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帰る場所  作者: S・H
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第44話:異形


「ふむ……思っていたよりも大したことはないな」


 ルティスは衝撃波を受け止めた障壁を解除し、両手をプラプラと振りながら呟いた。その後土埃で汚れている自分の服を軽くはたき、攻撃を放ってきたミューズへと目を向けた。


「ルティスさん、やっぱり生きてたんですね!」

「無論だ。あの程度で死ぬようなやわな身体はしておらんよ」


 駆け寄ってくるティアへと向き直り、ルティスは胸の傷を直しながら答えた。傷は瞬く間に塞がり、本当に刺されたのかどうかもわからないほどに回復している。


「これでよし。ティアも少しだけ怪我をしているようだな。どれ治療しよう」

「あっ、ありがとうございます……っではなくてですね!…本当に大丈夫なんですか?」

「この状態を見てもまだ心配か?」


 ティアの傷を治療するやいなや、ルティスはアルト達が戦っていた骸骨数体に向けて光弾を放った。光弾は骸骨の頭部目掛けて飛んでいき、ぶつかった瞬間骸骨は一瞬にして弾け飛んだ。


「ルティス嬢!!何か飛ばすんだったらその前に言ってくれ!ビビるだろーが!」


 目の前で骸骨が弾け飛んだアルトが突然のことのあまり思わずルティスに向かって叫んでいた。ルティスもアルトへ向かって軽く会釈をすると、アルトに聞こえるように返事をした。


「すまぬ、そこまでは考えてなかった」

「でもありがとよ、こいつら中々しぶといから助かったぜ!後は俺とランドに任せてくれ」

「ありがとう姉ちゃん!っていうより生きてて本当に良かったよ!俺姉ちゃんのこと信じてたけどダメかと思ったよ…」

「こら、ランド。これ以上余所見すんなよ!数は減ったけど油断してたらやられるかもしれないぞ」

「ずるいよ、アルト兄ちゃん。自分はルティス姉ちゃんと話してたくせに!」

「うるせー、俺はお前より強いから大丈夫なんだよ!」


 ランドもルティスが生きていたことに喜んでいたがアルトの言葉に反発し、軽く口論になっている。敵の前でそんなことを言い合っていること自体が危険であるのだが、当の本人達はそんなのお構いなしに言い合いながら戦っていた。問題なく戦えているのも、ルティスとの日頃の鍛錬の成果であろう。


「やれやれ仕方ない奴らよのう、それでどうだ?我の身体が問題ないことはわかってくれただろうか」

「はい…ほっとしました…」


 ティアは胸を撫で下ろしてルティスに向かって微笑みかけた。ルティスもティアにつられるように少しだけ笑みを浮かべ、その髪を撫でた。


 そんなルティスの様子を見ながら表情を変えている人物がいた。それは勿論ルティスを刺したはずであった当の本人、アルルである。何事もなかったかのようにティアと話をしているルティスをアルルは目を丸くして見ていた。和哉はアルルの手を引いて、走りながらルティス達の元へと近づいていく。数秒して我に返ったアルルは和哉へと思わず声をかけた。


「えっと、どういうこと…?ルティスさん生きてるの?」

「あぁ、あの通りピンピンしてるぜ?」

「でもっ、人間だったら間違いなく致命傷のはずだよ!なのに…本当に大丈夫なの?」

「勿論だ、それともアルルはルティスが生きてて嬉しくないのか?」


 和哉の言葉に対しアルルは首を思い切り左右へと振り、否定していた。その瞳には涙が浮かんでいた。


「ううん。嬉しい……私がこんなこと言っていいとは思えないけど……本当に良かった」

「そうだな」


 程なくして和哉達はルティス達の元へとたどり着いた。アルルはルティスに対して伏し目がちになっているが、和哉はその様子を横目にしながらルティスへと話しかけた。


「それじゃあルティス、今度こそ皆のこと頼むな?」

「主よ、それでは我が皆を守れていないみたいではないか?今回は元々そういう算段であったはずだぞ」

「そうだったな」

「ちょっとカズヤさん、そういう算段ってどういうことですか?」


 和哉とルティスの会話に違和感を覚えたのか、ティアが少しだけ食い気味に話へと入ってきた。ティアがそのような反応を見せるのも最もだ。なぜなら和哉の話していることが事実であるならば、このような状況になるということもある程度想像ができていたということなのだから。


