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帰る場所  作者: S・H
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第18話:召喚石







「改めて自己紹介しておくとするか。俺の名前はアルト・ランバード、歳は二十三だ。よろしくな!」

「よろしくアルト兄ちゃん!アルト兄ちゃんもすっごい強いよね!!」

「おっそうかそうか。カズヤ、ランドはなかなか殊勝なこと言うやつだな!」

「まぁカズヤ兄ちゃんよりは弱いみたいだけどね」

「…………カズヤ、前言撤回だ。こいつをやるぞ…」

「いい大人が子供の言うことにいちいち怒るなよ…」


 ランドの言葉に笑顔のまま顔を引くつかせているアルトに対して、呆れた表情をしながら和哉は返事を返した。


 あの勝負の後、孤児院に居候することとなったアルトは、和哉たちと一緒に孤児院まで戻り、リビングで和哉や孤児院の子供達と談話しながら休んでいた。その間、ティアは一人台所で突発的に開くことになったアルトの歓迎会のために腕を振るっていた。アルトも最初は遠慮していたのだが、ティアが嬉しそうに準備を始めたため、断るのも気が引けてしまっていた。やはり人が増えていくことは嬉しいようである。


 そして子供達はというとアルトのフランクな態度が中々好評のようで、自然とアルトの周囲に子供たちが集まっていた。特にランドは自分も剣を使っているということもあり、口では先程のようなことを言っていても本心ではアルトのことを尊敬していた。今もアルトと色々楽しそうに話しているようである。アルト自身も子供達とのやり取りを煩わしいと思っている様子は無く、意外に子供好きなんだなと和哉は密かに考えていた。




「夕食の準備が出来ましたよー。みんな運ぶの手伝ってね」

「「「はーい!」」」

「おっ、待ってました!そんじゃあ俺も手伝うとするかな」

「いや、今日は座っててくれよ。一応今日はお前の歓迎会らしいからな。明日から一緒に手伝ってくれればいいさ」

「そうか?わりぃな。じゃあもうちょっとだけのんびりさせてもらうとするわ」


 台所から聞こえてくるティアの声に、子供達は返事をしてささっとティアの元へと近づいていく。和哉もすっと立ち上がると、立とうとするアルトを軽く制止して台所へと向かった。


 夕食は、歓迎会自体は突発的に決まったのに対して中々手の込んだ料理が作られていた。確かに歓迎会が決まった後のティアの手際の良さは目を見張るものがあり、流石のしっかりものだと言わざるを得ないほどだった。





「よし、準備も出来たことだし、歓迎会を始めるとするか。みんなグラスは持ったな?それじゃあこの孤児院で新たに共に暮らす仲間に乾杯!」

「かんぱーい!」


 ―――カランッ


 乾杯の音頭をとった和哉の声に続き、みんなの声とグラスの当たる音が響き歓迎会は始まった。


 そこではアルトの今までの旅の話を聞いたりしながらみんな盛り上がっていた。アルトの話の内容にはこの国のことだけでなく、他国のこともあったため、まだ見たことの無い他国のことを想像しながら、子供たちは終始笑顔のままだった。勿論それは和哉とティアにも同じことが言えて、子供たち同様アルトのオーバーリアクションを含んだ話を楽しそうに聞いていた。


 そして暫くして粗方食べ終わったところで歓迎会はお開きとなった。子供たちははしゃぎすぎたためか終わる頃にはみんな眠たそうな眼をしており、就寝の準備をすると一足先に自分達の部屋へと戻っていった。


「ふぅ、旨かったよ。ごちそうさん!」

「うん、今日のご飯も美味しかったよ。ありがとうティア」

「お粗末さまでした。そう言って頂けると作った甲斐がありました」


 アルトと和哉は満足そうな表情を見せながら、食器を片付け終え席へと戻ってきたティアへとお礼を言った。ティアもそんなアルトの反応が嬉しかったのか、アルトと和哉の両名へと笑顔を見せていた。


 夏の夜、本来なら蒸し暑くてもおかしくは無いのだが、この世界では夏の昼間と夜の気温差が激しく、夜は基本的に過ごし易い温度になっていた。外からは虫が鳴く声が聞こえ、気持ちが落ち着く。


 和哉はこの時、ある考え事をしていた。それは自分の正体を明かすか否かということである。この孤児院に住んでいるみんなには、人狩りが襲ってきたあの日に事実を明かしておいた。それはこの世界に飛ばされてきた見ず知らずの男を看病してくれたみんなだからこそ話したことでもあり、またそんなみんなに隠し事をしておきたくなかったからである。


