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帰る場所  作者: S・H
38/50

第34話:港町



―ガタガタ


「♪~♪~」


 坂道を馬車に揺られながら和哉達一行は目的地へと向かっていく。


 何かあったときのためにも、出発時から和哉は御者の隣に座って辺りを見ていたのだが、ここにきて馬車の中から歌声が聞こえてきた。すっと後ろを振り返って中を覗いてみるとアリアとメルが歌っているようだ。


「それって海の歌なのか?」

「うん!」

「私達は海は見たこと無いんだけど歌は知ってるの。お兄ちゃんは海見たことあるの?」

「何回かだけだけどな」

「いいなぁ…はやくうみみたいなぁ」


 海への思いを吐露し待ちきれないような表情を見せるアリアに笑いかけると、和哉はアリアのすぐ横にいるティアへと話しかけた。


「時間的にはもう少しなんだろう?」

「そうですね。と言っても私も聞いた話なので頼りないのですけど」


 苦笑しながら答えるティアに気にしなくていいと答えると和哉は再び前を向いた。ちょうど坂道を登りきろうとしていたところである。その直後和哉の視線の先には水平線が広がって見えた。


「おっ、皆見えたぞ!」


 和哉の声と共に馬車の窓から顔を出し外へと目を向ける。


「「うわあっ!」」

「おっきいなぁ!」

「綺麗…」


 各々の感嘆の声が馬車の中へと響き渡った。初めて見る海は皆にとって中々に魅力的だったようである。これで時期も合えば最高だったのだろうが今回にいたっては仕方が無かった。


「あそこがセルベスか…」

 

 皆の感嘆の声もほどほどに和哉は視線の先に小さく見える町並みへと目をやった。今回の国王からの依頼の場所へと。


















「貴殿等は近頃魚を食べているかね?」

「いえ、感謝祭の日は食べましたけどそれ以降は食べてませんね」

「それがどうかしたのか?」


 和哉達から向きを変え、執務室の窓の外を眺めながら王突然質問を投げかけてきた。その問に答えたものの、和哉とアルトの頭の上に疑問符が浮かぶ。その疑問は解消されぬまま、王から次の言葉が投げかけられた。


「ここ十数日の間に王都へと流通してくる魚類の量が極端に減ってきているのだ」

「はぁ…?」


 相変わらず話の展開が見えてこない。魚類の量が減っていることと自分達が呼ばれることへの関係性がつかめなかったからだ。ともあれこれだけでは分からないため和哉もアルトも続きを聞くことにした。王は厳しい声質を保ったまま話を続ける。


「王都というのは少し違うか。厳密に言えばこの国内で流通している量が減っている」

「国内ですか?………単に漁獲量が減っているだけなのでは?」

「そうならばよかったのだがな。いや、よくはないが……先々月の終盤に大漁だという報告がセルベスから送られてきているのだよ」

「それは…妙な話ですね」


 ここで漸く王がこちらへと振り向いた。一呼吸置いて言葉を放つ。


「そしてここからが最も重要なのだが…ここ数日の間に魚類を取引している者達が悉く何かしらの罪を犯している。つい先日も王都でそのような者を捕まえ投獄したばかりだ」

「っ!?」

「捕まえた者達の特徴も奇妙なのだ。どこかうつろな目をしていたかと思うと突然気が狂ったように叫びだすという。別の町で捕らえられた者も王都へと送られ、カーツの魔法で少しは落ち着いたようだがそれもいつまでもつか分からんようだ」

「…陛下、王都で捕まえられたという者は、あの通りにある魚屋の店主のことでしょうか?」

「あぁ、その通りだ。耳が早いのだなカズヤ殿は」

「………」


 魚の流通不足の話から自分が関わっていた事件の加害者の話がここに来て出てきた事に和哉は驚いた。あの事件に関しては和哉自身何か言い知れぬ違和感を感じていたのだが、まさか本当に裏があるとは思ってもいなかったからだ。


「このような事件は行った罪に対して相応の罰を執行するのだが、今回のように同様の事件が起きた以上その者達の周辺事情も通常以上に入念に調査することに決めたのだ。そしてその者達について色々と調べたところ、ある共通点が見つかった」

「共通点ですか?」

「うむ、その事件を起こす前にその者達はセルベスへと仕入れに行っているようなのだ」

「ふーん、とにかく変な事した奴等がセルベス行ってたからセルベスに行ってこいってことか。まぁそれはいいとして、つーか姫の近衛はどこ行ったんだってあの厳ついおっさんになんか言われんじゃねえのか?」

