表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰る場所  作者: S・H
23/50

第20話:契約











 召喚獣に吹き飛ばされた和哉は、相手からの攻撃を食らったと同時に目を瞑ってしまっていた。


 そして再び目を開けたときには、辺りを黒で覆われた場所にいた。 


【……よ】


 頭の中に何者かの声が響いてくる。話しかけてきている人物は見えない。しかしその声に気付き自分一人だけがここにいるわけではないのかもしれないと安心したのかゆっくりと思考を再開する。


(俺は何をしていたんだ?…)


 反覚醒の状態でなんとか先ほどまでの状況を思い出そうとする。


(たしか…召喚獣を呼び出して……そういえば襲われて吹き飛ばされたんだよな)


 ようやく思い出せたが、思い出せた内容と現在自らが置かれている状況が合致しないことに違和感を感じた。


【…きよ…】

(ここどこだ?そもそもなんで痛みを感じていない?)


 たしかに召喚獣の攻撃を受けて、肉を削がれたはずだったが、今はその痛みを感じていなかった。それに先ほどまでは町の周辺の草原にいたはずなのに、現在いる場所はとてもじゃないがそことは一致しなかった。


(わけがわからないな…まさか死んではいないよな?) 

【起きよ…】


「だああぁぁ!!もううるさいな!考えてんだから静かにしろっ!」


 先程からたびたび聞こえてくる謎の声に、和哉は半ばイライラというよりも珍しく怒鳴って返事をしてしまった。


 

 




 そして和哉は辺りの風景がもといた景色に戻っていることに気がついた。視界に入るのは空を流れている雲の様子であり、どうやら地面に仰向けに横たわっているようである。


「あれ?…」


 先程までいた空間は影も形も見えず、まるでそれ自体が嘘だったかのように感じるほどだった。若干不思議な感覚を抱きながらも、片手に響いてくる鈍痛に顔をしかめる。


 先程の空間では感じなかった痛みと怪我の状態を確認し、やはりここが元いたところだと認識する。


《<аЦгжёП!!!》


 そして目だけ動かしてみると前方十数メートルの位置には、禍々しい姿をした召喚獣が尚も存在し、妙な咆哮を上げている。同時に、結界の外にはアルトとティアが近づいてきており、こちらに向かって叫んでいるようだった。


(さっきのは一体なんだったんだろうな?…っつぅ!…まぁそんなことよりも…)


「水よ!」


 和哉は一瞬不思議な空間のことを考えたが、痛みが酷い事を思い出し集中すると詠唱を行い始めた。肉を削がれた部位はたちまち治り、すっと立ち上がるとぐるぐると腕を回し腕の状態を確かめる。


(よっし!これなら大丈夫だな)


 怪我した部位の状態もいたって良好であることを確認し、再度眼前の召喚獣へと目を向ける。先ほどは煙幕があった中でも一瞬の隙を突いて攻撃してきたにも関わらず、今回は無防備な状態でありながらも攻撃を仕掛けてこなかった。 


《ФЯШⅵЬнЮ!》 


 喜んでいるようにも怒っているようにも聞こえる召喚獣の咆哮が響き渡る。相手に油断があったのか、それとも単純に和哉をいたぶることを楽しんでいるのか、どちらにしても狂った召喚獣の考えなど和哉には考えようもなかった。攻撃してこなかったという事実だけが今最も重要だからである。


(さぁて、どう反撃に出たものかな…)


 召喚獣は片手が凍った状態であるとはいえ、先ほどはそれごと攻撃されてしまっていたことを思い出していた。それが意味することは召喚獣の表層だけを攻撃しても、内部には幾分もダメージが通っていないことを現す。


(攻撃するなら腕をきちんと落とすか、突いて内部に直接ダメージを与えるしかないか)


 刀をしっかり構えると、強化の魔法と気を練り直し万全の状態を整えた。












「水よ!」

「カズヤッ」

「カズヤさん…」

 

 横たわっている状態の和哉から不意に聞こえてきた声に目をやると、立ち上がって腕を回している和哉の姿があった。和哉が横たわっていたのはたった数秒の間だったが、全く立ち上がる気配が見えなかったのに元気に立ち上がっている様子を見て、二人は心の底から安堵していた。


