第22話:王都
カーサの町を出発して三日、カーサの町からラウローゼンへと続く街道を進んだため、これといったアクシデントも無く和哉達は合流地点である王都ラウローゼンへと着いた。ちょうど
王都ともなると警備も厳重のようであり、王と内部へ続く門の前では馬車が列を成し、通行証などのチェックを受けているようである。和哉達もそれにならい、列へと並ぶ。検閲はスムーズに行われており、ものの数分で和哉達の順番となった。門には四人の門番が控え、その内の一人がこちらへと近づいてくる。
「通行証を確認させていただきます」
「俺達はギルドへの依頼でここへ来ました。詳しくはこちらをどうぞ」
厳しい面構えをした門番に和哉は自分とアルトのギルド証を見せる。和哉とアルトの二人のギルド証には今回の依頼内容が記録されているため、それを証明の代わりとした。本来であれば町ごとにある国の役所で通行証を申請するようなのだが、それを行うと時間がかかるということや、アルトに依頼内容を記録したギルド証が代わりになると聞いたため、今回はこの方法を選択したのだった。
「これは……確かに確認させていただきました。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
門番はギルド証の内容を確認し残りの三人に目配せをした。残りの三人も合図を受けすぐに馬車の前方から退いた。和哉は門番へと軽く一礼すると、馬車はゆっくりと王都の内部へと進んでいった。
「うわぁ、大きいな」
「そうだな、多分あれがこの国の王城なんだろうよ」
門をくぐると遥か前方の坂の上にに立派な城が見えた。和哉の元いた世界の西洋風の城に似ている部分が多々見られ、その存在感に圧倒された。
馬車が通るために区画された道を通りながら、和哉は物珍しそうに城下町の様子を見ていた。さすがに城下町だけあって町も随分と賑わっており、道には人が溢れかえっていた。
「これだけ賑やかだとなんだか楽しくなるな」
「そうか?……まぁこれだけがこの町の姿じゃねえだろうけどな…」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもねぇよ」
アルトはそういって目を伏せると頭の後ろで手を組むと、座席へもたれかかった。
和哉はアルトの言葉を聞き逃していたわけではなかったのだが、その言葉の真意を汲み取れるかもしれないとあえて問いただしてみたのだった。だが結局は和哉の予想通り流されてしまい、腑に落ちない感情を抱きながら馬車の外の風景を眺めていた。
数分後、宿の前で降ろしてもらい和哉達は御者と別れた。今回はカーサへと帰る日取りが決まっていなかったため、行きだけの契約だった。宿で手続きをし部屋へと行くと、そこらに荷物を置き和哉は軽く伸びをする。
「さてと、ここに来たのはいいけどまだまだ合流予定日まで日があるんだよな」
実は和哉とアルトの二人は依頼を確認した翌日に出発したのだが、ここラウローゼンへの合流予定日は
土の月の一日だった。ちなみに今日は火の月の二十八日のためまだ二日間は余裕があるのだ。
「俺はちょっくら遊んでくるとするかな。和哉も来るか?」
「いや、俺はいいよ。この辺りを色々見てまわるさ」
「そっか、そんじゃまたな」
そう言うとアルトはさっさと部屋から出て行ってしまった。一人部屋へと残った和哉だが、まだお昼を少しまわったくらいの時間であったため、とりあえず部屋から出て昼食をとることにした。
宿屋から出るとすぐに食事の出来る店が見つかった。試しに中に入ってみると、賑やかな声が聞こえ、元の世界の店に例えるなら、町の定食屋のような雰囲気だった。豪快なおばさん、もといお姉さん(おばさんって言って殴られていた客を見たため)が切り盛りしており、食事も中々のものだった。笑顔と笑い声が耐えないその店に内心大満足で和哉はそこを後にした。
食事を取った後はアルトへ言ったとおりに、この町の散策を始めた。
(やっぱり馬車から見るのと自分で歩きながら見るのとじゃ違うよな)
