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帰る場所  作者: S・H
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第7話:練習



「ではカズヤさん、始めますよ」

「ああ、よろしく頼む」


 穏やかな日が差す町の外の平原、そこには和哉を含める五人の孤児院の子供達がいた。

 

 今日は和哉が魔法を使うための練習を行う初めての日だった。(ちなみにローブは目立つため、和哉は茶髪の鬘とサングラスをつけている)


 当の本人である和哉の顔にも若干の緊張が見られる。そんな和哉の姿を見て、ティアはクスリと笑う。


「そんな緊張しなくてもいいですよカズヤさん。リラックスしてください」

「カズヤお兄ちゃん、リラックス~」

「わかった。もう少し落ち着こう」


 ティアとメルにそう言われて深呼吸をする。普段は冷静沈着な和哉とて、元の生活とはかけ離れた技術を使用する前には、緊張するのも当然だ。だが、それもたった数秒間の内に収まり、普段どおりに戻る。


「よしっいつでもいいぞ!」

「はい、最初は体内の魔力を感じ取ってみましょうか。それでは目を閉じてください。そして浅い呼吸と深い呼吸を交互に繰り返してください」


 言われたとおりに目を閉じ、呼吸を行う。


(これっていつも俺が体内で気を練る時と同じ動作だな)


 和哉が日課としている鍛錬の中に含まれる、気を練る動作と行うことがほとんど同じなことに若干驚くものの集中が途切れることはない。すると中心部に以前感じた違和感を再び見つけた。


「体の中心に何か暖かいものを感じますか?」

「あぁ、ゆらゆらしてるようなものが見える気がする」

「本当に!?兄ちゃん凄いよ!初日で魔力を感じ取れるなんて」


 ランドが心底驚いたような顔でこちらを見てくる。ランド以外のみんなも同じような顔をしていた。


(この変な物が魔力なのか?なるほどな、道理でこちらに来て初めて訓練したときに違和感があるはずだよ。向こうじゃあるはずのないものなんだから)


 自分の中に残っていた疑問が解消され、少しだけすっきりする。


「それで、次はどうすればいいんだ?」

「…あっ、はい、次はですねそのままの状態で使用できる属性を確認します。頭の中で九つの属性を順番に思い浮かべてください。そして魔力が手へ伝うように念じて手のひらを開いてください。それぞれの属性に対応した色の球体が浮かんできますから」


 ティアの説明によると、火は赤、水は青、風は緑、土は黄、雷は紫、氷は紺、光は白、闇は黒、そして無は透明な球体が浮くようだった。


(火、水、風、土、雷、氷、光、闇、無)


 言われたとおりにして、体の中心から手に魔力が伝導するように意識する。気が身体を伝わる感覚と似ており、割とスムーズに行うことが出来た。そして指の先まで届いたと感じた瞬間、和哉は手のひらを開いた。


「これは……何色だ?」

「えっ?」

「なんだか球体の色がころころ変わるんだよ。ほらっ」


 和哉の発言に?マークが浮かんだ四人は、和哉が出した球体に顔を近づける。手のひらの上で浮かぶ球体の色は和哉が言ったとおり、赤、青、緑、黄、紫、紺、白、黒、透明とおよそ一秒間隔で変わっていた。アリアは和哉の手のひらで光っている球体が気に入ったようである。


「きれいだね~おにいちゃん」

「あぁそうだな。で、結局これって何が使えるんだろう?」

「私もこういう光り方をするものは見たことはないんで……とっ、とりあえず詠唱をしてみましょうか」


 ティアも見たことがない光り方に驚いていたが、気を取り直して詠唱することを提案した。


「詠唱って言っても俺は何て言えばいいの?」

「そうですね、下級呪文は一言でいいので難しくないですよ?例えば火なら炎よ!というだけで大丈夫です。手を前に出して詠唱してみてください」

「なるほど、それじゃあやってみるか」


 和哉はどんなものが出るか分からないので、ティアたちから少しだけ離れて、ティア達とは真反対の方向へ手を向けた。そして一度集中して目を開ける。


「いくぞ、炎よ!」


  