 だがそう思ったのもつかの間


《ФЯШⅵЬнЮ!》 


 和哉の眼前に立つその召喚獣の咆哮を聞き、状況は何一つ好転してはいないことに気付いてしまった。

和哉は立ち上がったが、その和哉を叩きのめしたのは目の前の召喚獣である。いくら和哉が強いとはいえ、たった一人であれほどまでの人外の化物相手に何度も立ち向かっていけるわけがない。和哉のほうが先に消耗しきって殺されてしまうと考えるのは至極当然のことだった。


「カズヤ一人でそんな奴の相手はすんな!早くここをあけろっ」

「お願いですから早く出てきてください!」


 そのため二人は必死で叫んでいた。結界を叩きながら、中にいる和哉に向かって各々の考えを。しかしその声は最早和哉には届いておらず、和哉の視界には眼前の召喚獣しか見えていないようだった。


「くそっあのバカ!なんで話を聞かねえんだよっ」


 アルトは拳に力を込め思いっきり結界に叩き付けると、唇をかみ締めながら中に一人でいる和哉へと悪態をつく。アルト自身もうすうす感づいてはいた。今の自分があの中に入ったところで、大した役には立たない。むしろ足手まといになる可能性のほうが高いかもしれない。だが理屈ではそうであっても簡単には割り切れないことだった。下手をすれば自分が友と認めた相手が死んでしまうかもしれないのだから。


 横には尚も結界を叩き続けるティアの姿があった。綺麗な手が傷つきうっすらと血が滲み始めていた。


「おいティア、もうやめろっ」

「離してくださいっ!…このままじゃ…このままじゃカズヤさんが死んじゃいますっ!」

「そうはいかねえよ!」


 アルトの手を振り払い尚も結界を叩こうとするティアの手を強引に掴むと、これ以上叩かせないようにする。ティアの手をよく見ると皮がめくれていた。


「ひでぇな…こいつでも巻いておくか…」


 アルトは自分の服の袖を破ると、ティアの手へと巻きつけた。じわじわと血が滲み布が少しづつ色を変えていく。


 手の怪我を見る限り相当痛むはずなのに、ティアは尚も身体をじたばたと動かしてアルトの手を振り払おうとしていた。その顔は涙でくしゃくしゃになっており、以前見た笑顔とは全くの別物だった。アルトはティアを落ち着かせるために、ゆっくりと話しかけた。


「なぁ…なんでそこまでするんだ?カズヤとはそんなに長い付き合いじゃねえんだろ?」


 昨日聞いた限りでは半年どころか三ヶ月も一緒に暮らしてはいないようだった。そんな相手にこの少女が何故そこまで執着しているのかが気にかかった。


「……理由なんて…ないです……カズヤさんに…死んでほしくないだけです……」


 ティアは暴れるのを止め、アルトへとくしゃくしゃになった顔を向けた。酷く辛そうなその顔はたった今言葉に出したもの以上の気持ちがカズヤへと向けられているようだった。アルトはこの少女が何を抱えているのかわからなかったが、その頭へポンと手を乗せた。


「…………俺だってカズヤには死んで欲しくねぇ…だが俺達にできることはただ祈るだけだ…あいつが勝つことを…な」


(だがいざというときは…)

 

 アルトはティアへとそう語った。そしてその目には何かを決意した光が宿っているようにも見えた。 


















(とりあえずは牽制でも撃っておくか…炎よ!)


 無詠唱で打ち出した炎の球は先程よりは小さいが、五つになっておりそれぞれ召喚獣の両手と両足、そして頭へと向かっていった。今度はサイズを小さくしたため煙幕で相手の姿が見えなくなるようなことはないため、みすみす反撃を食らうようなことはない。それがわかっていたため炎を放ったと同時に、和哉は召喚獣との距離を詰め始めていた。


 先程同様魔法自体のダメージはなかったが、少しだけのけぞらせることは出来た。強化の魔法と気の練り合わせにより、相手の傷ついている部分がよく見えるようになっていることから、近づいたと同時にまずは右腕の中間、ちょうど肘の辺りになる部位を攻撃することにした。


「はあぁぁぁぁぁ!」


 召喚獣は直前で右手を振ってきたが、それを難なくかわしすれ違いざまに目標の肘を攻撃した。今回は綺麗に決まったため、召喚獣が痛みのせいか唸り声を上げてきた。


【……が………の……者…】


 だが和哉はその声をあまり聞いていなかった。それはその唸り声が聞こえる前、刀で斬りつけたのとほぼ同時に頭の中に何者かの声が直接響いてきたからであった。


(なんだ今の声?)


