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帰る場所  作者: S・H
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第29話:決着








「俺、エオリア、セルディはフォワード、ヴァイス、ミーシャはバックスだ!心してかかれ!」

「はいっ」


 試合開始の合図と共にアデルが周囲に指示を出した。その言葉を聞き、エオリア、セルディの両名が最前列に飛び出し、数歩続いてアデル、その後方にヴァイスとミーシャが停止して陣形を作っていた。


(一人はもう詠唱を始めているみたいだな…そして)


 和哉は未だ刀を抜くことはせずその陣形を眼で追いながら距離をつめていく。相手のことはあまり把握していないが、魔法を使う人員が二人いることは事前の情報で知っていた。そのため最も自分から離れた位置にいる二人に特に気を配る。相手の詠唱はベルの詠唱速度から察するに得意な魔法であればかなりのものだと考えられる。それを見てから反応できるかどうかはまた別の問題だが、無警戒でいることが最も愚作と考えた。


(中心にいるあの男性が指揮官か、理想としてはあの男性から落とすのが先決か?……いや、違うな)


 一方で最初に陣形を展開させた壮年の男性にも目をやった。指揮官を最初につぶすことはどのような戦いにおいても優位に立つことができる策の一つである。勿論今回の場合においてもそれはいえる。だが今回の場合は指揮しやすい少人数でありまたいずれも隊長格であるため、仮に指揮官を失ったとしてもその他の人員の持ち前の統率力でカバーできるだろう。それに加えてアルトの言葉からもあの指揮官の実力だけは他とは一線を画したものであることが伺えた。


(まずは後方支援のあの二人を倒す!)


 前衛から落とす方が戦いやすいのだが、自分の攻撃が届かない範囲から一方的に攻撃を食らわされるのはまずい。特に和哉は攻撃魔法を使うつもりは無いため、回復、攻撃と両方使用できる可能性のある手数の多い後衛から落としたいと思うのも当然だった。


「っと、あぶなっ」


 そうこう考えているうちに炎球と矢が飛んできた。火球はサイズが少し小さい点を除けば和哉が使う魔法と似ており、難なくかわすことができた。矢に関しては普通の矢とは一風変わったもののように感じ速度もなかなかだったが、直線的な動きをしているためなんとかかわすことができた。


「はあっ!」

「やっ」


 魔法と矢をかわしたその直後、距離を詰めて来た先頭の二人と接触した。セルディは両手剣を振りかぶり、エオリアは片手剣で脇腹を突いてくる。和哉は刀を抜くことなく、身体をねじることで突きをかわしセルディの攻撃を手甲で受け流すと、セルディの側腹部を目掛けて掌底を繰り出した。


「ぐっ」


 騎士団の鎧は一般兵士はよくわからないが隊長間では個人差があるようであり、エオリアやセルディは軽い手甲や胸当てなど動きやすさを重視した軽装であり、大剣をどっしり構えて闘うように見えるアデルは逆に確りとした重装を、そしてヴァイスやミーシャなどの後衛部隊はさらに軽装だった。セルディの側腹部は防具で固められておらず、掌底を綺麗にもらったセルディは数メートルほど吹き飛んだ。


 そしてセルディを吹き飛ばし、再び後衛へと向かって前進しようとした先に黒い影が見えた。


「っ!?」


 和哉は瞬時に刀を抜くと、飛び上がって大剣を振りかぶってきていたアデルの攻撃を何とかしのいだ。アデルは和哉に攻撃を防がれるとそのままの体勢で顔面に向かって剣を横向きにして振り回してくる。


「ぐ…」


 和哉は納刀しながらその攻撃をしゃがんでかわす。それと同時に後方からのエオリアの攻撃も両足に力をこめ後ろ宙返りでかわし、足払いでその追撃をやめさせると一旦後方に引き体勢を立て直した。


(凄いなあの人…今の状態でまともにやりあうのは中々に骨が折れそうだ)


 和哉は自分の掌を見つめながら考える。アデルの攻撃の衝撃は計り知れず未だに手がじんじんと痛みを帯びていた。和哉が驚いたのはアデルの攻撃力もだがその身体能力の高さもだった。あれだけの重装備をしていながら高く飛び上がり大剣を振るい、その後にもすぐさま攻撃を連ねてくるという筋力と敏捷性の両方を兼ね備えた能力。


