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雷神との死闘


 私たちは駆け足で道場に向かった。

 節原道場では剣道ではなく剣術を教えている。ヴァーリトゥードで勝ち抜くための剣術、それが節原流。当然やわな稽古は行わない。そんな内容も理念もどうかしている稽古を重ねてきた生徒たちが全員バタンキューとなっていた。

 道場内で立っているのはただ一人。剣道の防具をつけたままでもわかる、ピリついた兵オーラを放つ道場破りの男。

 その目の前で釜瀬が膝をつき疲弊していた。

「ボスのお出ましか……どっちが師範でござる?」

 道場破り男が父者を、そして一兄に目を向ける。

「師範は俺さ。うちの門下生が世話になったな」

「いや、拙者が相手したのはこの釜瀬という男一人。当分は立てぬでござろう」

「釜瀬、動けるなら下がりなさい」

「お嬢~~!」

 釜瀬(三十代)が私の声に応え四つん這いで駆け寄る。

「よく頑張ったわね釜瀬。見てなかったけど」

 稽古は厳しいが門下生には優しい。それが節原流。

「お嬢、奴はただ者ではありませぬ。自らを雷神と呼ぶセンスを持つ男です」

「自称雷神? ただ者じゃないわね。戦ったのは釜瀬だけって言うのは本当?」

「はい、他のみんなは準備運動の段階でへばっているだけです。うちは準備運動からハードですから」

 門下生には優しいが稽古は厳しい。それが節原流。

 道場破り男がビリッと気迫を見せる。

「拙者は18時に予約していた柄礫昭雄(えれきてるお)……通称雷神でござる。手始めに師範代を倒したということで、次は道場の主、師範殿がお相手ということでよろしいか?」