 断片的にしか聞こえないため何を言っているかは聞こえなかった。だが直感的にそれが邪悪なものの声ではないような気がしていた。


 そうこう考えているうちに、召喚獣が左手を横に薙いできていた。和哉は今度は直接受けることはせず、刀で受け流すと身体を回転させ遠心力を乗せた勢いで左腕を斬りつけた。


【…じが……の……者か】


 すると先程聞こえた声が再び脳内に響いた。よく聞いてみるとこの声は、真っ暗な空間の中で聞こえてきた、和哉がふいに怒鳴り付けてしまったあの声と同じだった。


(どういうことなんだ?あの声がなんで頭の中に聞こえてくるんだ?そもそもあの声は誰が発しているんだ?)


 急なことに疑問は尽きないが、襲い掛かってくる眼前の召喚獣の動きを無視しておくわけにもいかず、相手の攻撃を避けながら和哉は思考を続ける。最初は両手だけを使っていた召喚獣だったが、足払いなどの足技も使ってくるようになっていた。それでもなんとか相手の攻撃のテンポをつかみ、バックステップも交えつつかわしていった。


(まずとりあえず分かりそうなことがあるが……もう一度確認してみるか)


 ちょうど相手の右手の袈裟斬りがきたため、それを逆に相手の足元をくぐるように飛び込んでかわすと

、すぐさま振り返って無防備な背中を斬りつけた。


「はっ!!」


 ――――ザシュッ


《Р¥$"гⅶЦд*!!》


 召喚獣の奇怪な唸り声が上がる。いくら頑丈だとはいえこの一撃はかなり応えたようである。身体をぶんぶんと振り回し、自らの近くに誰も近づけたくないようである。


 そしてその唸り声が上がったのとほぼ同時に件の声も聞こえてきた。


【汝が我の新たな契約者か】


 今度は今まで以上にはっきりと聞こえ、言葉の意味もしっかり伝わってきた。


(やっぱりあいつの身体を斬りつけるとあの声が聞こえるんだな)


 自分の予想通りだったことには驚かなかったが、声の穏やかさと召喚獣の行動の荒さが一貫してないことには疑問がわいた。


(どうにかしてこの声の主と話すことができればいいんだが)


 暴れ狂う召喚獣から離れ、頭の中で独り言を呟く。奴に斬りかからなければ会話をすることは出来ない。和哉は会話をすることが出来なければ、この状態を終えることは出来ないと考えていた。実際、和哉の攻撃はダメージを与えているとはいえ、渾身の力を込めてやっと表面へとダメージが通る程度であり、ベオウルフの時のように一刀両断することは出来ないと考えていたからである。


(他にできることがないならやるしかないよな)


 幾分か行動が落ち着いてきた召喚獣に対し、和哉は刀を構えて向かっていった。ただ向かっていくだけではなく、無属性の魔法の詠唱準備をしながら走っていく。無属性は相手の重さに一時的に干渉することが出来る魔法である。そのため図体の大きなこの召喚獣へと奇襲をかけるにはもってこいの魔法だった。


(相手の重さを操る…か……イメージが難しいがやってみるしかないっ)


「無の力よ!」


 右手で刀を持ち左手を召喚獣のほうへ向けて掲げ、魔法を唱えると同時にその手を振り下ろした。この動作により召喚獣へと無属性の魔法を放つことが出来、召喚獣は急激に重くなったことを感じたのか、ガクッと膝を突いた。


 手を上げる動作すら先程までの半分ほどの速さであり、かわすことは容易だった。のろのろとこちらへと伸びてくる手を避けつつ連続で斬りつけていく。その間和哉の頭の中では件の声との会話が高速で行われていた。


(お前の言う通り、俺が新しい契約者だ!)

【そうか…すまぬが汝の力を貸してもらえぬか?】

(どういうことだ?)

【我の肉体は魔の者にかけられた呪いによって操られている】

(魔の者?)