 アルトに対しても和哉は隠し事はして置きたくなかった。だが仮にアルトにそれを教えて、自分が異世界人でこの世界では目立つ黒髪という事実が、どこかで漏れて知れ渡ってしまったらということも懸念しなければならなかった。そうなってしまうと、良くない事が起きる事は安易に想像ができた。そのためどうしようか迷っていたのだった。  


(アルトはまだ会ってほんの少ししか経っていないが、信頼できる奴だと思う……でももしそれがどこかでばれたとしたら………俺だけが被害を受けるなら別にいいんだ……だけどここのみんなにまで迷惑がかかったら…)


 この国は少し前まで帝国と戦争をしており、今も尚二つの国の関係は良好とはいえなかった。そこでもし戦争が起き、どこかで和哉の存在が知れ渡った場合、確実に戦争へ利用しようとする輩が現れてくる。和哉の名は闘神祭で有名になっているため、まず間違いなく本人を襲うことは無いだろう。そしてその場合に真っ先に狙われるのは、一緒に暮らしている孤児院の面々となってしまう。和哉の力で守れなくも無いかもしれないが、この世界はやはり異世界であり、和哉の知らない魔法も山ほどある。そんな状態で確実にみんなを守る方法が現時点ではわからなかった。


 これは和哉が思いつく限りの中で最悪のシナリオである。そもそもまだ戦争は起こっていないし、和哉のことがばれて知れ渡ってしまうこともないかもしれない。だが和哉は最悪の事態を想定せずにはいられなかった。元の世界で妹を失った時も、そうすることが出来てさえいれば、助けられたかもしれないと思っていたからだ。和哉にとってはそれほどまでに深刻なことだった。




「…………ヤ、……い…ズヤ、おい、カズヤ!」

「っ!?……なんだアルト?」

「お前さっきから何ボーっとしてんだ?食いすぎてねみぃのか?」

「違うよ、そんなんじゃない。ちょっと考え事をしててな」

「ふーん、なるほどな」


 どうやら考え事をしている間に何度か呼ばれていたようだった。和哉ははっと我に返ると、なにやら複雑そうな顔をしているアルトへと返事をする。よく見ると隣の席にいるティアの顔もこちらを見ていた。


「俺そんな変な顔してたか?」

「いえっそんなことは……ただとても難しい顔をしてらしたので…」


 ティアの耳元に口を近づけて小声でティアへと質問をする。やはりアルトの複雑そうな表情は、自分自身が原因だったようだ。


(こんな風に顔に出てるようじゃまだまだだな…)


 和哉は自嘲気味に溜息をついた。するとアルトが何か思い出したかのような表情を見せ、和哉へと向き直り話しかけてきた。


「あっ、そういやさ俺和哉に聞きたいことあるんだよ。ちょっと聞いていいか?」

「?? そりゃ話の内容にもよるが、一体何なんだ?」

「お前ってさなんか魔法使ってんの?」

「どういうことだ?確かに戦闘中は強化魔術も回復魔術も使うけど?」


 突然向けられた質問に対し、和哉は意図を掴み損ねていた。いきなり魔法を使ってるかと聞かれても、確かに魔法は使っているが、別にそれはこの前の戦闘の際に、アルト自信が見抜いていたではないかと言いたかった。


「いや、そういうことじゃねえんだよ。今こうやって話しながら魔法使ってんのかって聞いてんだ」

「!? お前見えてるのか?」

「いや、そういうわけじゃねえけど。なんかお前の周囲って魔力がざわついてる気がすんだよな」


 だがアルトの言いたかったことはそんなことではなかったようだった。どうやらアルトは和哉が考え出した、新たな魔法にうっすらと気付いていたようだった。今までそんなことは言われたことはなかったため驚いたのだが、和哉はここまでばれているということは直に見破られてもおかしくないと思い始めていた。


 和哉は先程まで考えていたことをもう一度思い出すと、ティアへと目を向ける。そしてゆっくりと口を開いた。


「ティア、俺の秘密アルトに言おうと思う」

「はい、カズヤさんがそう決めたのであれば」

「だが、もしどこかにもれたらティア達に迷惑がかかるかもしれないんだぞ?俺は出来ることならそうはしたくない。嫌なら嫌と言ってくれ」

「迷惑だなんて…カズヤさんが私達を助けてくださったあの日から、私達はカズヤさんを信じてますから。護ってくださるんですよね?」


 ティアのまっすぐな瞳を見つめる。そこには迷いなど微塵も無く、ただ和哉を信じているということだけが伝わってきた。自分の身が危険になる可能性もあるにも関わらず、そんなことはどうでもいいと言わんばかりの強い意思が見えた。そして和哉はティア達を護ると決意したあの日のことを思い出す。