人混みに紛れながら賑やかな城下町を歩いていく。立ち並ぶ店の前では大声で客寄せを行っており、この町の活気を表しているようだった。
「おばさん!それもう少しだけまけてくれない?」
そんな中その喧騒に負けないくらいの声の声が和哉の耳に響いてきた。その声のする方向を見てみると、地面に食べ物がたくさん詰まった二つの袋を置いて店の前で値切り交渉をしている少女がいた。肩まで伸びた栗色の髪の毛に薄い黄色の瞳、服装はありふれたワンピースだった。
「うーん…よしっ、いつもひいきにしてくれてるベルちゃんだし今日はサービスだよ」
「わぁっありがとうおばさん!おばさん大好きだよ!」
「はいはい、それじゃあまた来てねベルちゃん」
「うんっ!またねっ」
にこやかな顔つきを見せる店の女店主に笑顔を見せると少女は新たに受け取った商品と地面においていた二つの袋を抱え、歩き出した。
(おいおい、あんなに持ってたら前が見えないだろうに)
元々あった荷物だけでもなんとか前が見える程度だったのに、新たに荷物が増えたためほぼ前が見えないような状態と言っても過言ではなかった。よたよたと歩きながら恐る恐る歩いていく姿は見るからに危なっかしく
「キャアッ」
「あっ…」
和哉の予想通り道行く人へとぶつかってしまった。幸いというべきなのかぶつかった人はさして気にする様子も無くそのまま通り過ぎていき、難癖をつけられるようなことは無かったのだが、買っていた果物などが袋から転げ落ちてしまっていた。少女はあわあわ慌てながらも落ちたものを拾おうとするが、拾おうとする際に更に袋から別のものが落ちてしまい余計に混乱していた。
(手伝うとするか…)
和哉はゆっくりとその少女の元へと近づいていく。
「あ~どうしようどうしよう」
「手伝うよ」
「はひっ!」
慌てふためいていた少女にはどうやら和哉が近づいてきていたことに気付いていなかったようで、声をかけた途端に飛び上がりそうなほど驚いていた。
「ほらほら早く拾わないと踏まれちゃうよ?」
「そっ、そうだね。拾おう!」
てきぱきと落ちた果物を拾っていく和哉。そして先程よりかは幾分か冷静になった少女も少しずつ果物を拾っていき、なんとかひとつも踏まれること無く拾い終えることが出来た。再度袋に果物をつめると、少女は和哉へと向き直りぺこりとお辞儀をする。
「あの、ありがとう」
「どういたしまして」
「それじゃあ私はもう行くから、本当にありがとうね」
そう言って少女は再び荷物を抱え始める。ぶつかる前と全く一緒の状況になりそうだったのだが、和哉はそうならないように少女の荷物を持ち上げた。
「え?」
「あれじゃあまたぶつかっちゃうから俺も手伝うよ」
突然視界が開けたことを疑問に思ったのか少女がこちらを振り向いてきた。和哉は強引かなと思いながら少女が持っているもう一つの袋も持ち上げた。これと言って嫌がる様子も無く、わかってくれたのかな?と思い少女の顔を見てみると、口をあけてポカーンとしていた。
「家はどっちかな?」
「えっあっ…こ、こっち」
「オッケー、それじゃあいこうか」
「う、うん」
こちらの突然の行動に呆然と立っている少女の姿があったが、和哉はこのままでは埒が明かないと思い
少女に家への案内を求めた。我に返ったのか頭を軽くぶんぶんと振ると家の方向を指差した。和哉は少女の指差した方向へとずんずんと進み始めた。少女も和哉の行動に驚きながらもゆっくりと進み始めた。
しばらくは一本道が続いたため、和哉は指示された道をずっと進んでいた。商店が並ぶ通りからは遠のき段々と人が少なくなっていく。
「あの、あなたは誰?」
「俺?俺はカズヤ・ヒイラギ。ちょっと用事でこの町に寄っているんだ。君は?」
「私はベル。ベル・マルテスタ。なんで見ず知らずの私を助けてくれるの?」
「君が困ってたみたいだからね。困っている人を助けるのに理由は要らないだろ?」
「そう、そうね。うん、あなたの言うとおり。ねぇカズヤって呼べばいいのかな?」
「あぁ好きに呼んでくれ。俺はベルって呼べばいいか?」
「うん」
ようやく少女も落ち着いたのかいくつか質問をしてきた。ベルという名前をしり、少しだけ会話も弾むようになってきた。