「ティア、それに関してはとりあえずこの場が落ち着いてから話す。アルルもルティスやティアに何か言いたいことがあると思うけどまた後でな。今はルティスから絶対離れるんじゃないぞ」

「…その通りですね…分かりました」

「う、うん」


 和哉の言葉を聞いて現在の状態を改めて把握した2人は頷いて、ルティスへと近づいた。


「さぁ…そろそろやるかミューズ?」

「く……くくっ………くはははははっ!!」


 ミューズは顔を俯けて片手で、口元を抑えていたが堪えきれなくなったのかその手を離し、笑い声を上げた。耳をつんざくようなその声は狂気に満ちていた。そしてその声は先程までの怒りではなく、ミューズの心からの喜びを表しているようだった。


「はぁ、わりぃわりぃ。今まで柄にもなくイライラしていたが、すっかり吹き飛んじまったぜ!なんだなんだ、めちゃくちゃ面白いやつがいるじゃねぇか!なぁ、どうなってんだよおいっ!」

「お主にそれを話すような義理はない」

「なんだなんだ、つれねぇじゃねえか!俺と一緒に遊ぼう…っぜ!」


 ルティスの返答を聞くや否やミューズは再度衝撃波を放ってきた。今度は先ほどよりも少し大きめであり、2発連続でルティスへと向けられている。


 ルティスはそれを受け止めようと手を前方へと出すが、それよりも先に和哉が飛び出していた。和哉は魔力を込めた刀で衝撃波を受け止め、そのまま両断した。衝撃波はルティス達の左右へと散っていく。


「そうだな、おぬしが我が主に勝てたならば、戯れてやろう」


 ルティスはミューズへとそう言い放つとアルルとティアを抱えてその場から後方へと飛んだ。


「ちっ…」

「そういうわけだ、お前の相手は俺がする」

「まぁお楽しみは後にとっておくとするか。お前の相手も充分楽しそうだしなぁッ!」


 ミューズは楽器上の武器を大剣へと変化させ構えるとそのまま和哉へと突っ込んできた。いたって普通な直線的な動きだが、その速さは軽く人間のそれを超えていた。しかし和哉もそれに臆することなく、刃を交わらせる。

 鈍い金属音を響かせながら、一太刀一太刀、刀と大剣がぶつかり合う。一見すると細く折れてしまいそうな刀だが、ミューズの大剣に負けず劣らず弾き返していた。


「只の鈍らかと思っていたが、中々の獲物持ってるじゃねぇか」

「お前に褒められたところで嬉しくもなんともないっ!」


 和哉は左足を一歩大きく踏み込み、刀を握る手に力を込め大剣ごとミューズの体を吹き飛ばした。その瞬間、和哉は右手から数個の火球をミューズの体めがけて放った。


「なめんなっ!」

「…光よっ!」


 しかしミューズはその火球を大剣を薙ぐことで掻き消すと同時に衝撃波を起こした。和哉は咄嗟に障壁をはり、ダメージを受けることなく一歩下がった。


「中々やるじゃねぇか、なぁっもっともっと楽しもうじゃねぇかっ!」

「お前を楽しませてやるつもりなんかない、この戦いがお前の最期の戦いだ」

「戦いながら洒落を言えるとはますます面白いじゃねぇか、気に入ったぜ!お前が死んだらお前も俺のおもちゃにしてやる」

「……」


 切り結ぶたびにミューズからは本当に楽しそうな声が聞こえてくる。命のやり取りをしているのにも関わらず、ミューズにはそれすらも楽しむための只のスパイスにしかなっていないようであった。この悪魔のような男は、死の恐怖など微塵も感じておらず、ただ残虐に、残酷に、相手を傷つけることに楽しみを覚えている。そしてそのために自分が与えられることになる物理的な痛みなど気にもしていないのだ。それがこの男の歪んだ強さであると和哉は感じていた。