(さてどうするか…っとまたかっ)


 和哉がゆっくり考える暇すら与えず、再び魔法と矢が飛んできた。今度はどちらも数が増え、和哉は右へ左へとかわしながらその攻撃が止むのを待った。そうしている間にも吹き飛ばされていたセルディは立ち直り、またエオリアとの二人組みで和哉へと向かってきていた。


(相手の攻撃が止むことがないのは初めからわかっていたけど、このままだと一方的に消耗して何も出来ずに終わってしまう。なんとかしないとな…)


 相手の人数は五人でありこちらは言うまでもなく和哉一人である。まさに数の暴力といったところなのだが、もともとそのような条件で了承したのは和哉自身である。息つく暇も与えられないが、それでもなんとか打開策を見つけようと和哉は必死で考えていた。だがその思案が和哉が気付かないほどの僅かな隙を作っていることをアデルは見抜いていた。


「セルディ、エオリア、X!ヴァイス、RSS!ミーシャIF!」

「了解!」


 アデルの言葉を受け、四人はそれぞれ頷いた。和哉にはアデルの発した言葉の意味は全くわからなかったが、背筋にぞくっとするような寒気が襲ってきた。直感的に後方へと下がろうとするが、エオリアとセルディのコンビがそれをさせない。二人は同時にほんの少しだけ時間差をつけて剣を突き出し、和哉に左右へのステップと後方へのステップを許さない。


「くっ…」

「下がれっ!」


 その言葉と同時に二人が最後の突きを出して斜め後方へとバックする。そして視界が開けたと同時に和哉の眼前に見えたのは、自らへと向かってくる一本の矢だった。


(この距離じゃかわせないっ!)

 

 距離と速度から瞬時に察知すると和哉はその矢に向かって刀を振りかぶった。和哉の目には刀が矢の中心を捕らえ叩き斬ることに成功したように見えた。だがしかしその瞬間に身体中を激しい痛みが走った。


「ぐあああぁっ!」


 自分が斬ったと思うようなものはそこには無く、自分自身にもそれが刺さっているようなことは無かった。だがしかし現実に痛みだけが体に残っていた。そして攻撃はそれで終わりではなく和哉の周囲には十数本もの氷柱が見えていた。一本一本は鉛筆大だがそれでも身体に刺されば痛いどころではすまない。


(よけないといけないのに身体が…)


 頭では避けようと思っているのにも関わらず、身動きがとれない。ダメージで動けなくなっているわけではないのだが、和哉の身体はまるでその場に磔にされたかのように完全に固まっていた。


 そしてその氷柱は一本一本和哉の身体へと突き刺さっていく。足の先から手の先まで勢いをつけて刺さっていくその姿は地獄絵図のようだった。


「ああぁぁあぁぁあ!!」


 身体から血が流れていき、白い氷柱は瞬く間に赤く変色する。その凄惨な光景は兵士の数人が眼を背けるほどのものであり、和哉の断末魔の声は最後の一本が刺さり終わるまで続いた。その一本が刺さり終わった瞬間、止めといわんばかりの一撃がアデルから和哉へと向けられた。大剣による横薙ぎの一撃。刃を身体に向けず平行にし力を込めて吹き飛ばしていった。和哉の体は数メートル地面をはねてようやく止まった。