「ベルってこうやって話してると、なんだかしっかりしてそうなイメージあるのに結構慌てるタイプなんだな?」
「それは言わないで…普段は気を張ってるから少しくらい予想外のことが起きても、あんなことにはならないんだけど。偶に自由時間が出来て気が緩んじゃうとさっきみたいなことに……とほほ…」
「ぷっ…ははははっ」
「ちょっと笑わないでよっ!こっちはこれでも真剣なんだからっ」
「はははっごめんごめん、なんだか面白くってつい……くっ…ふふっ」
「うがー!!カズヤのバカッ」
がっくりとうなだれて、袋へと突っ伏したベルの姿に笑いがこみ上げてきた和哉はついつい堪えきれずに吹き出してしまった。ベルは和哉の笑い声に反応しばっと顔を上げると、和哉へと顔を近づけて抗議を始めた。そしてそれがまた可笑しくて笑ってしまうという事態が起きていた。空いている手でこちらを叩いてくるベルへ平謝りしながら進んでいった。
そうこうしているうちに辺りの雰囲気がガラッと変わっていた。表の通りに比べ清潔感に欠けじめっとしている。だが和哉はその様子に関しては然程気にすることはなく、ただ表の通りとは空気が違うなと感じていた。
「ベルの家にはもうすぐ着くのか?」
「うん、そこの角を左に曲がってすぐのところ。だからもうここまででいいよ?」
「まぁここまで来たんだからついでに運ぶさ」
「そう?ありがとうね、カズヤって誰にでもこうなの?」
「誰にでもこうって?」
「あー、わからないならいいわ」
「?」
和哉には若干ベルがすねたようにも見えたのだが、何故そうなったかわからなかったためあえて触れなかった。そして曲がり角を曲がろうとした瞬間、和哉は何かが近づいてきているのを感じた。気配から察するに子供、そして間違いなく自分に接触することがわかった。
「うおっ」
子供が自分の側面にぶつかり、和哉は少しだけのけぞった振りをする。その子供はそのまま立ち去ろうとするが、
「待ちなさい」
和哉の隣にいた人物に肩をつかまれ、びくっと震えて立ち止まった。和哉は徐に声のした方向を向き、声を出した本人であるベルへと話しかける。
「どうしたんだベル?」
「どうしたってあなた自分の財布をすられたのよ?」
「えっ?あー本当だ、気付かなかったな。ありがとう」
「気付かなかったな。じゃないでしょう…もう少し危機感を持ったらどうなの?」
「いやー面目ない。それで君俺の財布返してくれるかな?」
少年は悔しそうな顔そしておびえた顔をしながら、懐の財布をとりだした。和哉はそれを受け取ると、少年へと歩み寄る。
少年は顔を伏せ、目を必死で瞑っている。少年の心の中では殴られるのではないか?むしろ殴られるだけならまだいいかもしれないという考えが渦巻いていた。だがいくら待ってもそのようなことは起きなかった。そして少年は自分の手を広げられ、何かをつかまされるのを感じた。
和哉は少年の手に銀貨を一枚握らせると、
「もうこんなことはするなよ?」
と耳元でささやいた。少年はゆっくりと目を開け和哉の顔を見た。和哉の顔は少年の想像した怒りの表情など無く、どこか寂しそうな顔をしていた。少年は一度だけ頷き、お辞儀をすると走っていった。
「カズヤ、最初からあなた気付いていたの?」
「まぁな」
ベルは走り去っていった少年を見ていた和哉へ話しかけた。ベルの言うとおり、和哉は財布をすられたことに気付いていた。むしろぶつかる前に避ける事だって出来ていたはずだった。だが避けなかったのは、アルトのあの言葉が引っかかったからだった。
(……まぁこれだけがこの町の姿じゃねえだろうけどな…)
「でもカズヤ、あなたのやったことは…」
「あぁ、わかってるさ…俺のやったことはただの偽善だ。あんなのほんの一時の助けにしかならない。でも……なんだか、嫌だよな。生きるためとはいえあんな子供がスリなんてしなくちゃいけないなんてさ…」
「カズヤ…」
唇をかみ締め和哉は空を眺めた。夕暮れが早くなり始め、夏の終わりを感じさせていた。
今回はベルの初登場です。
先に出したルティスよりベルの方が出番が早く来ますがご了承ください(^^;)




