第41話:夢想
「行方不明ですか…」
ティアの言葉に和哉とアルトの二人が静かに頷く。
子供達が寝静まった後にリビングへと集まり、集めてきた情報について話していた。その場には和哉、ティア、アルトそしてルティスの四人がいた。
和哉とアルトの二人はアルルの両親らしき人物が七年前に失踪したという情報を得たことを話していた。行方不明だったことはアルルの言葉からも分かっていたので手がかりがゼロなのは変わりないがその情報に関して和哉とアルトの二人共が引っかかる部分があったため話していた。
和哉達の話をまとめると、アルルの両親は騎士団に所属しており、実力はあったものの自分達の生まれた町を守りたいからと別の町に赴任していたようだ。だが七年前に任務中に突然姿を消してしまったということだった。不可解に思った別の騎士団員達が彼らの家を捜索したところ、アルルの両親の姿は無く、またその家にいるはずの彼らの娘であるアルルの姿も見えなかったということらしい。ちなみに家の中は荒らされた形跡も無く、とても強盗が入ったようには見えなかったようだ。
「ちなみに任務に嫌気が差して娘を連れて夜逃げしたって線が一番濃厚らしいぜ」
「…それじゃあアルルはなんで今両親とはぐれてここにいるんでしょうか?」
「さぁね、そこらはアルルに聞いてみるしかないだろ」
「…………」
アルトとティアの言葉が静かな部屋に響く。和哉とルティスは何か考え込むように黙っていた。
そこへ上の階から声が聞こえてきた。
「…またか」
「そうみたいですね……私行って来ます」
「…我も行くとしよう」
そう言ってティアとルティスは上の階へと上がっていった。一度目を覚ましてからも夜になるとアルルはうなされて激しく暴れることがあった。最近はティアのセイレーンとルティスの魔法によりすぐに落ち着くようにはなったが、この短い期間にそう何度も起きていると心配になる。ただ幸いといっていいのかよくわからないが、アルル本人は暴れているということを自覚しておらず、うなされている間に何か夢を見ていたか聞いてみても覚えていないようだった。
結局のところ今回得てきた情報はそれほどいい知らせでも無く、それどころか謎を深めるものであり、そして今回の聞き込みではアルルと一緒にこの町へと向かっていたという人物については何の情報も得られないでいた。
ートントン
扉を叩く音が聞こえてくる。和哉は返事をして扉の前へと移動した。
翌日、流石に全員の前では話し辛いかもしれないということで和哉が話を聞く形になった。
「お邪魔します」
「はいはい」
扉を開けアルルを部屋の中へと招きいれた。アルルは部屋の中へとゆっくりと入りあたりをきょろきょろと見ている。和哉の部屋にはクローゼットと机と椅子が一式、後はベッドがあるだけで他にはこれといって何も無かった。
「ははっ、何もない部屋でごめんな?」
「そ、そんなつもりじゃ…ごめんなさい」
アルルはぺこりとお辞儀をし、申し訳なさそうな表情を見せる。そんなアルルに和哉は気を使うことは無いと告げた。
「それじゃあこれに座るといいよ」
和哉は椅子を差し出し自身はベッドサイドへと腰掛ける。アルルは和哉から椅子を受け取り、それに腰掛けた。
「えっとさっきも話したけどちょっと話を聞かせてもらっていいか?」
「うん、私の答えられることなら」
「アルルはいつ頃から両親を探しているんだ?」
「えっと…よく覚えてないけど多分七年くらい前かな?この前はぐれた人とずっと一緒にパパとママを探しているの」
「そのはぐれた人ってアルルの知り合いだったのか?」
アルルはその言葉に首を縦に振った。
「何度か家に来てパパとママと話してたのを見たよ。それと家に来るときはよくパパとママと同じ服着てた。それであの日パパとママがいなくなったから探すのを手伝わせてくれって言ってたの」
(両親の知り合いならいなくなった時に探すのを手伝わせてくれといってもおかしくは無いか。同じ服をよく着ていたようだし、騎士団員ならいなくなったという情報も伝わりやすいはずだが………他の団員にアルルを連れて行くことを告げることなく去るなんてことがあるのか?本当に探す気があるなら一人より大勢のほうがいいはずなのに……やはり)
和哉はアルルの言葉を聞きながら頭の中で浮かび上がってくる疑問に対して、何らかの答えを出そうとしていた。しかし出てくる答えは当たっていて欲しくないという物であり、気持ちに陰りが出てしまう。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな……その人の名前確かイファン・マシューズだったよな?」