「…あぁそうだったな。わかった、俺は何があってもティア達を護るよ」

「はい」

「……おーい、俺完全に置いてけぼりなんだが、結局俺の質問の答えはどうなったんだ?」 

 

 二人だけの世界に入ってしまっている和哉とティアに対し、一人放置されてしまっていたアルトはその空気に耐えられなくなってしまったのか、和哉へと再度話しかけた。和哉はティアから目線をはずすとアルトへと向き直る。その表情は真剣そのものであった。


「アルト…さっきの質問の答えだが、アルトの言うとおり俺は魔法を使っている」

「へぇ~なんかよくわかんねえ魔法使ってんだな?一体どんな効果なんだ?」

「その前に言っておくんだが、俺は今からその魔法の効果も含めて俺の秘密を話そうと思う。それを誰にも言わないと誓えるか?」

「なんだいきなり真面目になりやがって、別にそんな」

「いいから!真剣に聞いてくれ…」

「…わぁったよ、誰にも言わねぇ。誓ってやるよ、人には言いたくねぇことの一つや二つあるもんだしな……」

「ありがとう、約束護ってくれると信じてるぞ」

 

 和哉は一瞬複雑そうな表情を見せたアルトの顔を見ながら、信じていると一言告げると魔法を解く。光の魔法によって歪められた情報が元に戻っていく。髪の先から段々と染まっていき、瞳もゆっくりと色を変えていく。アルトはそんな和哉の変化を息を呑みながら見守り、ティアもその様子をじっと見つめていた。そして十数秒でその変化は完全に終了し、漆黒の髪と瞳が現れた。


「お前…その髪と目の色は…」

「あぁこっちが俺本来の姿だ。俺の名前は柊和哉。別の世界からこの世界に来たんだ。突拍子も無い話だが、これが真実だ」

「…ふーん、そうか。これなら隠さなくちゃならないよな。オッケー、このことは誰にも言わねえさ」

「あんまり驚かないんだな?」

「うーん、まぁ人それぞれ事情があるしな。別に気にするほどのこたぁないさ」

「……世の中の奴がお前みたいなのばっかりだといいんだけどな」

「そうか?」


 最初は興味深そうに見ていたが、何か納得するような風に頷くとアルトは和哉へと返事をした。そして和哉もアルトのこの様子を見て安心したのか緊張が軽く解け、再度魔法をかけなおしていた。その際に和哉は、自分が他の属性の魔術も使えることと召喚術も使える可能性があることを話した。


「和哉ってやっぱりすげえな。肉弾戦のみならず魔法もしっかり使えんだからよ」

「そんなことないさ、結局どちらもこの世界に来たときの恩恵なんだから」

「まぁそう言うなって。…そういえば旅の最中にギルドの依頼先でこんなもん拾ったんだけど、お前なら使えるかも知れねえな」


 そう言ってアルトがそこらに置いていた自分の鞄から出したものは、高価に見える綺麗な宝石だった。少なくとも和哉には高価そうに見えることしか分からなかったが、ティアはそれを見るととても驚いたような表情を見せていた。


「もしかして、それ召喚石ですか?」 

「おっよく知ってんな!どうやらそうみたいなんだが、俺は召喚術なんて使えなくて宝の持ち腐れになっててな。良かったら和哉が使ってみてくれねぇか?」

「でも、そんな高価そうなもの本当にくれるのか?売ったほうがいいと思うんだが?」

「まぁそう言うなって。これから世話になる代金だと思ってくれればな」

「そうか、そんじゃあり難く貰っておくことにするよ。ありがとうな」


 突然のアルトの提案に最初は驚いたものの、世話になる代金だと言われてしまえばこれを受け取らないのも問題があるため、受け取っておくことにした。何か不思議な温かみを感じるその召喚石は、受け取った和哉の手にしっかり馴染んでいた。


 和哉はティアと一緒にその召喚石を眺めながら、今度は成功するといいななどと話をしていた。


 


 一方でアルトは一人で静かに呟いた。


 (へぇー、黒髪に黒い瞳。なるほどな、道理でなんか違和感を感じると思ったんだよ)


 とても小さな声で呟いたその声は和哉にもティアにも聞かれることはなかった。


 こうしてアルトの入居初日は色々な思いと考えが錯綜しながら終わったのであった。













サブタイトルにしてある召喚石ですが今回はほとんど出番がありません(^^;)

次話でやっと出番がありますw

ちなみにアルトの意味深な最後の台詞は暫くの間は気にしないでいいですよ。

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