 辺りは静寂に包まれ、途中から動くことが無かった和哉の姿からセルディは決着がついたと感じた。


「わりぃな、例えこれだけの人数のハンデを貰ってたとしても手を抜くわけにはいかないんでな。救護班!勝負は着いたぞ、彼の手当てを頼む」


 セルディは待機している救護班に向かって大声で叫ぶ。その声を聞きすぐさま救護班が和哉のもとへと向かおうとする。だがそれを一人の男が制止した。


「ちょっと待ってくださいよ、隊長殿。まだ勝負は着いてないですよ?」


 アルトはセルディに向かい、自信満々な表情でそう叫ぶ。


「何言ってんだ、どう見てもこれで終わりだろう?あいつは動く気配すらないんだからよ。下手したら死んじまうぞ?」

「そうね、貴方も身内が負けるのは悔しいでしょうけどこれが現実よ。諦めて治療を受けさせなさい」


 セルディの言葉に続いてエオリアもアルトへと降参するように言った。だがアルトは首を左右に振ると和哉が横たわっている場所を指差す。


「でも、あいつまだ動けてますよ?」


 アルトの言葉を聞きセルディ達はその指が示す方向へと向き直る。すると確かに先程まで動く気配の無かった和哉がゆっくりと立ち上がろうとしていた。その動きに二人は言葉を失う。


「あれだけ攻撃を食らってまだ立てるの?凄いな」

「驚天動地…」

「おーい、カズヤ?大丈夫そうか?」


 またセルディ達の後方ではヴァイスとミーシャが言葉を漏らしていた。驚きの表情を隠せない四人をよそに、アルトは和哉へと声をかける。


「いてて……数秒間…意識飛んでたみたいだ…でもまだ…なんとか大丈夫そうだ…」

「よっし、頑張れよカズヤ!てなわけで本人もあぁ言ってますし相手してやってもらえませんか?」

「そうは言ってもこれ以上やったところで」

「いいだろう。そちらがその気ならば無碍にするわけにもいくまい」

「副団長!?本気ですか?あれ以上やったら本当に死んでしまうかもしれませんよ?」

「構わん、死にそうになればあの男が真っ先に止めるであろう。さぁお前らも早くしろ」


 アデルはエオリアの言葉を遮りアルトを指差すと、後方へと下がり再び武器を構えた。副団長の命令である以上その他の四名も従わずにはおれず、改めて武器を構えた。彼らの前にはよろよろと立ち上がるぼろぼろの一人の男しかいない。誰が見ても決着はついているように思えた。場内の複数を除いて。





(予定よりダメージを貰いすぎたみてぇだがお膳立ては出来たぞ。カズヤ、こっからがお前の勝負だ!)


 アルトは、息を荒くしゆっくりと立ち上がっていく和哉の姿を見ていた。本来の計画ならここまでダメージを貰う前に二人は削っておきたかったのだが、相手が予想以上に上手く連携を組んできていたため予定通りとはいかなかった。




(だいぶきついなぁ…回復魔法も一応使ったけど…おおっぴらに回復しすぎると折角の作戦が台無しになってしまうからな…)

 

 今回の作戦での肝はいかにぎりぎりで勝利したように見せるかである。和哉は闘神祭の時には回復魔法で瞬時に傷を癒した。これは異様ではあるが、攻撃魔法に比べると戦闘に詳しくない大衆の目の前ではいくらでもごまかしが聞く類のものである。


 だが今回はそれを使うとまずい。これだけのダメージを受けながらそれが一瞬で治っては流石に戦闘に詳しい者達からすればばれてしまう。特にあのお偉いさん方の前で下手に綺麗に治して勝っては、逆に悪い印象を与えかねない。匙加減が難しい問題ではあるが、考慮しなければならない項目でもあるのだ。そのため内部へのダメージや出血に関してはある程度抑えたが、それでも完全回復には程遠い状態を保っているのだった。当然痛みは継続し続けるため和哉のコンディションとしては最悪の状態と言ってもいいだろう。


(でもやらなきゃならないからな)


 和哉は深呼吸をして息を整えると、眼前でこちらの様子を伺っている五人へと眼を向けた。そしてそれを合図ととったのかアデルは再び最初と同じ指示を出した。エオリア、セルディ、アデルと続き、後方ではミーシャとヴァイスが詠唱を始めた。今度の魔法の展開は今まで以上に速く、すぐさま和哉へと氷の棘が向かってきた。


 和哉は足のみに強化の魔法をかけると寸前のところで回避し、そのままエオリアとセルディとの距離をつめていく。


「いい加減、楽になっちまえよっ」


 セルディが言葉を放ちながら剣を向けてくる。ようやく刀に手をかけると居合いでセルディの剣の腹を叩き斬り、勢いで剣を吹き飛ばした。そしてがら空きとなった身体へ回し蹴りを決めると側方へと吹き飛んでいった。蹴りを決める一瞬の間だけ強化の魔法を使い威力を上げたため、威力は通常時の倍以上となっていた。


