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帰る場所  作者: S・H
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第43話:相対








 アルルはルティスの体に突き刺した剣をぐっと押し込みそして勢いよく引き抜いた。ルティスは声もなく地面へと伏し、剣を引き抜いたことによる返り血はアルルだけでなくティアにも降りかかる。引き抜かれた剣はその場で霧散する。


「あ……あぁ…」


 ティアは全身の力が抜けその場にへたり込んだ。遠くからはランドの声も聞こえてくるが、何を言っているのかは頭に入ってこない。ただただ目の前の状況に呆然としてしまい、無意識のうちにルティスへと手を伸ばしていた。


「ルティスさん……ルティスさん……」


 何度も名前を呼びながら肩を掴み体を揺さぶるが返事はなく、動く気配もない。それでもティアは呼び続ける。


「いや…こんなのやだ……起きてくださいよ…ルティスさんっ…」


 ティアの目からは涙がこぼれ落ち、喪失の恐怖から体の震えが止まらず、気が狂いそうになる。


 そんなティアの様子を上から見下ろすように立ちながらアルルは言葉を投げかける。


「止めてよ、お姉ちゃん。無駄なことは」

「アルル……嘘でしょ?……アルルがこんなこと…」

「嘘じゃないよ。ルティスさんは私が殺したの。そして…お姉ちゃんも私が殺すの」


 嘘だと言って欲しいと言わんばかりの表情を見せながら話しかけるが、その言葉はティアの望んでいたものとは異なっていた。アルルは無表情のまま言い放つとだらんとぶら下げていた手に再び魔力を込める。瞬く間に黒い剣が生成され、アルルはそれをティアの首元へと伸ばす。剣の先端が喉へと当たり一筋の血が流れていく。涙に濡れたまま表情を歪めティアはアルルへと目を向ける。


「ねぇどうしてなの…アルル?」

「それがあの人との約束だから。私がお姉ちゃん達を殺せばいつもどおりママとパパに合わせてくれるって。だから私は殺すの。今まで他の人達を殺してきたように、いつもどおり…ね」


アルルはほんのわずかな時間ミューズへと目を配り、そしてティアへと向き直る。


「それじゃあこれ以上おしゃべりしても仕方がないからお別れしよ?少しの間だったけど楽しかったよ」

「………っ」


アルルは剣を1度引き、ティアへと振りかぶる。ティアは目を瞑りそうになるが剣を振るアルルの表情を見てハッとした。剣が徐々に近づいてくるが、目を背けることは出来ない。


-ガキィン

まさにティアの頭部を捉えようとしていたその時、激しい金属音がし、アルルの剣がティアの側方へとずれた。そこには直前に刀を割り込ませた和哉の姿があった。















「ルティス姉ちゃん!」


 ランドは倒れ伏していくルティスの姿を目にして声を上げる。そしてそのままティア達の元へと走り出そうとする。しかしアルトがそれを制した。


「行くんじゃねぇランド。お前は俺とここで時間を稼ぐぞ!」

「でもアルト兄ちゃん!皆がっ!」

「心配すんな、あいつがもう向かってる」


 アルトがランドへ目配せをする。ランドはアルトの目線を追ってみると先程までその場にいたはずであった和哉の姿が既になかった。


「わかっただろ」

「う、うん」

「そんじゃあ、相手してもらうぜミューズさんよ?」

「俺達が相手だっ!」


 アルトとランドは正面にいるミューズへと向かって武器を構える。しかしミューズはアルルやティアへと視線を向け、アルト達へと目を向けることはない。


「あぁん、お前らが相手だ?冗談きっついぜ。俺は今観戦中で戦う気はねぇんだよ。とりあえずこいつらの相手でもしておけよ」


 そう言うとミューズの傍に見通せない程の黒い靄がかかり、その中から6体の骸骨が現れた。骸骨はそれぞれ武器や盾を持っており、その赤い瞳からは敵意が伺える。そして骸骨達はアルトやランドへと向かって一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「なっ!?何なのこいつらっ」

