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ここから妹視点なりけり

 私の名前は節原妹美。平成生まれ令和育ちの今をときめく高校三年生よ。

 節原家は剣術道場を営んでおり、その一人娘である私は当然、幼少期から剣の腕を磨くべく鍛練を続けている。

 私が通うこの戦場高校でも剣道部に所属し、青春の日々を送っていた。

 今日は高校最後の大会、全国高校ヴァーリトゥード大会女子の部で優勝を果たし、学校に戻って祝勝会と反省会を兼ねて剣道部員として最後の時間を過ごし、共に大会を戦い抜いた百余名の生徒たちと帰路に向かう。今、そんなタイミングよ。

 みんな袴姿で剣道防具と竹刀を抱えて、見るからに剣道部でございという集団の中に空手着の生徒が一人、私に話しかけてきた。

「節原先輩! 優勝おめでとうございます」

 確か女子空手部の一年、近藤モブ子。

 ヴァーリトゥード大会は部活動をしている高校生であれば参加は自由。その名の通りのなんでもありの格闘大会。空手部でも剣道部でもなんなら囲碁部でも参加はできる。

「あなたの試合も見てたわ。頑張ってたけど残念だったわね」

 モブ子は一回戦敗退という結果。

「私、ヴァーリトゥードといっても素手での大会だと思っていました……まさか武器も体の一部として認められているとは知らず空手で挑んでしまいました」

「侍にとって刀は魂と言われてるからね。魂を持ち込んでルール違反にはならないのよ。モブ子は相手が悪かったわね」

「はい、一回戦の相手が他校の弓道部で、膝に矢を受けて秒殺ですよ」

 男子の部の優勝は他校のライフル射撃部で、準優勝や三位の選手も飛び道具を駆使した選手が上位を占めており、選手も観客も怪我人続出。剣道部員はベストエイトにも残れずじまい。むしろこの大会では剣道で挑むのは舐めプと言われる始末だった。

「それで、膝の方はもういいの?」

 モブ子の膝に巻かれた包帯から血が滲んでいて、モブ子の目にも悔し涙が滲んでいた。

「はい、治療はしっかりやってもらえたのですが……医者からは、もう空手はできないと言われてしまって……」

 モブ子の悔しい気持ち、私にもよくわかる。負けたことはないから想像の範囲内でだけど。

「じゃあ、剣道部に入ったらいいわ。蹴り技はないから大丈夫よ」

「なるほどぉ大丈夫そう!」

「剣道部はあなたを歓迎するわよ。私は今日で引退するけど」

「近藤、感動して剣道始めます」

 やかましいわ。

「ただ、剣道部には厳しい決まりもある。いくら似てるからって、籠手でボクシングごっこをしたらグラウンド十周だからね」

「女子高生もそれやるんですか!?」

「月に四、五人走らされてるわ」

 そんな会話をしていたところ、

(殺気!)

 私はハッとして横を向く。

「ごめんなさい!」

「すいませんでした!」

「顔こわ!」

 そこにいた男子が口々に喚いているがさらにその奥、一〇〇メートル先の西門からこちらに意識を向ける男がいた。

 年の頃は……二十代? まるで平安時代からタイムスリップしてきたかのような着物の男。これまでに見たことがないほどの兵オーラを感じる。

「知り合いですか?」

「いいえ」

 モブ子の問いに答えた次の瞬間、

「妹子おおおぉぉーーーっ!」

 男が知らん名前をあげてこちらに駆け出してきた。

「不審者だ!」

「刀を持ってるぞ!」

「こっちに来る!」

 生徒たちが動揺する中、私は袋から竹刀を取り出し身構えた。

「みんな、下がりなさい」

 女の私の指示に従う者はいない。むしろ私が戦闘態勢に入ったせいで男子たちの戦意に火をつけてしまった。

「いかん、奴は刀を持っている! ここは俺たちが行く!」

 そう言っている間に男子剣道部(元)部長、本部は垂、胴、面、籠手を数秒で身に付けた。恐ろしく早い装着。彼はこの早着替えの特技をもってして部長になったと言っても過言ではない。変身みたいでカッコいいのだ。