「がはっ」

「セルディ!くっ」 

 

 続いて攻撃してくるエオリアの剣は鞘で防御すると、力を入れて跳ね飛ばし首筋へと刀を突きつけた。そして動けなくなったところを背後に回り手刀を延髄に叩き込んで意識を刈り取った。


(これで二人…)

「はああぁぁ!!」


 和哉はアデルの攻撃をすんでのところで右に避けて交わすと、アデルの懐へともぐりこみ腕を抱え一本背負いを行った。鎧のため重たいが逆にその鎧のおかげでダメージを増やせると考えた和哉は強化魔法を一瞬だけかけ勢いよく投げ飛ばした。そしてそのままアデルを無視して後衛の二人の下へと走った。



「くっ、近づかれると困るんだけどな。くらえっ!」


 ヴァイスの手元から光る矢が放たれる。今度は今までの物よりも速く、ヴァイスはとてもかわせるほどのものではないと思っており先程と同様に武器で防御すると考えていた。


「二度も…同じ手を食らうかぁっ!」


 だが和哉は一瞬だけ気を練ると、矢の軌道と速度を確認し最小限の動きでかわした。


(あの状態から防御せずにかわしたっ!?まさか一度で見破ったとでも言うのかっ!?)


 ヴァイスの矢には特殊な仕掛けがあった。それが前回の痛みの引き金となったものである。その特殊な仕掛けとはヴァイスが背中に背負っている矢はほとんどがカモフラージュのためのものであり、実際に飛ばしている矢は魔力を矢状にして飛ばしたものなのである。ちなみにこのときの和哉は気付いていなかったがヴァイスが使っている魔法の矢は主に雷系統のものであり、刀で斬ると電気が伝導して痛みと身体への麻痺がくるという仕掛けになっていた。和哉は系統はともかく、仕組みをなんとなく理解することによってその攻撃に対応したのだ。


 ぎりぎりでかわしたため当然ヴァイスへと向かっていく勢いは衰えていない。前方と左右からミーシャの放った氷柱が飛んでくるが、刀と鞘そして自らの身体を動かすことで一つも当たることなくかわしていく。


 ヴァイスは和哉が近づくと腰から短刀を二本取り出した。近接戦闘用の武具であり、リーチは和哉の刀に遠く及ばないが、自らも近づくことでなんとか当てようと試みている。だがやはり慣れない近接戦闘のためか、一般人よりはいい動きをしていていても和哉には攻撃が当たらない。


「やああっ!」

「がはっ」


 和哉はヴァイスの攻撃をしゃがんでかわすと鞘を使って顎を突き上げた。そして身体が少しだけ浮いたところで腹部目掛けてソバットを食らわせた。


「っ!!」


 後方へと吹き飛んでいくヴァイスを横目にミーシャは再び魔法を詠唱しようとしていた。だがしかし和哉の方が一歩速くミーシャの腕を掴んだ。


「ごめん!」


 その一言だけ告げると腕を引っ張りミーシャの身体を回転させると、エオリア同様延髄に手刀を叩き込んだ。その場にかくっと崩れ落ちるミーシャを地面に横たわらせながら既に立ち上がっている眼前の男性を見た。


「はぁはぁはぁ…あと一人か……」

「なかなかやるな…」


 和哉は膝に手をつきながら苦しそうに、眼前の男性アデルを見る。実際これまでの四人を倒すのにオーバーワークを行いすぎてしまっていた。目の前の男性がうっすらぼやけて見える。





 一方でアデルは投げ飛ばされたダメージはあるもののまだまだ余裕だった。眼前に苦しそうに息を吐く和哉を見ながら再び大剣を構える。


「準備はいいか?」

「はぁ…はぁ……あぁ大丈夫だ」


 深呼吸を行い、なんとか呼吸を落ち着けようとする和哉だがいかんせん体調が思わしくない。だがそれでも残る一人と戦うために相手の声に応える。


「ではゆくぞっ!!」


 そう言葉を放つとアデルは一直線に和哉へとぶつかってきた。和哉もその動きに対応し刀を合わせる。アデルの攻撃力はまともに相手をしていては歯が立たない。だが剣と刀が当たる瞬間にだけ強化の魔法を使うことで痛みは随分と緩和されていた。その分精神にはかなりの負担がかかっていたが、それでも刀を握ることが出来なくなるよりはましだと考えていた。