「その点については心配するな。あれにはよく言っておくつもりだ」


 王に対してぶっきらぼうな言い方をしつつも、アルトの言うことも尤もだった。だがその点については王も察していたようであり、アルトの言葉にすぐさま返答をした。和哉も頭の中で自分の考えを纏めると顔を上げて王へと告げた。


「わかりました。この件自分も少し気になりますので準備が出来次第セルベスへと行かせて頂きます」

「そう言ってくれると助かる。騎士団の小隊も向かわせてあるゆえ、合流して調査に当たってくれると嬉しいのだが……」

「はい、承知いたしました」 

「馬車はこちらで手配するつもりだ。少し大きめの馬車を手配するので、貴殿が連れて行きたい人材がいるならばギルドで雇うなり、人伝で連れて来るなり好きにしてくれたまえ………っと言い忘れていたのだが罪を犯した者は殆どが男だったようだ。何の影響を受けてこうなっているのか分からないが貴殿等も十分に注意して臨んでくれ」


 王のその言葉を聞き和哉達は敬礼をして部屋を出て行った。


 部屋に残った王とカーツは和哉達が出て行った部屋の出口を見ながら話し始めた。


「さてカズヤ殿に向かってもらったのはよいが、向こうにいる者と協力できるだろうか?」

「恐らく無理でしょうね」

「やはりお前もそう思うか、カーツよ」

「向こうにいるのは何しろ例の五番隊ですからね」

「やれやれ……気苦労が絶えんな」

「それはむしろカズヤ殿が言うべき言葉かと」

「その通りだな…協力は無理かも知れぬがあれもいることだしな。頼りにしているぞ」


 王は任務の成功を祈りつつカーツと共に執務を開始した。

 















「さてと…陛下の最後の言葉が少し気になるけど戻って準備するか」

「皆に準備するように言っておかなくていいのか?ルティス嬢に頼めば一発だろ?」


 アルトに皆と言われて頭の中に孤児院の面々の顔が浮かんだ。初めから大き目の馬車を用意してくださる辺り、王もその辺りを分かってて言ってくださったのかと思いつつも和哉は少しだけ迷っていた。


「うーん、皆を連れて行っていいものなのかな?今回も前回と同じくらい危ない感じだろ?」

「でもお前は自分が皆を護れなくなるのが嫌だから皆にここに移るように言ったんだろ?ここで連れて行かなきゃ意味ねぇじゃねぇか。それにセルベスの町自体が危険だってんなら漁業に関わる者だけおかしくなるってことにはならねぇさ。俺の見立てでは少なくとも町の内部は安全なはずだ」

「…………」

「あん?どうした?」

「いや、意外だったからな。お前も色々と考えてたんだな」

「意外は余計だ!で、どうすんだ?」

「……そうだな、よっし皆も連れて行くか」

「おうっ」


(ルティスがいるから大丈夫だとは思うけど近くにいてくれたほうが俺も安心するしな。それに…やっぱり自分で決めた以上約束は護らないとな)


 胸中の思いは隠しながら和哉はルティスへと連絡した。





 こうして孤児院の面々も含めた七人でセルベスへと向かうことになり現在に至ったわけである。 


















 宿へと到着し部屋を取った和哉は自分の荷物の整理を終え、子供達の荷物の整理を手伝うとアルトと共に部屋の出口へと向かった。ちなみに部屋割りはアルト、和哉、ランドの三人部屋とルティス、ティア、メル、アリアの四人部屋である。和哉はティアにも外出の旨を伝えようとこっちに来てほしいと合図をする。


「俺達より先にこの町に来た騎士団の情報について聞いてくるから少し待っててくれるか?」

「わかりました。子供達には私から言っておくので気をつけて行って来て下さいね」

「あぁ」


 いつもと同じようにティアの頭の上に手を置いてぽんぽんと撫でてやる。顔を紅くしながらも嬉しそうに微笑むその顔を見ると元気が出てくる。


「おーおー、熱いね熱いねぇ。今ってそんな季節だったか?」

「うるさい。それじゃあ行って来ます。ルティス、少しの間よろしく頼むな」

「承知した」

「あっ……いってらっしゃい、カズヤさん」


 横にいるアルトに茶化されながらもそう告げると、和哉とアルトは部屋を出て行った。


 和哉達が出て行った後もティアは部屋の入り口で立っていた。名残惜しそうに頭の上に手を置いてボーっとしている。


「どうしたのだティアよ?」

「……えっ…あっなんでもないですよっ!少し考え事をしていただけですっ。あっそうだ、ランドを私達の部屋に呼んでおいたほうがいいですよね?ちょっと隣へ行ってきますね!」

