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帰る場所  作者: S・H
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第25話:山脈









 ベルヴァス山脈。麓にポルタの村を抱えるこの山脈の地形はごつごつとした岩が立ち並び足場もかなり悪くなっている。かつてはこの山脈の向こうに村もあったようであり、一応歩ける場所はあるにはあるのだが、その村も随分昔に廃れてしまったらしくその道も歩きづらくなっていた。


 周りにはむき出しの岩肌のみが見え、木々などは生えてはいない。所々に横穴が見られ、魔物は岩肌に横穴を空け、そこに生息しているようだ。そのためその穴から魔物が現れることが多く、その他にも立ち並ぶ巨大な岩の陰からこちらへ襲撃してくることや空を飛ぶ魔物もいるため空中から襲い掛かってくることもある。


 そのため常人はこの山には決して近寄ろうとはせず、偶に訪れる腕試しをする冒険者のみがこの山へと登っているのだった。


 そして和哉達も理由は違えど、ここへ足を踏み入れていた。






「はぁっ!」


 和哉は空中から襲い掛かってくる鳥型の魔物の首を刀で斬りおとす。首を落とされた魔物は地面に墜落し、暫くの間のた打ち回っていたが、程無くして動きを止めた。 


 和哉が魔物を倒している際に他の冒険者達も戦闘を行っており、ある者は斧による横薙ぎで魔物の上半身を落とし、ある者は氷の魔法で魔物を氷柱の中に閉じ込めていた。


「ほっ、はっ、おらっ!」


 アルトも持ち前の動きの早さによる左右のステップでオークの攻撃をかわし、双剣で一蹴した。オークは小型の魔物の中では大きいサイズであり、ゴブリンの凡そ一.五倍ほどの大きさである。そのため力はゴブリンよりも上回るのだが動きは遅くなり、アルトの移動速度に全くついていけず細切れにされてしまっていた。オークの残骸が辺りに散り体液と血液が混ざり合い奇妙な色と化している。グロテスクな光景ではあるが、和哉ももう慣れてしまっていた為然程気にもしなかった。周りの冒険者達もこの程度のことなら日常茶飯事であるので、魔物を倒した後でも平気で持ってきた食糧を口にしているほどだった。


 この辺りでの戦闘を終え、魔物の残骸から少しだけ遠ざかると、皆警戒心を保ちながらもひとまず休憩を取っている。魔物はこちらの都合など気にせず襲ってくるためこちらも休めるときに休んでおかなければ身が持たない。和哉やアルトもちょうどよく座りやすい形をした岩を見つけ腰掛ける。


「負傷者はいらっしゃいますか?」


 そんな中、ベルは負傷者がいないか周囲を歩き回っていた。大声を出すと魔物に感づかれる可能性もあるため、出来るだけ小さな声を出しながら右へ左へ動き回っている。そこへ一人の男性が手を上げ、ベルへと呼びかける。


「すまない、回避する際に窪みに足をとられてしまって…治療を頼めるか?」 

「わかりました。ではそちらへ座って足を出してください」


 ベルは小さな岩を指し、男性は指示通りにそこへ座りズボンの裾を捲り負傷した部位を出す。足首が酷く腫れており捻挫のような症状だった。ベルは男性の前へと行くと、槍を置き膝を地面に着け座る。


 負傷部位に手を翳し、すっと目を閉じる。


「癒しの光よ、ヒール」


 ベルの手から淡い光が漏れ始め負傷部位を癒し始める。腫れがゆっくりと引いていき、内出血で青くなっていた部分もすっかり元通りとなった。ベルはふぅと軽く一息つくと、槍を持って立ち上がる。


「これで大丈夫です。完全に治ったとは思いますが、念のために少しだけ安静にしていてください」

「すまない、恩に着るよ」

「いえ、これも私の任務ですので」 

「おーい、こっちも頼む!」

「今そちらに参ります」


 そう言うとベルは再び負傷者の元へと駆け寄り始めた。和哉もそれを見て立ち上がり、ベルのほうへと歩いていく。


「ベル、疲れただろう?残りの人は俺が治療するから休んでてくれよ」

「いえ、これくらいでは疲れませんよ。カズヤこそ少し休んでください」

「とは言っても俺は今回そんなに働いてないからなぁ」


 ベルに休めといわれて和哉は苦笑しながら頭を掻いた。山に入ってからというもの、魔物が出てくるたびに先行していくのはウルスやアルトそして他の冒険者達であり、和哉は少し下がった位置にいた。別に反応が遅れているわけではなく血気盛んな他の者達についていけていないだけなのである。