「オラオラオラオラオラオラ!!どうしたどうしたどうしたってんだよぉ!!もっと全力でかかってこいよ、殺しちまうぞゴラァ!」


 暴力的に振るわれる剣は鋭さを増しながら少しずつ和哉の体を傷つけていく。血が一滴、また一滴と地面へと落ちていく。剣戟は止むことなくあたりに木霊する。しかしながら和哉の表情には焦りの色は見られなかった。


(確かに強い……だが…)

 





 一方でランドとアルトは骸骨の数が減ったことで戦いを有利に進めていた。


-ブゥンッ

「よっ…はぁっ!」


 ランドは骸骨の剣による攻撃を右足を軸にして体を逸らして躱し、そのまま回転して勢いをつけ横凪に胴体を切り落とした。切り落とされた胴体はそのまま霧散し消え去る。


「無限に湧いてくるかと思ったけど、兄ちゃんがあいつと戦い始めてから出てくる勢いが減ってきたね」

「あいつが原因なんだし、そりゃそうだろうなっ!」


 アルトは骸骨の攻撃を二体同時に受け止めると、両手に強化の力を込めて弾き返してそのまま走り出し、すれ違いざまに頚部を切り落とした。


「よっしゃ、ようやく後数体だぜ」

「うん…って兄ちゃんなんだか様子がおかしいよ?」


 ランドの声に耳を傾けると確かに骸骨たちの様子がおかしい。骸骨たちはお互いがぶつかり合うように一箇所に固まり始めていた。そしてそれらは溶け合うようにその場で混ざり合った。液状になったかと思われたそれらは徐々に形をなしていき、これまで相手にしていたものの数倍のサイズの巨大な骸骨へと変貌した。


「おー、こりゃまたでっけぇなぁ」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ兄ちゃん!どうするのさっ…ってうわっ」


 巨大な骸骨は形状を成すと同時に、刺付きの混紡のような武器を振り回し、アルトやランドに攻撃を仕掛けてきた。大きくなったことで速度が失われているかと思ったが、そうでもなく、これまでと同等の速さを保っているようである。


「よっ…と、武器がデカイ分リーチも長いからな。油断だけはするなよ、ランド」

「うんっ…でもどうするのさ?」

「…ようやくお披露目の機会か」

「もしかして兄ちゃん、新しい技完成してたの?」

「おう、ちょっと時間がかかるから時間稼ぎ頼むぞ」

「…わかった、頼んだよ兄ちゃん」


(デカいし怖いけど…怖くない……皆の為に頑張らなくちゃ…!)

 

 ランドは震える手をグッと握り締める。視線を骸骨へと向け、骸骨の足元へと飛び込んだ。



 和哉の遠く後方から全員の様子を見ていたティアは、我慢できずにルティスへと声をかけた。


「ルティスさん、私達のことはいいですから皆をっ!」

「案ずるな、ティア」

「でもっ…」

「主は冷静だ。攻められているように見えるが、あの程度では一生かかっても致命傷は与えられぬ。それに、アルトとランドも我が稽古しておるのだ。でくのぼう相手に不覚をとるほど弱くなどない。大丈夫だ、信じて見守ることもおぬしの戦いの一つだ」

「ルティスさん……そうですね」


(信じることも戦いの一つ…私は今日も叫んでばかりだ……何も変わっていない…このまま…私が弱いままだとカズヤさんに心配ばかりかけてしまう。私も強くならなくちゃ…カズヤさんと…皆と一緒にいるためにも)


