう一体へと近接。

 くるりと独楽のようにしなやかに肉体を回転させ、そのまま首筋に今度は重斬を叩き込む。

 ブチリッと、筋繊維や毛皮を断ち切る感触。通常の人間を大きく凌駕した筋力から生まれる一撃は、見事その首を切断することに成功。



 今度は血が噴出すより早く次の獲物へと接近する。

 仲間がやられたことにより、目を血走らせて暴れるホーンボア。

 氷に僅かな罅が入っているのを接近と同時、刃を振り下ろしつつ確認。

 今度は首を飛ばすには至らない。そのまま返しの刃で持って切断。

 そのまま俊足もかくやという速度で瞬く間に、6体すべてを血溜まりに沈めてしまう。

 最後の一体はもう動き出す直前であったが、ギリギリ一撃が間に合った。

 周囲の木々より一際立派な、苔むした巨木の陰からリーゼロッテとエヴリーヌが顔を出す。



「エリー助かった。流石に6体を正面から相手していたら、怪我は免れなかったかもしれない」



 ブロードソードを一度全力で振るい、血と油を圧で吹き飛ばしつつ口にする。

 するとエヴリーヌがとことこと近寄って来て、その小さな頭を無言で突き出す。

 人前だろう恥ずかしがる素振りもない態度に、一度苦笑してからぽんぽんと撫でてやる。

 妹のお陰で自慢にもならないが、人の頭を撫でるのは上手くなったと言う無駄な自負があった。

 エヴリーヌの目尻が下がり、無表情だった顔に柔らかな笑みが浮かぶ。

 リーゼロッテもその表情に釣られたのか笑みを一度浮かべ、そのままため息交じりに喋り出した。



「それにしても初心者が潜るような、それもインスタント型のダンジョンで3層もあるなんて、あんまり聞きませんよ」

「確かに今までよりずっと時間が掛かっている。それもしかしお終いだろう、この先から雑魚とは桁違いの濃密な気配が漏れ出してきている。間違いなくボスだ」


 アリーシャの言葉に釣られて森の奥に視線を2人が向ける。


「何となく、何かが居るような気はしますが。そんなにハッキリと分かるものですか?」

「そういうスキルを覚えているだけだ。しっかりと準備の確認をしておいた方がいい、ボスはやはり雑魚とはレベルが違う」



 リーゼロッテの問いを曖昧に返し告げる。

 2人が頷き、恐らくコミュニターを表示させているだろう、宙に視線を泳がせるの見届け、自身もウィンドウを表示させる。

 先ほどのホーンベア6体。経験値は合計で150近く。

 お陰でレベルアップを果たし、各能力値も上昇。

 スキル覧などを確認しつつ、技力回復用のポーションを飲む。



 生命力回復用のポーションも2本腰のベルト、そのスロットに挿し込む。

 投擲用のスローイングダガーを取り出し腰に一緒に挿しておく。

 ここに来るまでに全て投げ放ってしまったのだ。

 安物の為、回収しても血と油で半分以上は使い物にならない。

 最後に能力の上昇値だけ確認すべくステータスを開いた。

 


 

 《能力値》

 体力:63(+15) 筋力:70(+16) 敏速:50(+3)

 器用:45(+) 魔力:6(+) 精神:41(+10) 

 運:8(+) 魅力:31(+5)



 どうやら上昇するかランダムである魅力もしっかりとあがったようだ。

 新しく覚えたパッシヴ系スキル“騎士の底力”も魅力的だ。

 自身の生命力が半分以下にまで低下したとき、物理耐性が全て3ランク上昇する。

 耐性はワンランクでダメージを5%カットする効果を持つから、かなり優秀なスキルだろう。

 アリーシャは軽く拳に力を込める。感じられる筋力はこの世界に来た頃とは比べ物にならない。

 今なら素手で岩すら砕けるかもしれないなと、内心で呟く。



 技力も上昇し、更には正気度の最大値もしっかりと上がっている。

 これなら試しに“狂化”を使用してもいいかもしれないとアリーシャは考えた。

 やや不気味なスキルではあるが、効果は非常に心強い。

 50%もの上昇値は破格とさえ言えるだろう。そんなスキルを捨て置くことは出来ない。

 万全の準備だと確認を終え、リーゼロッテとエヴリーヌに視線を向ければ2人から首肯が返ってきた。

 どうやらしっかりと準備は終えたらしい。



「先に私が突っ込む。30秒経ったら2人も駆け出してくれ、周囲とボスのエリアに魔物の気配はないから大丈夫だとは思うが、一応雑魚に見つからないようにな」

「……(こくり)」

「分かりました」

「――よしっ、では行くぞッ!」



 アリーシャが踵に力を込め、爆走するように木々を縫いながら走り出す。

 レベルアップの恩恵により、速度の上がった走りは瞬く間に拓けた地を踏む。

 まるでそこだけぽっかりと穴が空いたかのような。

 そんな草木の一本すら生えていない土がむき出しの地。

 その中心にアリーシャを睨み付けるように、そのボス“ブラッドベアー”は静かに佇んでいた。

 全身はまるで乾いた鮮血のような、赤黒い毛皮で包まれ、瞳は燃えるような真紅。

 全長は優に3メートル程もあり、肩の後ろからは更に2本の腕が生えている。



 吹き付ける濃密な気配はスケルトンロード以上。

 アリーシャと言う獲物を見つけ、その口から猛々しい喜びの雄叫びが響き渡る。

 圧倒的な肺活量のそれは、まるで振動のようにアリーシャに伝わってきた。

 精神力の弱い者であれば、その一声だけで足が竦むことだろう。

 仮にも命を掛けた戦場を数多く駆け抜けたアリーシャに、その程度の威嚇が通じる筈もない。

 バックラーを前に翳しつつスローイングダガーを左手に構え、ブロードソードを右前下に下げると、今まで以上の速度で近づいていく。








  

後書き


中途半端な場面で申し訳ないです^^;

ステータスに関してですが、+補正込みで左側は表示されています。

そして今回は魅力の上昇決定判定に三度中二回も成功!

1d6で4以上を出さないと上昇しないと設定しているので、ちょっと嬉しい。

他の能力も、元から成長値補正でアレですが、軒並み高い数値を叩き出してくれていい感じ。


悩んでいるのが、スキルや魔法。

この辺のセンスがないから困って困って……

よければ、感想ついでに適当に案を出してくれると作者が喜びます。

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