「周りのフォローに駆けずり回っていたではないですか」

「まぁな。でも大抵は無駄足だけどな」


 和哉は仲間が他の魔物と戦っている間に、いつも一歩下がった位置から仲間の背後に気を配っていた。一体に気を取られている間にもう一体にやられるというのはよくあることだからだ。だが流石にAAランクを名乗っているだけあって、大抵の人物は自分の身は自分で守っていた。和哉が直接手を出したのは片手で数えるほどしかない。


「それでもカズヤの仕事がなければ負傷する人がいたかもしれません」

「うーん、そうか?」

「えぇ、だから休んでいてください」 

「ふぅ、わかったよ。でもあんまり無理するなよ」

「はい、お心遣い感謝します」

  

 きりっとした表情を保ちながら頑として引こうとしないベルに負けて、和哉は不承不承休むことにした。ただ休む代わりに和哉は、先程の回復呪文の詠唱を教えてもらった。

 

 和哉が今まで使っていたのは初級も初級、本来ならぼろぼろにされた身体が一瞬にして治るなんてことはありえないほど下級の類だった。だがそれでも大丈夫だったのは和哉の魔力が異常だったからであり、これから相手にする敵が強大だったときのためにもと考えてのことだった。

 

 




 ベルに軽く手を振りその場から遠ざかると、和哉は元々いた岩の上に再度腰掛けて軽く目を閉じた。


《主、主よ》

「うおっ!?」


 すると頭の中からいきなり聞いたことのある声が聞こえてきた。突然の出来事のあまり、声が出てしまい周囲の皆がこちらをばっと見返した。


「な、なんでもありません。手に何か当たったので少し驚いただけです」


 動揺しながらも咄嗟に思いついたことを言うと、皆は何だそれだけかと和哉から目線を反らした。ふぅと胸をなでおろすとまた頭の中から声が聞こえてきた。


《どうしたのだ、主よ。そんなに驚いて大丈夫か?》

(大丈夫だ、問題ない。ってそんなことより何で頭の中からルティスの声が聞こえるんだ!)

《とりあえず落ち着いたらどうだ、主よ?》


 頭の中から聞こえてきた声の主は先日和哉が契約した精霊ルティスだった。今は和哉の代わりにカーサの町で孤児院の皆の警護を任せているはずだった。そのルティスの声がいきなり聞こえれば驚くのも無理は無い。ルティスに促され、和哉は数回深呼吸をする。叫んでからの一連の姿は中々に滑稽だったがそれを見ている者はほとんどいなかった。


《どうだ、少しは落ち着いたか?》

(あぁ、なんとかな。それで結局のところ何で頭の中から声が聞こえているんだ?)

《これは魔力を使った会話法で魔法名はコールというものでな、遠くにいても我は主と会話が出来るのだ》

(へぇ、それって誰でも出来るのか?)

《否、これは精霊とその精霊の契約者しか行使できぬ。つまり主から我、我から主へは何時でも会話できるのだ》

(なるほどな、それで何か用事なのか?)


 この四日間この魔法を使用しなかったのだから何か自分に用事があるのではないかと考えた。ルティスもその言葉を聞き少し間をおいた。和哉もどんな用事かと心構えをする。だが向こうにいるルティスの返答は


《ふむ、用事とな。用事は…………無いな》

(いやないのかよっ!)


 あまりにも拍子抜けだった。無用な心構えとルティスのためが長かったため、思わず脳内で突っ込んでしまっていた。


《まぁ強いて言うならばこの魔法が上手くいくかの実験と、声を聞いておこうと思ったというところだ》

(声を聞いておく?まぁ確かにルティスとはあまり話してないもんな。せっかく契約できたのに翌日から体調崩したり、召喚したものの次の日には町を離れたりと忙しかったからな)

《その通りだ、それ故これからは定期的に連絡を寄越してくれることを所望するぞ》


 ルティスのその言葉はまるで親元を離れた子供へ、親が連絡しているみたいでなんだか微笑ましいと思ってしまった。和哉もこの魔法があれば何時でも連絡できるのだから、そうするのも吝かではないなと考えていた。


(わかった。連絡できるときには連絡することにするよ。この魔法の使用方法は?)