  ――――キィィィン


  ――――ドォォォォン


「え?」


 一度高い音が鳴ったかと思った次の瞬間には、十メートルほど先で爆発が起こり、そこには半径深さ共に一メートルほどのクレーターが出来上がっていた。突然の爆発に呆けてしまって、あまりにも間抜けな声が出てしまい、我に返って後ろを振り向くとそこには和哉以上に驚いた面々がいた。


「あのさ…低級呪文ってあんなに破壊力あるものなの?」


 そう聞くとティアは首を横に振り、ランド、メル、アリアの三人は目を輝かせてこちらを見つめていた。


「あれは少なくとも中級と同じか、それ以上のものだと思いますよ…本来の低級呪文ではどうやってもあれほどの火力を出すことは出来ませんね…」

「兄ちゃん凄いよっ!」

「カズヤお兄ちゃん、かっこいい!」

「かっこいーー!!」


 どうやら自分の魔法の威力は凄まじい物だったらしく、三人に尊敬されるのは嬉しかったが、顔を引くつかせる結果となってしまった。


 その後も残りの属性の魔法を使ってみたが、ある意味予想通り全ての魔法を使うことが出来、それがまたみんなを驚かせることとなった。


(トレーニングでも攻撃系の呪文は絶対使わないようにしよう…)


 こんなものをバンバンぶちかましていたら、いずれこの国の国家権力に捕まると思い、和哉は一人でそうすることに決めた。だが和哉の光の魔法は強力な結界を張ることが出来ると分かったため、これで和哉がいないときでも、人狩りに対処できるようになったことはとても喜ばしいことだった。


「低級であの威力を持っているということだけでも驚くべきことですのに、九つ全ての属性の魔法を使うことが出来るなんて……カズヤさん本当に凄い方なんですね」

「自分で使っておいて言うのもあれなんだが…俺も正直なところ信じられない……まぁともかく、使えるということは分かったし、便利な魔法もあったからよしとしよう!」


 ティアも半ば信じられないといったような姿を見せながらも、和哉のことを尊敬していた。自分と然程変わらない年齢の女の子に、そのような目で見られると少しだけ照れてしまい、この話はお終いとばかりに言い切った。そこへランドが先日話した強化魔法について話してきた。


「兄ちゃんなら、きっと強化魔法も使えると思うんだ!」

「強化魔法って何を強化する魔法なんだ?」

「身体能力を強化する凄く簡単な魔法なんだ。早く走れるようになったり、頑丈になったり、力が強くなったりする魔法なんだけど、普通の魔導師はこの魔法を使うことが出来ないんだ」


 簡単なのに使えない、という矛盾するような言葉を上げられて、和哉は少し考え込む。


(簡単ってことは魔導師なら誰でも使えるはず。だけど使えない。そしてこの魔法は身体能力の強化の魔法……もしかすると…) 


「身体が強化に対応できないってことか?」

「そのとおり、大正解だよ兄ちゃん!普通の魔導師はやっぱり魔導師だから、身体を鍛えている人が少ないんだよね。だから強化に身体がもたないんだよ。これを使えるのはある程度身体を鍛えている人で、なおかつ魔法が使える人なんだ。俺も一応使えるんだけど、まだ成長中だから全力では使えないんだ。この時期に無理して使うと身体が壊れちゃうんだってさ」

 

(だから俺には使えるってことか。普通の魔法も使えるようになっていれば便利だけど、この前奴らが襲ってきたときみたいに、街中だとあの魔法は使えないからな。それに俺は肉弾戦のほうが性に合ってるし、覚えていても損はないかな…)


「ランド?教えてもらっていいか?」

「いいよ、兄ちゃん!基本的には普通の魔法とほとんど同じなんだけど、今度は力が体中に定着する感覚をイメージすればいいんだよ」

「やってみるよ」


 先程までは、魔力を手から放出するイメージを持っていたが、今度は定着するイメージと聞き、ますます気の扱いと似てきたと心の中で呟いた。さっきよりも更にスムーズに行うことができ、目を開けると少しばかり身体が光っているように感じた。