 昭雄が父者に竹刀を向ける。

「そうだな、俺に勝てば道場の看板をくれてやろう……うぐっ!」

 突然父者が膝をつく。

「くっ……熊にやられたダメージが今になって響いてきよった」

「私も……グハッ」

 母者もそれに倣う。

「ふっ、動けぬとならば拙者の不戦勝でござるな。看板は頂いていく」

 相手が動けなくても昭雄は容赦しない。道場破りなんだからそれはそう。

 両親が動けないとなれば仕方ない。

「私が……」

 前に出ようとする私を一兄が制した。

「お主も下がっているがよい。隠しているが、万全ではなかろう」

 見破っている、この男。

 私もこの日のヴァーリトゥード大会での疲労が残っていた。今、釜瀬を倒したこの男に勝てるという絶対の自信はない。

「父者、ここはおれが長男として……」

「よし、任せた!」

 父者が食いぎみに許可する。

 私はまだ家族と認めていないけど、この男の剣の腕はもう一度見たい。そう思った。

「釜瀬、一兄に防具を貸してやれ」

 父者に言われ釜瀬が防具を外す。

「おれに鎧は不要です」

「ダメ! 小さい子が真似したらどうするの!」

「あ、はい……」

 母者に言われて一兄は釜瀬の防具をつける。

 平安時代に竹刀はなかったらしく一兄は慣れない手付きで素振りをする。

「竹の剣とは柔いものを……真剣使っちゃダメ?」

「ダメ!」

 昭雄は即答し、次に不敵に笑う。

「ふっ、とはいえ真剣であろうと当たらねば竹刀と変わりない。拙者の雷神剣の前に叩きのめしてやろう」

「それは興味深い。令和の剣術がどれ程進化したのか、とくと拝ませてもらおう」

 一兄と昭雄、二人が道場の中央に立つ。父者が審判を勤める。

「勝敗のルールは剣道と同じ感じで小手、面、胴、突きを先に二本取った方か、相手を動けなくさせた方が勝ち始め!」

 ルール説明と同時に開始の合図が響き渡る。

「サンダーゴッド面!」

 昭雄が叫んだ瞬間、ピカッと光ってその場にいた全員の目がくらむ。

 パァンと音がして、私が目を開くと一兄が頭を押さえて膝をついていた。

「今、いったい何が?」

 私の問いに釜瀬が答える。

「奴は竹刀の中に明るい中でもより明るく輝く強力蛍光灯を隠し持ち、竹の隙間から相手に光を当てて目をくらませるのです」

「危な! 真似しちゃダメすぎるわ」

「しかし奴の恐ろしさはそれだけではありませぬ」

 昭雄は父者に目を向ける。

「クク、今のは一本ではござらんか?」

「いやわかんねーよ! おまえの剣技で目が眩んで見えんかったわ!」

 父者、すごい褒めてるみたいに聞こえる。

「我が雷神剣は両刃の剣……相手と審判双方を傷つける。ならばもう一度メーン!」

 すでに目眩ましから持ち直していた一兄はその面をたやすく防ぎ、昭雄とつばぜり合いになる。

「ダメだ……奴とつばぜり合ってはいかん!」

 釜瀬が叫ぶ。つばぜり合いってそんな言葉の使い方する? わからないがすでにつばぜり合ってしまっている。

 次の瞬間、つばぜり合った二人の間にビリッと目に見える電流が迸り、一兄が膝をついた(二回目)。

「これは? 次は何したの?」

「奴は竹刀の柄にスタンガン機能をつけているのです。私もあれにビリッとやられました」

「勝利への渇望が生んだ反則すれすれの剣技! ……でも待って、柄がビリッとするならそれを持つ本人だって痺れるはずよ!」

「お嬢、奴の小手をよくご覧あれ!」

「あれは……ゴム! 正直ここから見ただけでは確信は持てないけれど電気を通さないと言えば大抵それよね!」

「左様、本来剣道の小手はなんかの革っぽいので作られているはず。しかし奴は自分だけゴムゴムの小手を使ってビリッと来るのを防いでいるのです!」

「まさかここまでの使い手だったなんて……光る剣にスタンガン仕込みの技……それが奴が雷神と自称する由縁!」

 早口でやり取りを終え、勝負が動く。

「これでとどメーン!」

 昭雄が竹刀を振り下ろした直後、超速の突きが昭雄の首を突き、吹っ飛ばした。

「令和の剣技、とくと見せてもらった。しかしおれは山での修行中、幾度となく落雷に打たれてクセになっていてね、この程度じゃ物足りないのさ」

 今キモいことしか言わなかった気がする。

「く、いつかもっと……いい竹刀を買って仕返ししてやる……ガクッ」

 昭雄は気を失った。

「勝負あり!」

 父者が勝者である一兄の手を上げた。

「養子に迎え入れて貰った恩、少しは返せたでしょうか」

「少しはな……これからどうする?」

「おれが山から降りてきた理由のひとつは兵と戦うためです。それと戦うために鋭気を養おうと思います。そのために、まずは現代で居場所を探そうと思いまする」

 一兄は暗に家を出ることをほのめかしていた。私が家族と認めなかったから。年頃の娘と慮って……。

「何よ、自分の家以外のどこで鋭気を養おうと言うのよ。せっかく帰ってきたんでしょ……兄者」

 私は渾身のデレを決めた。

「兄者! 兄者!」

「兄者! 兄者!」

 門下生達が起き上がり、兄者コールを始める。

「俺達も兄者みたいに強くなりてえ! 稽古をつけてくれ! 兄者!」

 釜瀬にデレッぷりで上をいかれた。

「今は俺も怪我をしている。今日のところはお前が稽古をつけてやれ。息子よ」

 父者が言い、母者も謎に感動し頷いている。

「よおーし! おれの稽古は厳しいぞ! まずは走り込みからだ! みなついてこい!」

「おー!」

 一兄……いや兄者に続いて門下生達も道場を飛び出した。

 

 その後、兄者の常識外れの厳しい稽古により門下生全員膝の骨を折るのだが……それはまた別のお話し。

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