「慌てんなっ!動きをしっかりよんで1体ずつ対処しろ!」


 アルトはランドへと声をかけながら双剣を骸骨たちへと向ける。ランドも面くらいはしたものの、アルトからの声かけにより冷静さを取り戻し敵へと相対をした。















「やめるんだアルルッ!」

「クッ…邪魔しないでよっお兄ちゃん!」


 なんとか間に合った和哉はそのまま体勢を低くし、地面へと脚を踏み込んで刀で剣を押し返すようにアルルを弾き飛ばした。


「カズヤさん…」

「大丈夫だ、心配するな」

「でも……」

「俺はあいつの主だぞ?どうなってるかくらいわかる」

「えっ……それじゃあ…」

「あぁ、だから心配するな」

「ぐすっ………はいっ……」


 和哉は後方のティアへと耳打ちをし、刀を構えてアルルへと対峙する。アルルも和哉へと剣を向けている。弾き飛ばされたとはいえ、幼い女の子とは思えない体捌きで受け流し、ダメージを受けている様子は見えなかった。


「アルル、俺はお前とは戦いたくはない」

「お兄ちゃんの家族を奪ったのに戦いたくないだなんて、そんな見え透いた冗談は止めてよね」

「冗談なんかじゃない、確かにルティスを傷つけたことに関しては俺も怒っている。だがアルルを傷つけたくないというのも本心だ」

「口先だけの綺麗ごとを…そうやって騙そうとした奴を私は何人も知ってるんだ!!」


 アルルは左手に新たに生成した黒い剣を握り、和哉へと斬りかかった。まずは左手の剣を振りかぶり刀で受け止めさせた。そしてそのまま右手の剣を胴を突き刺すように伸ばす。しかし和哉は刀を右手一本で持つと左手を鞘へと伸ばし、振り上げることで剣を弾き飛ばした。そして同時に左手の剣も弾き、アルルは再び距離をとった。


「くっやるね、お兄ちゃん」

「……………」


 微かに表情を歪めながらもアルルは再び和哉へと向かっていく。今度は右上段から切りかかり、左から横に薙ぐ。しかし右からの攻撃は最小限の動きで躱され、横薙ぎの一撃は刀によってそのまま受け流される。そして和哉はそのまま刀を構え身体に魔力を込めながら横にひと振りし、生成された剣を2本とも根元から切り取った。斬撃の余波によりアルルはそのまま後方へと吹き飛び地面へと倒れた。