《相手、つまり我のことを思い浮かべて通常通り魔力を練り、コールと詠唱するだけだ》

(了解、それじゃあまた連絡するな。あっ、あと元気でやっていると皆によろしく伝えておいてくれ)

《承知した。それでは主よ、気をつけて》


 そうルティスの声が聞こえると、頭の中からルティスの声が聞こえなくなった。


 ふと気がつくと隣にいたアルトが立ち上がり、いつの間にか自分の正面に立っていた。


「おい、カズヤ。どうしたぼーっとして?そろそろ行くみたいだぞ?」


 アルトの言葉通り周りを見てみると、どうやらまた出発するらしい。和哉もさっと立ち上がり、服についていた土を軽く払う。


「それでは参りましょう」


 ベルの言葉が全員に伝わり、再度全員で登頂を始めた。 




 




 休憩以降も和哉は時々敵を倒しつつ、味方の背後をカバーする裏方へと回っていた。皆は魔物を見つけると、襲われる前に攻撃を開始していた。特にベルの部下であるウルスは異常と言ってもいいほどに勢いよく突貫していき、大抵最初に手を出すのはウルスだった。先日のベルへの冒険者の行動によってかなり冒険者を敵視しているため、負けたくないという気持ちからの行動なのだろうということがよくわかった。


 そのような光景も見ながら順調に敵を倒していっていたのだが、山を登っていくにつれ和哉が相手をする敵の数が増えていく。


(くらえっ炎よ!)


 無詠唱で打ち出した五つの火球が複数の魔物へと飛んでいく。威力は多少抑えられているが相手もそこまで強くないため、牽制以上の役割を果たしていた。打ちもらした敵は自らで近づいてすれ違いざまに切裂いた。どさっという音を立て魔物が地面へと崩れ落ちる。その音を聞きながら和哉は側面へとサイドステップをした。一メートルほどの鳥型の魔物が先程和哉がいた場所を通り過ぎていき、折り返してこちらへと向かってくる。


(氷よ!)


 和哉はその魔物の翼の右端と左端に狙いを定めて氷の魔法を放つ。二発の氷の魔法は見事に命中し、翼の両端を凍り付かせることに成功した。和哉は落下地点へと走りこみ、上段の構えを取るとダッシュによる加速もつけて思い切り振り下ろした。頭から真っ二つに裂き二つに分かれたその物体が地面へと落下した。


 和哉は刀を振り、軽く血を拭うとアルトの元へと走り出した。アルトが相手をしていたのはトロールであり、今相手にしている魔物の軍団の中でも一番の巨体を誇り、二メートルほどであった。その右手には丸太ほどの巨大な懇望を携え、ぶんぶんと振り回したり地面へと叩き付けたりしている。


「アルトッ」

「カズヤか、手出し無用と言いたいところだが、こいつは今回の獲物じゃないしな。二人でささっと倒しちまおうぜ」

「あぁ、俺が奴の前に出て囮をするから攻撃は任せたぞ」

「よっしゃ!そんじゃ行くぜ!」


 アルトがトロールから距離をとると、和哉はわざとトロールの前方へと走り出す。相手の棍棒による有効射程を考えぎりぎり届く範囲に収まると、強化の呪文と気を練り合わせ動きを止める。

 

(さぁ、こい!)


 眼前で動きを止めた和哉の姿を見て、トロールが右手に持って棍棒を思いっきり振り下ろしてくる。


(まだだ、まだ…) 


 和哉は強化と気の重ねがけによる効果で相手の動きをぎりぎりまで見ていた。ゆっくりと棍棒が自分目掛けて降りてくる。そして頭まであと数十センチとなった瞬間、側面へと飛んだ。


(今だっ雷よ!)

 

 紙一重で側面に避けながら和哉はトロールへと雷の呪文をぶつけた。トロールの頭上へ雷が落ち、全身を貫いた。高圧の電流により身体が痺れトロールの動きがピタッと止まる。


「いけっアルト!」

「これで終わりだっ」


 後方から走りこみ高く飛び上がると両手に交差した剣を閃かせトロールの両腕と首を同時に落とした。ズシンと音を立て巨体が地面へと転がった。


「よっしゃあ、一丁上がり!」


 アルトは血を払い、剣を鞘へと納めると満足げに語った。一方の和哉は周りの状況を見ながら腑に落ちないといった表情で考え事をしていた。 


(なんだか様子がおかしいな)


 和哉がそう考えているのは周囲に明らかに怪我人が増えていたからだった。負傷の理由が相手が強くなったからならまだ納得は出来る。だが実際にはそうではなく負傷した者達は、戦闘中に突然ピタッと動きが止まり敵の攻撃がノーガードで直撃していたからだった。攻撃を食らった後も、すぐに立ち上がることはなく敵に隙を見せるような姿で立ち上がるなどと明らかに不自然だった。


 朝から戦闘続きで疲労がたまっているのはわかるが、このようなことは普通では起こらない。治療をするベルを見ると、ベルもその異変に気付いているようだった。


(俺達のわからないところで何かが起きているのか?)


 不可解な状況に陥っていることはわかっているのに、どうしてこうなっているかがわからない。


 和哉達は未知なる者のの魔の手にかかり始めていた。


   








出番カットと言っておきながらルティスを少しだけ出しました。

次回も戦闘パートが入りますのでどうかお楽しみにw


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