「こんな感じでいいのか?」

「うん、ばっちりだと思うよ。とりあえず走ってみたら?」

「あぁ行って来る」


 少しばかり準備運動をして、走り出すと一瞬のうちにトップスピードに乗り、今までの比じゃない速さだった。今の速さで百メートル走を元の世界の選手と走ったら、二往復してもおつりがくるほどのものだった。

 

 暫く走って(といってもほんの二十秒程度だが)戻ってくると、そこには再び先程見た光景が広がっていた。


「デジャヴだな…」

「デジャヴってなに?」

「いや、なんでもないよ」


 その後、強化魔法を維持したまま岩を持ち上げたり、ランドの訓練用の木刀を使って体の頑丈さを確かめたりと、強化魔法のある程度の能力を把握した。ロボットと素手で遣り合っても勝てそうなこの力は、武道を極めようとする者としては、反則な技だなと苦笑した。もちろんいざというときには、使用をためらうつもりなど毛頭なかったが。





「そんじゃ最後は召喚術かな?」


 当初の予定は、魔法の練習と召喚術だったのだが、そこに強化魔法も入ったため、少しだけ時間がかかってしまった。昼食を食べたあとに出かけたので、急がなければ晩御飯の準備の時間が遅くなると思った和哉は、手短に終わらせようと思っていた。

 

「そうですね、それじゃあこの召喚石を使ってください」


 そういってティアは一円玉サイズの綺麗な石を取り出した。よく見ると小さな字で何かが刻まれているようだった。


「魔導師が直接文字を刻まないといけないものなんだから、召喚石って高価なものじゃないのか?」


 召喚に必要なこの石が高価なものならば、いきなり現れた自分が使うのは勿体無いのではないかと和哉は思った。しかし、ティアは首を横に振り、微笑んだ。 

 

「大丈夫ですよ。これは先生の奥さんが私達孤児院の子供のために、沢山残してくれたものの一つですから」

「ってことは先生の奥さんって魔導師だったのか?」

「はい、私達に魔法や召喚術について教えてくださったのは先生の奥さんなんです」


 笑顔の裏に少しだけ陰のある表情を見せたティアから、奥さんも亡くなっているということを推測した和哉は、それ以上深入りすることはせず、有難く受け取ることにした。


「それじゃあ和哉さん、私の言葉を復唱してくださいね」

「わかった!」


 ティアの二メートル前に立ち、一言一句聞き漏らすことのないように集中する。


 辺りの空気が徐々に張り詰めていく。召喚に関わることのない三人もじっとこちらを見つめている。


「「大いなる力を司りし精霊よ」」


「「我汝の力を欲するものなり」」


 詠唱を続ける毎に、召喚石が光りを放ち始める。


「「わが声を聞き我が力を認めるのならば」」


「「我が前に具現し汝の力を示せ!」」


 詠唱を終えると同時に召喚石に光が満ちる。


 その刹那、光が飛び散ると同時に、召喚石が粉々に砕けた。


 張り詰めた空気は収まった。


 召喚石が砕けたという事態に、困惑する二人だったが、ティアが静かに呟いた。


「おそらく…和哉さんの呼び出そうとする精霊の力に、この召喚石が耐えられなかったんだと思います……」

「そんなこともあるんだな…すまん大事な召喚石を無駄にしてしまって……」

「いえいえ、いいんですよ。まだまだ孤児院には沢山置いてありますから、気にしないでください」


 そんな様子を見ていた、三人がこちらに寄って来た。和哉の呼び出す精霊を見ることが出来なかったことに対して、少しだけ残念そうにしていたが、もっといい召喚石があれば見ることが出来るかもね、とティアに言われた三人は興奮して、その時が来るのが楽しみだと言った。


 そんな三人の頭を撫でて落ち着かせるとティアに向き直り苦笑した。


「それにしても…なんだか自分には不相応な力がついてて驚くな…」

「そんなことないですよ!和哉さんにぴったりだと思います!」

「…そっか、ありがとな。まぁこれだけの力があれば色々と事欠かないだろうしね」


 とりあえず今の自分の力を知ることができて良かった。素直に喜んでくれてもいるし、これでいいことにしよう。そう思いながら帰途へつく和哉であった。





ベタな能力ですみません…

今回は出しませんでしたが、いずれ和哉の精霊は出すつもりです

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