「ぐっ……」

「アルル、もうやめるんだ。これ以上はお前の体が…」

「うるさいうるさい!勝手なこと言わないでよ!まだ…まだやれるんだからっ!」


 アルルは顔についた土を払いながら和哉へと叫んだ。その様子を目の当たりにし、和哉は唇を噛み締め表情を歪めた。


「そうだな、アルル。お前は頑張り屋だからな」

「えぇ、アルルちゃん。一緒に頑張りましょ?」


 突如今までに聞き覚えのない声が周囲へと響き渡る。そしてアルルの側方へと2体の骸骨が現れた。1体は長槍を構え、もう1体は杖を構えている。


「パパ、ママ!」

「アルル、さぁあの男を一緒に殺そう」

「うんっ!」


 骸骨がカタカタと顎を上下するたびに声だけが響き渡る。アルルはその2体の骸骨の手を取り、嬉しそうな表情を浮かべている。


「どうだ?俺様の楽しいおもちゃは?最っ高だろうっ!!ヒャーハッハッハッハ!」


 遠くからこちらへと叫ぶようなミューズの声が聞こえてくる。ミューズはアルルの様子を見ながら腹を抱えて大笑いしていた。


「あんなガラクタ見てパパとママだってよっ、ぶ…ぶっはははっ!ダメだ笑いが止まんねぇ!可笑しくって腹がどうにかなりそうだぜ」

「ひ、ひどい……」

「ひどいだぁ?何言ってんだよ、あれでも感動のご対面の時間だぜ?なんてったっておもちゃにはきちんと親に見えてんだからよ?むしろ感謝して欲しいくらいだぜ」


 ティアの悲痛な呟きを一蹴するようにミューズは言い放った。ミューズの呼び出した骸骨を倒していたランドやアルトもミューズへの嫌悪感を顕にする。


「お前…本当に腐ってんな。おいランドさっさと雑魚片付けてあいつやるぞっ!」

「うん…俺ももう我慢できないよ…」


 武器を構えなおすとアルトとランドは目の前にいる骸骨へと全力で駆け出していった。


「さぁさぁカズヤくん、どうすんの?どうしちゃうの?あんなにおもちゃが会いたがっていたパパとママを殺しちゃうの?」


 ミューズは楽しそうな笑みを浮かべながら和哉へと言葉を投げかける。和哉はただただその言葉を聞き流し、眼前のアルルへと目を向けた。


「それじゃあ行くぞ、アルル」

「アルルちゃん、しっかりね?」

「わかったよ、パパ、ママ!」


 そう言い、1体の骸骨を残しアルルともう1体の骸骨が和哉めがけて直進してきた。後ろにいる骸骨が詠唱を行うことで火球が飛んでくる。和哉はそれを左、右、そして体勢を低くすることでかわす。するとそこへ長槍を構えた骸骨が連続で突きを行ってきた。突きは鋭く正確で躱してはいるものの少しずつ和哉の体を捉えつつある。そして畳み掛けるようにアルルも剣で突き、遂に和哉の腹部を抉った。和哉は一瞬苦痛の表情を浮かべバックステップで後方へと下がる。


「こんなもので終わりはしないわよ?」

「その通りだ」

 

 骸骨の攻撃は続く。下がった地点めがけて今度は火球だけでなく、地面から無数の刺が生え、和哉に息つく暇を与えない。躱した先には今度はアルルが控えており、両手の剣による突きと横薙ぎ、袈裟斬りのコンビネーションで逃げ場を奪っていく。そして再び長槍を構えた骸骨が今度は全力で横に薙いだ。刀で防御するものの衝撃により先ほど抉れた和哉の腹部をさらに傷つけた。


「どうしたのお兄ちゃん、防戦一方じゃない。このままだとあの人みたいに殺しちゃうよ?」

「……………」

「ねぇ、なんで黙ってるの?本当にもう限界なの?ねえったら!」

「……なぁアルル。お前が望んでいるのは本当にこんなことなのか?」


 和哉は刀を手から落とし、アルルへと目を向けた。和哉の瞳からは敵意を感じずアルルも和哉の突然の態度に動揺してしまう。それまで満足そうに眺めていたミューズも表情を変えていた。


「望んでるよ!私はパパとママと一緒に暮らしたいんだもん!」

「それが偽りの家族であってもか?」

「貴様、アルルを誑かすな!」

「アルルちゃん、耳を貸しちゃダメよ」

 

 骸骨2体はアルルへとそう語りかけながら和哉への攻撃の手を緩めない。しかし和哉はこれらの攻撃を喰らいながらも一歩一歩アルルへと向かっていく。


「孤児院での生活は嘘だったのか?」

「そうだよ。だって私は貴方達を騙すために近づいたんだもん。ちょっと笑ったら喜んでくれて本当にやりやすかったわ」

「違うな、俺はアルルの態度全てが嘘だったとは思えない」

「そんなことないっ!私は自分の為に貴方達を騙したっ、全部、全部嘘だったのよ!」

「街で買い物をした時の笑顔も、おかゆを食べた時に泣いたこともか?」

「……っ!」


 アルルは和哉の一言に言い淀んでしまう。そして尚も近づいてくる和哉へ対し後退りをする。


「やめろと言っているだろうが!」(ころ…て…れ)

「アルルちゃんも攻撃して!」(おね…い)


 尚も攻撃はやまないが、和哉はそれらを受け流しあるいは受け止め、怒号に混じる微かな声を聞きながら歩を進めていく。ただただ正面にいるアルルだけを見据えて。


「俺はアルルが苦しんでいたことを知っている」

「やめて……あなたに何がわかるの…」

「全てわかるわけじゃない、でも今までもきっと一人で辛いことを抱えながら生きてきたんだと思う」

「やめてよっ!そんな言葉聞きたくない!これ以上近づいて来ないで!」

「騙して傷つけて、それで自分も傷ついて…」

「っ…来ないでって言ってるじゃないのっ!」


 アルルが振り下ろした剣を和哉は右手で掴んだ。手の平から血が流れ始める。アルルはその様子を見て思わず剣を握りしめていた手の力を緩めた。剣は力なく地面に落ちそして霧散する。和哉は傷だらけのままアルルの正面へと立ち、そしてアルルを包み込むように抱きしめた。


「今まで1人でよく頑張ったな…」

「…………」

「アルル、お前がやってきたことは酷く残酷だ…この先も許されることはないかもしれない」

「…………」

「過去は変えられない。きっといつまでもその罪悪感はアルルの胸に残り続ける。罪の重さに押しつぶされそうになることもあるだろう」

「…………うん」

「それでも…これからは俺もその荷物を背負うよ。だって俺達は家族になれるはずだから。お互いにまだ知らないことは沢山あるけど知っていくことはできるはずだから」

「……………………途中から、気づいてたんだ……パパとママがもう死んでるってこと…だって…自分が殺した人の姿が…あの時の……襲われた時のパパとママにそっくりだったから…」