「うん、私はそう聞いてるよ?」
「そっか。すまないなそれじゃこれでこの話は終わりだ。さてとっ、じゃあちょっと準備するからティアや皆と一緒に下で待っててくれるか?」
「はーい」
和哉がそう言うとアルルはぺこりとお辞儀をして部屋から出て行った。今日は元々明日のアルルの歓迎会のための買い物に行くことに決めていたのだ。勿論アルル本人には歓迎会のことは告げておらず、サプライズという形をとろうかと計画しているところである。ちなみにこの町から出て少し離れた場所にある湖で行う予定だ。和哉も昨日までは、城に通いながら情報収集をしていたが、今日、明日と非番のため今日は買い物に付き合うことになっていた。
扉が閉まるのを確認しながら和哉は少しの間考え込んだ。しかしいくら考えて推測は出来たとしてもその考えも根拠の伴わないものであり、悩みの種は尽きない。
(何か嫌な感じはするがいつまでもこうしていても仕方ないしな…とりあえず気持ちを切り替えて買い物に行くとするか)
和哉はどこか引っかかる感覚を覚えながらも、いつまでも待たせていては悪いと思い、両手で頬を二度ほど叩きティア達が待っているリビングへと向かった。
「ねぇねぇ今日は何を買うの?」
「そうだな、とりあえずは今晩のご飯の材料とかかな?」
ワイワイと人が賑わう町の中を歩きながら和哉と手をつないでいるメルが和哉へと話しかけてきていた。ちなみに今日の面子は和哉、ティア、アリア、メル、アルルの五人となっており、アルトとランドはルティスと一緒に家で留守番をしていた。誘っては見たもののアルトとランドは、空いている時間に新技の鍛錬を行いたいと言っていた。和哉自身もアルトとランドに負けず劣らず、日々新技の鍛錬や通常の鍛錬を欠かさず行っているが、二人共真剣に取り組んでおり前回のセイレーンとの戦いの時のように、一緒に戦う身としてはとても頼もしい存在となっていた。一方ルティスは少し考え事があるからという理由で一緒に来ることは無かった。どうかしたのか尋ねてみても、心配するなとお茶を濁されていた。
「皆何か食べたいものはある?」
ティアは四人に向かってリクエストを尋ねてみた。アリアとメルは二人してなにがいいかなと考えながらうんうん唸っており、アルルは首を振りながら特に食べたいものはないと手をつないでいるティアへアピールした。ティアがアルルに遠慮しなくても言いと伝えても本当に無いといい、ティアもほんの少しだけ困った顔をしていた。
「俺は何かあったかい物がいいかな?最近夜は少しずつ冷え始めてきてるし」
和哉は皆が答えを出すのを迷っているのを感じ、自分が食べたいものを案として出してみた。やはり冷え始めてくると暖かいスープやお鍋などが恋しくなってしまうものなのである。そうしていると隣にいたメルがぱっと顔を上げた。
「じゃあシチューがいい!」
「アリアも~」
メルの言葉につられるようにアリアも手を上げて賛同する。その言葉にティアは人差し指を頬に当てるようにして思案している。
「そうね、うん。そうしましょうか。アルルもシチューは苦手じゃない?」
「うん、大丈夫」
「そう、よかったわ。それならシチューの材料を買いましょう」
「「はーい」」
ティアの言葉にメルとアリアが返事をした。和哉はそんな状況を眺めながらゆっくりと歩いていた。
その後はシチューに入れる野菜や肉を買うために八百屋と肉屋へといき、忘れないように牛乳も買った。ちなみにその時に明日の歓迎会のための材料も買った。人数が人数なだけにそれなりの量にはなるのだが、和哉という男手があるためさほど荷物運びには困らなかった。ただ必然的に両手がふさがってしまうためアリアやメルには恨めしい目で見られ困ったのだが。
全ての材料を買い終えたところで和哉は四人に向かって話しかけた。
「それじゃあ最後にもう一軒寄るところがあるんだけど皆いいか?」
「はい、多分あの店の向こうにあったと思います」
「?」
メルとアリアもうんと頷いており、アルル一人だけ頭に?マークが浮かんでいるようだった。アルルはティアの袖をクイクイと軽く引っ張るとティアに話しかける。
「材料も全部買って、もう帰るだけだと思ってたんだけどまだ何か買うの?」
「ふふふ、そうよ。着いたら分かるからもう少しだけ待っててね?」
ティアはアルルの頭をなでながら微笑んだ。アルルもどこに行くか疑問に思いながらも、なでられている頭が気持ちよかったため、特に何も言わずティアに連れられて歩き出した。