「姉ちゃん、俺もうこの部屋いるよ?って聞いてないし…」


 ランドの言葉も耳に届かずティアはすぐさま部屋を出て行ってしまった。そして隣の部屋へ駆け込んだ途端にへたりと床に座り込んでしまった。


(私、今何考えてたのっ……カズヤさんに頭撫でられると温かい気持ちになる………でも……それだけじゃ満足できなくなってるの?………)


「いやらしい…」


 自分がそういうことを考えていたことに対する照れ隠しなのか、自己嫌悪なのか思い人の知らないところでティアの心は渦巻いていた。
















「とりあえずこの町に赴任している騎士のところにでも行くか」

「あいよ、ちゃちゃっと居場所が分かればいいんだがな」

「だな」


 そう言いながら和哉とアルトは町の中を歩いていく。


 事件が起こっているにも関わらず、町の中は活気が溢れていて賑わっている。流石に港町だけあって魚屋が最も多く立ち並んでいるようだ。チラッと見てみたがどの魚も新鮮そのもので、調理せずともその味を楽しめそうである。


「旨そうだな~♪おいカズヤ、今回の任務終わったら魚食べようぜ!」

「そうだな、普段はこんなに新鮮な魚は食べらんないもんな」


 王都でもそうなのだが、普通町で流通している魚は氷の魔法などで何とか鮮度を保たせているものが多く、生で食すことはほとんどないのだがここではその心配をせずともよさそうである。


「なら、なおさら急がないとな。ティア達も宿で待ってるし早く行くとしよう」


 若干遅くなっていた歩みも元通りになり、周りにいる人々に話を聞きながら赴任先へと向かった。


 間もなくして、赴任している騎士団員が常駐している建物へと到着した。入り口付近の窓越しに中を見ると、中には数人の騎士団員がいるようであり各々忙しそうにしている。和哉はドアをノックゆっくりと

扉を開いた。


「失礼いたします。私達は陛下の命を受けてこの町に調査に来た者です。名をカズヤ・ヒイラギ、そして隣にいる者がアルト・ランバードといいます。以後お見知りおきを。陛下から書状をお預かりしていますのでこちらをどうぞ」


 和哉は速やかに自己紹介を済ませると書状を渡した。騎士団員達はそれを確認すると和哉達へと敬礼を行った。


「遠方よりご苦労様です!自分達に協力できることがあれば何なりとお申し付けください!」


 一糸乱れぬその様は見事といわざるを得なかった。 


「そんなに畏まらなくても結構ですよ。私達は役に就いたばかりの新米ですから。比べて貴方方は経歴も長いいわば上官です。貴方方がいつも話す通りに話してください。その方が私達も任務が行いやすいですし」


 和哉の言葉に耳を疑う騎士団員達だった。だがしかし自分達に友好的な視線を向けてきていることを感じたのか恐る恐る言葉を発した。


「……本当に大丈夫なのでしょうか?」 

「はい、もちろんです」

「…君は少し変わってるな」

「そうでしょうか?」

「あぁ、だがその姿勢は我々も嬉しく思う。これからよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 和哉はそう言って握手を求めた。相手も少し驚いたもののすぐに手を握り返してくれた。数秒の後、和哉は手を離すと正面の騎士団員に向かって質問を投げかけた。


「早速なのですがこの町に王都の騎士団の小隊が訪れているはずなのですが、どこへ向かったかご存知ですか?」

「その方なら二階へいらっしゃいますよ。ただ…」

「おいっ!滅多な事を言うもんじゃない!」

「はっ、はい!失礼いたしました」


 年若い別の団員が和哉の質問には答えてくれたのだが、その言葉の後に言おうとしていたことは正面の団員の言葉にかき消されてしまった。


「…?……それではその方の部屋へ案内していただいてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、着いて来てくれ」


 多少疑問は残ったが和哉は団員に断りを入れそのまま二階へと足を進めた。


―コンコン


「入れ」

「失礼いたします!ウェルス殿、王都より派遣された方々が御見えになりました」

「下がれ」


 騎士団員に連れられて中に入る。すると視界に入ってきたのは椅子に偉そうにどっかりと座った男の姿だった。緑の髪と緑の瞳を携えたウェルスという男は和哉達を睨みつけ、和哉達を連れて来た騎士団員をすぐさま下がらせた。


