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帰る場所  作者: S・H
37/50

第33話:新たな始まり

 








 ―人は知らぬ間に見えない壁に阻まれていることがある


 ―それが無ければ別の未来もありうるはずなのに


 ―それに気付かずそこでただ立ち尽くすか


 ―あるいは無意識のうちにその壁を避けて安易な道へと進む


 ―それは簡単に抗うことなど出来はしない


 ―だが時にその壁を打ち砕く者が現れる


 ―意図してかあるいはそうせずとも


 ―その先にある未来を掴み取る者が


 ―時にその波紋は広がり人々の未来をも切り開く


 ―その者の生み出す運命という名の流れが奔流となるか


 ―それとも一時の波紋で終わるか


 ―それはその者の心次第である


























「おっかいもの♪おっかいもの♪」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんとお買い物♪」

「二人は今日もご機嫌だな」

「ふふっ、そうですね」


 氷の月の四日、あのある意味悪夢の感謝祭から四日が経っていた。街中の祭りの時の賑わいも今はすっかり元通りとなっている。


 今日は四人で食材の買出しに来ていた。ちなみにルティス、アルト、ランドの三人は何でも新技の特訓だとかで留守番中である。


 左からメル、ティア、和哉、アリアの順で並んで歩いておりメルはティアと手を繋いで、アリアは和哉と手を繋いでいる。アリアとメルの二人はいつも通りに機嫌良さそうに買い物を楽しんでいた。和哉とティアはというとその光景を微笑ましそうに見ている様子に

「よっ、そこの旦那に奥さん!子供連れでいいねぇ、今日は肉が安いよ!」

なんて言われてしまい顔を紅くしてしまうばかりであった。


 そうこうしている間に目的の物を次々と購入していった。その中には買えない物もあったのだがそれは仕方がないと諦めて、最後にいつもの八百屋へと出向いた。


「おじさん、こんにちは!」

「こんにちはっ!」

「おうっ嬢ちゃん達、お買い物かい?」

「「うん!あれとあれとあとそれください」」


 八百屋の店主に挨拶をし、上機嫌のまま野菜を指差していく。八百屋の店主も二人の指示通りに野菜をとっていきあっという間に全て集め終わった。そしてそれを二人へと丁寧に渡すと別の野菜をいくつか掴んで和哉へと渡した。


「カズヤさん、こいつも持っていってくれ」

「こんなにですか?あの時のお礼ならもう何度もして頂きましたし、もうお気持ちは十分頂きましたよ?」

「そうは言ってもなぁ……倅を助けてもらったわけだし簡単には返しきれねぇよ」

「うーん、そうですね。では今回はありがたく頂きますね。そしてこれで最後にしましょう。このお店にはこれからもお世話になるつもりですしお互い貸し借りは無しにしましょうよ」

「そうかい……まぁ恩返しで気を遣わせちゃあ意味がねぇよな…よっしそうするとするか!そんならもう少し持っていってくれや」


 そう言って店主はまた別の野菜を集め始めた。御礼を断られることに少しだけ頭を悩ませていた店主だったが、和哉の言葉を聞いて漸く吹っ切れてくれたようであった。


「それにしても…どうしてあんなことになっちまったのか…あそこの店主とは昔から仲良くしてたんだが。早く元に戻ってくれるといいんだが」


 野菜を差し出す時に店主はすぐ近くに見える魚屋の店へと目を向けた。今は休業中の札が張ってあり、店には商品どころか誰の姿も見えない。その店主の目はどこか物悲しそうに見えた。


(あの事件のことか…)


 店主の姿を見ながら和哉はある出来事について思い出していた。


 



 


 事の次第は十日ほど前に遡る。その日は孤児院の一行が王都へ引っ越してきた初日だった。孤児院の荷物は、和哉が荷物を持ってルティスがシフトムーブで和哉を飛ばすという荒技で既に運び終えていた。そのため一行は沢山の荷物を抱えることなく、最低限の荷物だけ持って馬車での移動を済ませることが出来ていた。


「すっごいおおきいねー!」

「人がいっぱいだ!」


 馬車の上から、カーサの町とは比べ物にならないほどの大勢の人を見て、アリアとメルの二人はこの町に興味津々だったようだ。自分の両脇で楽しそうにしている二人に相槌を打つようにティアは笑いかけた。