【詳しい説明は後にするとしよう…この肉体にある二つの宝石が見えるか?】


 そう言われて召喚獣の身体を見てみると、頭のちょうど額の部分に当たる位置に一つ宝石が見え、胸の中心にあたる位置にもう一つの宝石が見えた。


(これがどうしたんだ?)

【それを二つ壊すことで我の呪いは解けこの肉体は浄化される】

(なるほどな…じゃあ遠慮なく壊させてもらうぞ)


 そう言って和哉は飛び上がると額にある宝石へと斬りかかった。


 しかしその攻撃は宝石に当たる前に何かによってはじかれてしまい、傷一つつけることが出来なかった。反動によって吹き飛ばされそうになるが宙返りで上手く着地すると、再び召喚獣へと斬りかかる。ここまでのやりとりはわずか数秒の間に行われており、無属性の魔法の持続時間の半分ほどを使っていた。


 和哉は攻撃が通らなかったことに対して、脳内で疑問の声を上げる。


(どうなってるんだこれは?)

【二つの宝石は呪いの要となっている…そのため魔力の障壁がかかっているのだ】

(魔力の障壁ねぇ…俺の力で破れるのか?)

【今回は我の力を少しだけ貸そう…だがこれを行えば汝が呪いを解くまで汝と会話することは出来ぬ…健闘を祈るぞ】

(おいっちょっと待てっ!)


 和哉が返事をする前にその声の主は和哉へと力の譲渡を行った。和哉としてはまだ聞いておきたいこともあったのだが、もう声は聞こえなくなっていた。


(あの野郎…悪い奴ではないんだが人の話し聞かない奴だな…)


 少しだけむっとしながらも、そんな状況ではないと自分を戒める。力の譲渡は無事行われたようで、先ほどは感じなかった力を体内に感じていた。身体の芯から伝わる力強い波長は魔力と気力を増幅しているように感じる。


(これならいけそうだな)


《лвΛΡΓ⊿ν‡!》 


 和哉がそう感じた時、ちょうど無属性の魔法の持続時間が切れたようで召喚獣が両手を振り上げてきた。さっと後方に飛んでかわすとすぐさま反撃へと移る。先ほどまでは狙う場所がわからなかったため、攻撃にも少しだけ迷いがあったが、今度は目標が決まっている。和哉はまずは額の宝石から狙うことにした。


 右手の攻撃をかわした後にくる左手の攻撃の軌道を読み、飛び上がると召喚獣の腕へと乗った。そしてその腕を踏み台にし高く飛び上がると両手で刀を持ち、宝石へと思いっきり突き刺した。


《τЯЯЯЯЯЯЯЯ!!!》


 みしみしと音を立てながら宝石にヒビが入っていく。召喚獣はその痛みからか今までとは比べ物にならないほどの咆哮を上げ、両腕を振り回してきた。和哉は攻撃が来ると読んでいたため刀を突き刺した瞬間に自分を中心とした結界を張っておいたのだった。その効果は抜群であり我を忘れた敵の攻撃を一つも寄せ付けることがなかった。


 そして宝石がついに割れ和哉は結界を解除すると、頭から飛び降り後方へと下がった。痛みで苦しむ召喚獣をよそに和哉は冷静に刀を構えなおす。


(よしっこれで残るはあと一つ!)


 相手の隙をうかがいながらじわじわとにじり寄っていく。だが数メートルほど近づいたところで召喚獣の動きがぴたりと止まった。先程まで額を押さえていた両手をだらんと下げゆっくりと和哉へと向き直る。


(なんだこれは…空気が変わった?…)


 そう思った瞬間全身を巡る寒気を感じ和哉は反射的に側方へと飛んだ。


――――キュィィィン 

 

 凄まじい音が鳴ったかと思うと閃光が走り、和哉が元いた場所に光弾が飛んでいた。その速度と威力は計り知れず、後方にあった結界の一部が崩れかけていた。和哉が本気で攻撃しても一度では壊れない結界が意図も簡単に壊してしまうほどの威力に、足がすくみそうになった。


 そして驚くべきことはそれを使ったという事実である。先ほどまでは近距離攻撃しか持っていなかったため、距離さえとってしまえば自分のタイミングで仕掛けることが出来た。しかしあれほどの威力を持った遠距離攻撃を使えるのであれば話は別である。