 印象はあまりよくは無いが任務を遂行するために多少のことは目を瞑ろうと和哉は自己紹介を始めた。


「陛下の命を受けこの地へと赴きました。自分はカズヤ・ヒイラギ、私の隣はアルト・ランバードといいます。これから任務遂行の時までよろしくお願いいたします」

「……………」


 ウェルスは口を閉じたまま黙っている。暫くの間沈黙を保っていたが椅子から立ち上がりつかつかと音を立てて和哉の方へ歩み寄ってきた。


「僕の名前はウェルス・ウル・カザド。皇国騎士団五番隊隊長だ……そして貴様等のような下賎な輩とよろしくするつもりなどない」


 その言葉と同時にウェルスは和哉の胸倉を力強く掴み上げた。憎しみを込めた瞳で和哉を睨みつけてくる。


「今回の任務は五番隊の小隊で行う。貴様等はさっさとこの地を去れ」

「……私達は陛下の命でこの地へと赴いたと申し上げましたが、これは陛下の意に背くのではありませんか?」

「口だけは達者なようだな。大方その口で以前の御前試合も他の隊長を買収したんだろう?薄汚い奴らめ」

「…仰っている意味がよく分かりませんが」

「下賎な輩には人間の言葉は通じないか。父、カーシェルの面を汚した分際が」


(こいつはカーシェルの息子なのか?道理で憎まれているはずだ)


 ウェルスは自分の父親が恥をかかされたことで和哉を憎んでいるようだった。勿論あのカーシェルの息子というだけあって、貴族以外の者への偏見が激しいようでもあったが。


「ふん……なんにせよこの任務に貴様等の居場所など無い。下がれ」

「…………失礼いたします」


 言われたい放題ではあったが、あのままあそこにいても事態が好転するとは思えなかったため速やかに部屋から退出した。


「よく殴らなかったな?」

「当然だろ?あそこで殴ってたら向こうの思う壺じゃないか」

「よくわかってるじゃねぇか、ああいう奴にはあれでいいんだよ」

 

 アルトの言葉に溜息をつきながら返答する。実際いい気分などこれっぽっちもしなかったが、あの程度のことは受け流さなければこれからはやっていけない。


「あいつには任務を達成することでぎゃふんと言わせてやるさ」

「だな!よっし、そんじゃ情報収集からまた始めるか!って言ってもここにいる奴に聞けばあっさり分かると思うけどな」


 アルトの言葉通りこの建物にいた騎士団員に聞いたらあっという間に目的の場所は判明した。どうやらセルベスの町を出てすぐのところに岬がありその洞窟が怪しいらしい。


 その情報を頼りにこの町出身の騎士団員や、町の人々にも色々聞いてみたところ様々な情報が手に入った。そこには海の精霊を祭っている祠があるようで、漁を行った後の者や魚類の仕入れを行った後の者達は日頃の感謝を込めて、皆そこでお祈りをすることがこの町での風習なのだそうだ。


 また原則としてその祠には女性しか立ち入ってはいけないというものがある。それはこの祠に祭られている精霊に関係するらしく、町の者はほとんどの者が守っているのだが他の町から仕入れに来る者はそれを無視する者もいるらしく困っているということだった。


 とにもかくにも問題の人物達は皆そこに入った可能性があることからそこが最も怪しいということが分かった。





「それじゃあ日も暮れ始めたし探索は明日にして宿に戻って休むとするか。精霊が絡んできたからルティスに話を聞いてみるのもいいかもな?」

「それでいいんじゃねぇか?ルティス嬢は確か女王様みたいなもんなんだろう?きっと何かしら知ってるさ」


 情報収集を終えて騎士団の建物に戻ってきた時には太陽が沈み始めている頃だった。和哉は一緒に情報収集を手伝ってくれた騎士団員へと向き直る。 


「今日はありがとうございました!貴方方のおかげで色々な情報をつかむことが出来ました」

「礼を言うのはこちらのほうだ。君達のような偏見をもって人を見るようなことはしない者に会えてよかった。あのウェルスとかいう若造をぎゃふんと言わせてやってくれ!」


 そう言って和哉達は宿へと戻っていった。騎士団員は和哉達の姿が見えなくなるまで敬礼をしていた。












今回はまた新しいキャラが出ました。と言っても主人公に対して偏見しか持っていない男ですけど(^^;)

次回は来週中には上げようと思いますのでまたよろしくお願いします!

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