ティアが指し示していた方向へと向かっていくとそこには大衆向けの洋服の店があった。王都にあるだけあって大衆向けとはいえ中々洒落ている店作りであった。アルルはその店を見ながらティアへと目を向ける。
「ここは?」
「洋服のお店よ。今日はこれからここでアルルの服を買おうと思っているの。いつまでも私のお下がりじゃかわいそうだもの」
「そんな…服なんて別に。それにメルやアリアの服は?」
「気にしないでっていってるでしょ?貴方はもう私達の家族なんだから。それとあの子達はアルルが家に来る前に買ったから今日はお預け。さぁ一緒に選びましょう?」
「アルルお姉ちゃんのために私が可愛い服を選んであげる!」
「アリアもえらぶよ~」
「ちょ、ちょっと」
アリアとメルに背中を押されながらアルルはティアと共に洋服店へと入っていった。和哉も後に続いて店内へと進む。
店内は意外と広く女性用の服は勿論のこと男性の服も置いてあった。和哉の元いた世界で使われているポリエチレンなどの特殊な生地はさすがになかったが、逆にこの世界にしかいない生物で作られている服なども沢山あり見ていて中々楽しかった。
和哉がゆっくりと店内の服を見ながら歩いている間にアルルの服選びは着々と進んでいる。時折
「やっ、そんな服着れない」
「そんなことないよ、アルルお姉ちゃん可愛いもの」
「でも…」
「いいから、早く着て見せて」
というアルルとメルとのやり取りが聞こえてきていた。アルルも最初の内は断っていたものの途中からは諦めたのか大人しく従うようになっていた。年下なのに主導権を握っている辺りメルは意外とやるなぁと感心してしまっていた。ティアとアリアはメルがアルルに服を着せている間にアルルに似合う服を選んでいた。
「これどう?」
「えぇとっても可愛いと思うわよ」
「えへへ~アルルおねえちゃんよろこんでくれるかな?」
「もちろんよ」
アリアが差し出す服を見てティアは頷きながら相槌をうっていた。アリアも色々な服を見ることができてとても楽しそうである。やはりどの年令の女の子にとってもこういう時間は楽しいものなのだろう。本人達が感じているよりもあっという間に時間は過ぎていった。
そして
「カズヤさん、ちょっとこっちに来て見てください」
ティアに呼ばれて試着室の近くへと歩いていく。そこにはティアとアリアとメルの三人が立っており、どうやら試着室の中にアルルはいるようだった。
「アルル、出てきてみて?」
「う、うん」
ティアの呼びかけにこたえてアルルが試着室からゆっくりと出てきた。アルルは白と赤を基調とした長袖の服に膝丈より少し短い赤のスカートそして膝より上まであるソックスを履いていた。おそらくそれらを合わせたのは傷が目立たないようにするためのティアの心配りだろう。
「ど、どう?」
アルルは恥ずかしそうにもじもじしながら立っている。どうやらこのような服はあまり着慣れていないようだ。初めて会った時にもお世辞にも服に気を使っているという風には感じることが出来なかった。だが慣れない服を着ながらもアルルはじっと和哉へと視線を向け言葉を待っているようだった。
「うん、とても似合っている。可愛いよアルル」
和哉は素直にそう返事をした。アルルも和哉の言葉を聞いてパーッと表情が明るくなった。
「良かったね、カズヤさんも似合ってるって」
「うん、ありがとうティアお姉ちゃん!カズヤお兄ちゃんもメルもアリアも!」
皆にお礼を言いながらアルルはずっと笑顔でいた。和哉達もそんなアルルの表情を見ることができて喜んでいた。
その後着ていた服とは別の服を数着購入してその店を後にした。晩御飯の時間もアルルはとても嬉しそうにしており、漸く自然体を出せるくらいまでには気を許してくれたのかなと考えていた。
―その夜
アルルは購入した服をきちんとクローゼットへとしまうとベッドへと入った。
(ふふふっ楽しいな。こんなの本当に何年ぶりだろう)
布団で顔を隠しながらも笑顔が崩れることは無い。それほどまでに嬉しくそして楽しかった。
(いつまでもこんな時間が続くといいな、こんな楽しい時間が)
目を閉じながらそんな風に考える。そしてゆっくりとまどろみ闇に包まれる。
だが…
(な-か-ち--いし--だ?わ--たとは-わね--な)
「いやっ……いやだ……」
頭の中に響き渡る声、そして眼窩に鮮明に映るその姿。
(おま-は--しょう-れの-うぐだよ)
「イヤアアアァァァァァァァァァァー!!」
僅かな安寧の時さえ許されていなかった。
投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
次も暫く遅れるかもしれませんが、11月中には上げようと思います。
それでは