-ガキィンッ、ガキィンッ


 何合ほど打ち合わせただろうか?長い間打ち合わせていたようにもほんの少しの時間しか打ち合わせていないようにも感じた。和哉は腕の感覚を既に失い、気力だけで立っているような状態だった。


「なぁ?」


 突然前方から声が聞こえてきたため、我に返り声の主へと振り向く。


「もう諦めたらどうだ?辛くは無いのか?」

「なにをいきなり……辛いに…決まってるじゃないですか…頭は…もうくらくらしているし…足はがくがく…手にはもう感覚が無い……こんな状態で…辛くないなんて…いってる奴がいたら…生粋の変態ですよ…」

「どうしてそこまで頑張るのだ、このままでは死んでしまうぞ?」

「どうして?それは…あいつが俺の大切な人達を…侮辱したからですよ……俺は自分の大切な人達を侮辱されて黙っていられるほど大人じゃないんでね………この試合で仮に俺が死んだら…俺の勝ちですね…でも死ぬわけには…いかないよな」

「何故だ?」

「何故?そんなの決まってます…こんなことで死んでたら……俺が護りたい人が…泣いてしまうからですよ…だから死ぬわけにはいかないけど…負けるわけにもいかないんだっ」

「そうか…」


 ゆっくりと紡いでいった和哉の言葉を最後まで聞き終えると、アデルは刀を大きくはじいて距離をとった。


「これでおしまいにするぞ。さぁお前も構えろ!」

「…………」


 訓練場全体にアデルの声が響く。これまでの試合を見ていた者達は決着がつく瞬間を固唾を呑んで見守っていた。

 

 和哉は無言で武器を構えると上段の構えを取った。現段階において精神的にも肉体的にも余裕は皆無。それほどまでにこの戦いで消耗してしまった。それでも最後の一撃の為に自分の持てる最大の力が出せる構えを取った。そして


「はああああぁぁっ!」

「やあああぁっ!!」


―ガキィンッ カランカラン

 

 大剣がアデルの手元から離れ地面へと落ちた。そしてアデルの喉下には刀が突きつけられていた。


「俺の負けだ」


「しょ、勝者!カズヤ・ヒイラギ!!」


―ワアアァァァ!!


 勝者の名前が呼ばれると同時に場内に歓声が沸いた。見ていたほとんどの者達が今負けたのが副団長率いる騎士団のトップメンバーだという事実を忘れてしまうほど試合の展開に熱中していた。それほどまでに白熱した試合だったのだ。 


 和哉は自らの剣を拾いに行くアデルの下へと近づいていく。


「…ありがとう…ございます」

「…なんのことだ?俺はお前に負けただけだ」

「それでも…ありがとうございます…」

「…ふっ……次は全力で相手してもらおう」

「はい」

「お前達、いつまで横になっているつもりだ!さっさと立たんかっ!!」


 そう言ってアデルは周りの四人へと檄を飛ばしながら去っていった。アデルは最後の打ち合いの際、わざと剣を持っている手の力を抜いていた。そして和哉の刀が当たった瞬間に飛びやすくなるように仕組んでいたのだ。その真意はわからないが和哉に全力で来いと言っていた辺り、このような状態で勝っても仕方がないと感じていたのだろう。もしくは和哉の心意気に惹かれてくれたのかもしれない。いずれにしても和哉はアデルが器の大きな人物であると感じていた。



「よく頑張ったな、カズヤ」

「ア…ルト…」


 いつの間にか近づいてきていたアルトの声を聞き急にふっと身体の力が抜けていった。そしてアルトの声を聞きながら和哉の意識は薄れていった。









なんとか年越しまでに上げることができました。

来年も続きを書いていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします。

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