 和哉も遠距離の魔法は持っているとはいえ威力は段違いであり、そもそも魔法攻撃は召喚獣に効いていないことは和哉も百も承知だった。つまり和哉は遠距離攻撃という点で召喚獣へ遅れをとってしまったことになるのだ。


 そうこうしているうちに召喚獣はまた光弾を放ってきた。今回は前回攻撃を受けたときよりも距離をとっていたため、なんとか寸前でかわすことが出来た。どうやらあの遠距離攻撃は十秒間に一度撃てるようである。 


 このまま長期戦が続けばあれほどの攻撃を避ける事は困難になっていく。そう考えた和哉は次の一撃に全てを賭けることにした。


(かなり危険だが、いちかばちかやってみるか…)


 和哉は目を閉じ、ふぅと息を吐くと詠唱のために集中する。


(自分の後方から吹く風をイメージするんだ…疾風いや突風を)


 体勢を低くし、相手に突貫する形をとる。


《ЬРЮг⊃Шё》

「今だっ風よっ!」

 

 奇声を上げ召喚獣が遠距離攻撃を放ったと同時に和哉は自分の後方へと風の魔法を放った。風の魔法によるダメージを受けながらもその勢いを受け、紙一重で光弾をかわすと両手で持った刀の切っ先を召喚獣の胸目掛けて構え渾身の力で突いた。


「いっけえぇぇぇぇ!!」

《ΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛ!!!!!》


 召喚獣の断末魔を聞きながら和哉は最後の力を振り絞り、宝石を貫いた。ピシっという音と共に砕け散った宝石は地面へと落ち、一瞬で風化した。


 宝石の無くなった召喚獣の身体中にヒビが入り始め、ぼろぼろと表面が崩れ落ちていく。そしてその裂け目からは光があふれ最後の咆哮を上げると辺りは光に包まれた。

   

 







 


 

 

 光を遮るために反射的に出した両手を引くと、和哉は召喚獣がいた場所を再度見た。そこには先程までの禍々しい召喚獣の姿は無く、和哉より身長の低い黒髪の女性がいた。


「君は一体…」

【我が名はトルティエス…精霊を統べるもの…汝の名は?】

「…俺の名は和哉、柊和哉だ」

【カズヤか…では新たな我が主よ…契約の儀を行う】

「契約の儀?」

【我の前で誓いを立てよ…汝がその誓いを破らぬ限り我は汝と共に在り続けよう】

「誓い……」


 突然現れた存在に動揺はするものの、和哉は誓いを考える。だが考えるまでも無く和哉の中で既に答えは決まっていた。


「俺は…俺の手で護れるものを護りたい…二度とあんな思いをしないために…」


 ランドをメルをアリアをアルトを、そしてティアを護りたいと思った。力を手に入れたところで所詮一人の人間である以上護れるものは限られている。だがこの両手で護れるものならば絶対に護ってやりたいと、そう考えていた。


【よろしい…ではこれより我は汝と共に在ろう…汝が誓いを違えんことを…】


 そう言うとトルティエスは光と共に消え去った。そしてその場所には召喚石が落ちていた。それは召喚前の淀みなど微塵も感じさせないほど美しい光を放っていた。


「「おにいちゃーん!」」

「兄ちゃーん!」

「カズヤッ!」

「カズヤさん!!」


 召喚石を拾い上げると、後方からみんなの声が聞こえてきた。右手を上げておーいと返事をする。


 みんな笑顔なのは確かなのだが何故か若干二名の笑顔が怖かった。 


(な…なんであの二人はあんなに怖い顔してるんだろう?…)


 引きつったような笑顔をしながらこちらへと向かってくるアルトとティアに恐怖を覚えながらも、和哉はみんなの元へと走った。


 その後和哉はアルトに有無を言わさず殴られ、ティアには泣き付かれた後にビンタをお見舞いされる羽目になった。


 殴られた当人はどうしてこんな目に会うんだと地面に膝を突いて落ち込み、そんな様子を見て少しだけ憂さの晴らせた二人がそこにはいた。 


 召喚石は何も語らず、ただ光を放つのみだった。今日も晴天、雲ひとつ無く陽光が差すばかりである。














ということで二話だけですが召喚獣編終了です。

次回からはまた数話にまとまった話を書こうと思います。

また体調不良のため投稿が遅れてしまったことをお詫び申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