「そうね、あら?あそこに人だかりが出来ていますね?」 

「本当だ、何があったんだろう?」


 ティアとランドの声を聞いて前方に注意を向ける。よく見ると馬車の前方に不自然な人だかりが出来ていた。そしてなにやら大声で叫んでいるのが聞こえてくる。


「ちょっと見てくるよ、アルトこっちは任せた」

「おう、いってこい」


 アルトにそう告げると和哉は馬車から飛び降りた。野次馬根性というわけではなく、ただなんとなく嫌な予感がしていた。体勢を立て直すと、すぐさま人だかりへと近づいていく。そしてそのまま人波をかいくぐり視界に見えてきたのは包丁を小さな男の子に突きつけている男の姿だった。


「ひっく、ひっくおとうさんっ!」

「なぁ頼むっ、息子は離してやってくれ!お願いだ」

 

 包丁を突きつけられ泣きじゃくる男の子の前で、その父親らしき人物が地面に頭をつけて許しを請いていた。


「しっ、しるかよそんなもんっ!どうせ…あいつの…あいつらに…ころ、コロされて皆死ぬんだ!ならいつ死んだって同じだろうがっ!ひゃはっ…ははあひゃはやははは!!!」


 意味不明な言葉を叫びながら男は笑い始めた。瞳孔は定まっておらず狂気に満ちたその表情からは得体の知れない不気味さを感じる。


(どこからどう見てもまずそうな雰囲気だな……)


 体つきや服装、持っている獲物から察するにどうやら冒険者や兵士ではなく一般人のようである。


(だからと言ってそんな長い間考えている時間はなさそうだな…)


 男の精神状態はとても不安定のようであり、いつ子供に手を上げてもおかしくない状態だった。一応腕に覚えのある和哉だが、人間である以上時間という物には抗えない。その子供が傷ついてしまってはもう既に手遅れなのである。仮に傷は治せたとしてもトラウマが残ってしまっては意味が無いのだ。


(ならあの人には悪いけどさくっと終わらせるか)


 そう頭の中で考えた瞬間に和哉は脚部に強化の呪文をかけた。その男までの距離はおよそ十数メートル。だが今の和哉にとってその距離は無いに等しい。一瞬にして男まで近づくと包丁を持っているその腕を取った。と同時に子供を掴んでいる手も引き剥がす。


「子供にこんな物を突きつけるのはどうかと思うな」

「なっ!だっ、だれだおまえっ」

「名乗るほどの者でもないよっと!」


 突然現れた和哉に驚愕の表情を向ける男だったが、そうしたのも束の間和哉へと地面へと一本背負いで叩きつけられて白目をむいて気絶してしまった。


(ほっ、無事終わった) 


 何とか何事も起こらずに事がすんだことにほっとして胸を撫で下ろした和哉だったが、その瞬間どっと歓声が沸いた。そしてその場から立ち去ろうとする和哉の下へと先程の子供を連れた男性が現れた。


「ありがとう!あんたのおかげで息子は怪我もせずにすんだ。本当にありがとう…」

「いえ、自分は大したことはしてませんから。お子さんが無事でよかったですね」


 涙ながらに頭を下げてくるその男性に微笑みかけながら話した。すると歓声に混じって遠くのほうからガシャガシャという音が聞こえてきた。どうやら騎士団が近づいてきている様子である。


「それじゃあ、自分はこれで失礼しますね」


 和哉はそう言うと周りの人に軽く会釈をして早々にその場を立ち去った。


 













(まさかあの犯人と八百屋の店主が知り合いだったとはな…そう考えると何か腑に落ちないけど)


 和哉には知り合いの息子に対して普通の人間がそんなことをするのかと考えた。それを考え始めてすぐに和哉の身近な所にそれを行った人物がいたことに気付いたが、あれは自分に対して激しい憎悪を抱いていたからであって今回の件には合致しないはずである。 


(何か裏でもあるのか?)