 ティアは両手を合わせ、祈るように戦端を見守った。心境の変化を感じさせられる様子にルティスもうっすらと微笑んだ。


(さて主よ、我の期待を裏切るなよ)


「あぁ…わかってるさルティス」

「オラオラ、防戦一方じゃねぇか!攻撃してきてみやがれよっ!」

「言われるまでもない、ふんっ!」

「なっ」


 和哉は振り下ろされた大剣をギリギリまでひきつけ刀を体の側方の地面へと突き刺し、大剣を刀身で滑らせるように攻撃を受け流した。これまでとは違う方法で受け流されたことで、ミューズは勢いのあまり前のめりになった。和哉は片手で刀を掴んだまま、その場で宙返りをしながら顎めがけて蹴りを繰り出し、元の体勢に戻ったと同時に両手で刀を地面から引き抜いて、駆けながら胴を斬り裂いた。


「がはぁっ」


 呻き声を上げながらミューズはその場に膝をつく。和哉に斬られた箇所からは血が吹き出しており、傷がそう浅くはないことを物語っていた。振り返りながら和哉はミューズへとつぶやく。


「お前の負けだ、ミューズ」

「まけ……?負け…だと…?………おい……ふざけてんじゃねえぞ、このクソガキがぁ!!」


 ミューズは地に落ちた大剣を力強く握り締めると和哉の目掛けて思い切り振りかぶった。


-ギィンッ


 しかしながら、その攻撃は和哉の一太刀によっていとも簡単に受け止められ、同時にミューズの片腕が吹き飛んだ。


「があぁぁぁっ!」

「お前には容赦はしない。あの子が、アルルがお前から受けた痛みはこの程度で済むようなものじゃない」


 和哉はそう言い放つと、ミューズのもう一方の手も斬り落とした。


「うがああぁぁぁぁぁぁあ……あっはっはっはっはぁ!!」


 叫び声だと思っていた声は途中からけたたましい笑い声へと変わった。


「最っ高だぁ!!この痛み、この苦しみ、流れ出る血、いつぶりだよっおいっ!!戦いはこうでなきゃやっぱり楽しくねぇよなぁ!」

(こいつ……)


 異質な言動をとっているミューズに対して、和哉は警戒を保って距離を取る。ミューズは歪んだ笑みを浮かべながら尚も笑っている。そしてしばらく経ってからようやく笑い声が止む。


「はぁ……久しぶりに本気で楽しめそうでなによりだぜ…」

「っ…いかん、ティア見るなっ」


 ルティスは咄嗟にティアとアルルの前へと立ち、二人からはその様子が見えないようにした。ゆっくりとミューズは切り落とされた腕の前へと進み、思いっきりその手にかぶりついた。グジュグジュと生々しい音を立てながら自らの腕をくらっていく姿は、人間の姿を模した獣のようであった。瞬く間に腕一本を平らげるとそのまま、もう一本の元へと歩き始める。そして、歩き始めたミューズには失ったはずの片腕が元通りに戻っていた。今度は先ほどのようには食べず片腕で拾い上げるとそのまま丸呑みした。次の瞬間、グチュグチュと音を立てながら切断面からもう一方の手が生えてきた。


「…待たせたな……そしてこれからが俺の……本領発揮だ」


 そう言い放つとミューズは自らの大剣を拾い上げ、そのまま自身の体へと突き刺した。


「なっ!?」


 ミューズの異様な行動に思わず声が漏れてしまった。ミューズの身体に突き刺さった大剣によって血が吹き出るようなことはなく、みるみるうちに体の中へと吸収されていく。それと同時にミューズの体が一回り大きくなり人狼のような姿へと変貌した。両手には大きなカギ爪が煌めいている。


「ウゥゥゥオオォォォォォ!!」


 咆哮が響き渡り、静寂が訪れたその瞬間、その巨体が和哉目掛けて飛び込んできた。





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