「うん」

「でも1人でいるのは心細かったから。寂し…かったから。あの人…に呼んで…もらわなくちゃ…パパ…とママの顔……忘れちゃう気がしたから……っ」


 嗚咽しながらアルルはゆっくりと言葉を紡いでいく。和哉はアルルを抱きしめたまま静かに言葉を待った。これまで攻撃を仕掛けてきていた骸骨達もアルルの傍へといるためか攻撃を仕掛けてはこなかった。


「だから……だから……こ…ころし…ちゃった……ずっと…ずっとずっと…誤魔化して…騙して………何人も……何人も…ごめん…なさい……ごめんなさい…っう…っうわぁぁぁぁぁん」

「よく言えたな…」


 堰を切ったかのように泣き始めたアルルの頭を優しく撫でながら和哉は囁いた。骸骨と戦っていたアルト達も、ティアもその様子を見ていた。一方でその様子を見て怒りの感情を顕にしているものが1人いた。


「ちっ!なんだなんだその三文芝居はよぉ!!全っ然面白くねえんだよっ、見てて吐き気がするぜ。おらぁっ糞餓鬼、お前のパパとママがどうなってもいいのかよぉ!俺の力がなきゃニ度と会うことなんざできやしねぇぞ。それにここで俺に逆らったらこの後どうなるかわかってんだろうな?傷痕が増える程度じゃすまさねぇぞこらぁ!」


 ミューズはアルルのことを指差しながら威嚇するように暴言を振るう。アルルは両腕で自分の体をギュッと抱きしめた。和哉は少しだけしゃがんでアルルへと目線を合わせると笑顔で頷いた。


「大丈夫だ、これからは俺が味方になるから」

「お兄ちゃん……」

「もうお父さんとお母さんを休ませてあげてもいいか?」

「………うん」


 和哉はアルルを背に数歩前に歩き出す。すると今まで攻撃を仕掛けてこなかった骸骨たちが2体とも動き始めた。和哉は全身に強化の魔法を用い同時に気を練る。その瞬間地を駆け刀を拾い再度握り締め2体同時に上段から切り伏せた。骸骨達は一瞬にして武器ごと切断され、辺りに骨が散らばる。魔力によって造られていたためか徐々に骨が塵となっていく。


「さようなら、貴方達の娘さんは俺が責任を持って守ってみせます。どうか安らかに眠ってください」

(ありがとう…)


 和哉はそれらに向かって最期の言葉を投げかけた。そして全てが霧散するその瞬間僅かに2人の声が聞こえた気がした。


 ミューズは苦虫を噛み潰したような表情をし、頭を掻いてため息をついた。


「っだよこの展開は!おもちゃは取られるわ、骸骨は消されるわ散々じゃねぇか!あぁー胸糞悪い。こうなりゃお前ら全員ぶっ殺してそのおもちゃにはもう1回自分の主人が誰なのかきちんと理解してもらわねェとな…」


 ミューズは舌なめずりをしながらこの一帯を見渡した。そしてティアやまだ気を失っているメル、アリア達へと目を向けた。


「まずは…そうだな……あいつにするか」


 後ろに背負った楽器のような武器を掴み、ティアへと向けて弦を弾く。すると弾く度に先端へと魔力が蓄積されていき、それは徐々に巨大な塊へと変化していく。それはまさにミューズがこの場所を訪れた際に和哉を狙った武器であった。


「逃げてー姉ちゃん!」

「お姉ちゃん危ないっ」

「お前のお気に入りの女からもらったぜ!」


ランドやアルルが叫び、ティアもその場から逃げ出そうと子供達を背負うが、流石に2人は運ぶことができない。狂ったような叫び声を上げながらミューズは攻撃を仕掛ける。ティア達目掛けて衝撃波が直進していく。しかし和哉はティア達の元へと走りながらも焦ることなく呟いた。


「頼むぞルティス」

「やれやれ人使い、いや精霊使いの荒い主だな」

「んだとっ!?」


 ティア達へと衝撃波が当たる寸前のところでその攻撃は突如現れた障壁によって防がれた。そしてその攻撃を防いだのはこれまで倒れてピクリとも動かなかったルティスであった。








 










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