 和哉はあの事件が起こった背景に何かが起きているのかと気になっていた。すると


「おにいちゃんそんなかおしてどうしたの?」

「えっ、あぁなんでもないよ。今日のお昼御飯は何かなって考えてたんだ」

「そうなんだ。アリアもたのしみ~」


 手を繋いでいたアリアから言葉を投げかけられ和哉ははっと我にかえった。知らず知らずのうちに難しい顔をしていたらしい。なんとか言葉を繋いで誤魔化した。


(悪い癖だなぁ、早くなおさないと)


 和哉は荷物を持ったほうの手で自省の意味も込めて頭を軽く叩いておいた。そのような行動をとるということも第三者から見れば変な行動であるということを理解していないようであり、思っていることをなすにはまだまだ時間がかかりそうだった。








 その後暫く歩いていると前方から見慣れた姿の人物が走ってきた。その人物とは感謝祭の日も孤児院の面々と一緒に過ごしたベルだった。


「カズヤ!ここにいたのですか、探しました」

「ベル、そんなに急いでどうしたんだ?」


 ベルの離し方から察するにどうやら公的な用事らしい。一方のベルはというと和哉のこの反応に逆に驚いていた。 


「まさか今日が貴方とアルトの任命式だということを忘れてはいませんよね?」

「………………あ」

「忘れていたのですか…」

「わ、悪い。ついうっかりな」


 ベルは頭を抱えてはぁと溜息をついていた。どうやらとても重要なことだったらしい。良く考えてみればそれもそのはずなのだが。なぜならそれは現在誰もその職に就いていない姫の近衛という役職の任命式だからだ。

 

「アルト殿は別の者が探しています」

「そうか、じゃあ出来るだけ急ぐからちょっと待ってくれるか」

「わかりました」


 そう言うと和哉はすぐさまルティスへとコールの呪文を唱え状況を説明した。どうやらルティスたちの下へもちょうど兵士が到着していたようであり、アルトからも準備をしたらすぐに兵士と共に城へと向かうという伝言が得られた。


「ふぅ」

「伝言は伝え終わりましたか?」

「あぁ、ばっちりだ。でもごめんな皆。一緒に帰れなくて」


 ベルへと自分の用事が済んだことを伝えると、和哉は三人のほうへと振り返ってすまなそうな表情を見せた。


「気になさらないでください。買い物は無事終わりましたし」

「本当に悪いな、代わりと言ってはなんだけど…」

「我が汝らと共に家まで戻ろう」


 和哉の言葉を遮って突然和哉の後ろにルティスが現れた。こうするように頼んでいた和哉以外は突然ルティスが現れたことにかなり驚いていたようだった。実は和哉は城へ行く自分の代わりにルティスを皆のところへ寄こしていたのだった。そして家のほうにはルティスが呼んだ使い魔を置いておくことで仮に何かがあってもランドの身に危険が及ばないようにしていた。


「まぁ少し驚いたかもしれないけど、ルティスに任せてあるから少し行って来るとするよ」

「はい、ありがとうございます。それではいってらっしゃい」

「「いってらっしゃーい」」

「それでは行くとしましょうか?」

「あぁ」


 和哉はベルと一緒に城へと急ぎ、途中でアルトとも合流してなんとか開始時間には間に合うように到着した。













「それでは、今日この日を以ってしてアルト・ランバードおよびカズヤ・ヒイラギを近衛騎士へと任命する。姫のひいては我が国の力となることを期待している」

「「確かに承りました」」

「よい、それでは本日の任命式はこれで終了とする。皆の者ご苦労だった」


 王のこの言葉を受け任命式は終了した。式の間中謁見の間は厳かな空気に包まれており、どれほど大事な式であるかを物語っているかのようであった。


 次々とこの国の中枢を担う人物が退席していく中、一人だけ和哉へと鋭い眼光を見せていた男がいた。それは以前和哉が騎士団の面々と闘う理由を作ったその男カーシェルである。苦虫を噛むような表情を見せながら、直接和哉へと物を言うことはなく立ち去っていった。


「あらら、あの旦那相当頭にキテるみてぇだな」

「そうだな…まぁあの場であの時のことを持ち出されたらな」


 王は以前カーシェルとしていた賭け事の代償をこの場で支払わせていたのだった。その代償とはいわずもがなの土下座である。王は式開始直前にカーシェルに向かって


「お前はカズヤ殿に対して何かやらねばならぬことがあるのではないのか?」


 と口にしたのである。カーシェルはその言葉を聞いて表向き冷静に振舞いながらもなにやらどす黒いオーラのようなものが見えるほどの怒りを顕にしていた。


 結局のところ和哉が土下座をする必要は無いと王に述べ、カーシェルは謝罪だけすることになったのだが、平民以下の人間に頭を下げるということで彼のプライドは痛く傷ついたらしい。それが先程の表情へとつながるのだ。


「よいのだ。あれも上に立つものならば、平民や貴族などの身分で人を見ることからは脱却せねばならぬのだから」

「陛下!」


 和哉は後ろから近づいてきていた陛下へと頭を下げた。和哉が頭を下げのを見て続いてアルトも頭を下げる。


「そのようなことをする必要は無い、我らは協力してもらう立場なのだから」

「そうは言いましても、陛下はこの国の王なのですからやはり礼儀は必要かと思います」

「カズヤ殿の言うとおりですな」


 王に次いでカーツが姿を現した。王はカーツの言葉にまた小言かとでも言いたそうな表情を見せている。


「うむ…まぁそうだな。それではある程度の体裁は繕ってもらう事としよう。ただし、話をする場所が執務室などの場合はそれも無しでよい。これならば良いだろうカーツよ?」

「そうですな、執務室に入るのは主に私と陛下のみですから」

「ということだ、承知してくれるだろうかカズヤ殿、アルト殿よ」

「お二人がそう仰るのであればそういたしましょう」

「俺は端からどうでもいいよ」


 二人の返事を聞いて満足そうな表情を浮かべた王だったが、すぐにはっとして普段の凛とした表情へと戻った。どうやら大事な話があるようである。


「ここではなんだ、執務室へと移るとしよう」


 王の一言により四人は執務室へと移動した。


「それで君達に話があるのだが、まずは君達の普段の仕事についてだ」

 

 執務室に着くなり話を始めたのはカーツだった。


「貴殿等は現在姫様の近衛という立場にあるのだが、普段は原則何をしても良いだろう。姫様の下を訪れ姫様の相手をするのも良い。またカズヤ殿は髪や瞳の色などを変える魔法が使えるのだから姫様に魔法をかけて城の外へ連れ出しても良いだろう。

「姫様連れ出しても大丈夫なのかよ?」


 和哉自身もその点については気になったが、和哉が尋ねる前にアルトが聞いてしまっていた。カーツはアルトの言葉を聞き、コホンと一つせきをする。


「かなりの例外ではあるが構わない。ただし外出の場合の条件としては最低でも貴殿等二名に加え、騎士団の副隊長以上の人物一名を警護に連れる事だ。そして姫様にもしものことがあった場合には貴殿等を処刑しなければならない。この条件とリスクを飲めるのであれば外出を認めよう。ちなみに城の中であれば貴殿等の内どちらかがいれば自由に動き回っても良いのでそのつもりでいてくれ。姫様のことに関しては以上だな」


 いきなり近衛に任命した人物達に対して大層な信用の置き具合だなと思いつつも、それだけ信頼されているのであれば職務は全うしなければならないと逆に気が引き締まったようだった。


「そしてこれから話す事が最も我々が求めている仕事だ。貴殿等にはこの国内で何か重大なことが起きたときにそれを調査する役目を担って欲しいのだ」

「調査ですか?」

「うむ。以前貴殿等は国からのギルドへの依頼で討伐を行ってもらったのだが、要はそれを今度は我々から直接命を受けて行って欲しいということだ」

「つまりは何かしらの問題が起きたときにその場へ行って問題解決を図るということでよろしいでしょうか?」

「そうだな。この国の中で貴殿等の本気の力に敵う者はほぼいないだろうからな」

「わかりました。その役目を引き受けましょう」

「まぁ強くなれそうだし、俺は構わないぜ」

「礼を言うぞ、カズヤ殿、アルト殿。そして申し訳ないのだが早速貴殿等に向かって欲しい場所があるのだ」


 神妙そうな表情を見せつつ王はその口を開いた。


「君達にはこの国に存在する港町セルベスへと向かって欲しい」

「セルベスですか?」


 








 この時の和哉達には知る由もなかったが、この先和哉達が向かう町からこの世界を取り巻く大きな異変は次第にその姿を現していくこととなる。


 運命に屈するのかそれとも抗うことが出来るのか。


 答えを知る術は彼等にはない。


 










皆様一ヶ月もお待たせして申し訳ありませんでした!

私用が重なりここまでお待たせしたことを心よりお詫び申し上げます。

前回から一応二章は始まっていますが、本日から本格的に二章が始まります。

第二章第一幕は海の乙女編です。恐らく四話か五話構成にになると思いますのでよろしくお願いします!

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