「急げ! 本部元部長がやられてる間に防具をつけるんだ!」

 OBも現役剣道部もみんなやる気満々で剣道モードに切り替わった。

「チェストー!」

 本部がクソダサい掛け声で不審者に躍りかかる。

「兄妹の再会を邪魔をする気か?」

 不審者は不審なことを言って刀を抜いた。

 その刀を一振した次の瞬間、本部の竹刀、胴、面が割れ、本部はその場に崩れ落ちた。

「安心せい、峰打ちじゃ」

 本物の刀、そして一瞬で防具を破壊する実力を見ても、男子部員たちの戦意は揺るがなかった。

「部長の仇!」

 百人が一斉に不審者に立ち向かう。

「なんで先生とか警察呼ぶとか、逃げるとかしないんですか!?」

 私はモブ子の問いに答える。

「侍だからよ」

「え?」

「京都で中二病に罹った者は侍キャラになる宿命。その宿命に導かれし者たちの集まりが剣道部なのよ!」

「中二病の症状にそんな地域性があったなんて……ちょっと入部の件考え直させて頂きたい!」

 そんな会話の間にも戦は続いていた。

 不審者が一振するたび防具と竹刀の割れる音がして、剣道部員が次々と倒れていく。

 あの男、強い。いや、それだけじゃない!

「安心せい、峰打ちじゃ」「安心せい、峰打ちじゃ」「安心せい、峰打ちじゃ」「安心せい、峰打ちじゃ」「安心せい、峰打ちじゃ」「安心せい、峰打ちじゃ」「安心せい、峰打ちじゃ」「安心せい、峰打ちじゃ」

 叩き伏せた相手一人ひとりに安心するよう声かけを! 強いだけじゃなく律儀でもあるというの!?

 立ち向かった剣道部員が軒並みやられて、私と不審者の距離が十メートル程にまで縮んだ。最早その間に障害となるものはない。

 私は竹刀を構えて不審者と向き合った。

「妹子、我妹よ」

 不審者が両手を広げて一歩踏み出したその足先で、パァンッと音を立てて地面が弾けとんだ。

「動くな! 警察だ!」

 駆けつけた警察官が二名。一人が銃を構えて不審者に向けており、その上司らしき一人が声をあげる。

「刀を振り回して暴れている不審者はお前だな! おとなしく縄につけい!」

「断る。刀は侍の魂だ」

「撃てーい!」

 上司の合図と同時に部下が打つ。駆けつける早さもさることながらこの迅速かつ確実な判断……それが今日の京都の平和を守っていると言っても過言ではない。

(※この物語はフィクションです。実在の人物、地域、警察組織とは一切関係ございません。)

「ふっ、この程度の礫攻撃、おれには通用せん」

 男が超早口でそう言ったかと思うと抜き身の刀を垂直に構えた。

 次の瞬間、銃弾が当たって倒れたのは警察の方だった。

「え? 何がどうしたんすか? 刀で銃弾を打ち返した、とか?」

 モブ子が狼狽える。

「落ち着きなさい。打ち返したのではなく軌道を逸らしたのよ。ほぼ一八〇度の方向にね」

「どうやって?」

「自分の正面に向かって刀を垂直に立てて構え、銃弾が刀の側面に来たところで弾の速度に合わせて刀を翻したのよ」

「何言ってるかわからないです」

「信じられないのも無理ないわ。私だってあんな剣技目にするのは初めてよ」

 モブ子はまだ信じられないという目付きでこちらを見ていたがもうそれどころではない。

 不審者、いやこの男の実力は私が出会った誰よりも強い。

「警視、俺はもうダメだ……あとを託す。これを受け取ってくれ」

 そう言って自分の銃を上司に託し、部下の男は寝た。

「おのれ巡査の仇!」

 警視が両手に構えた銃を二発ずつ同時に撃つ。四発同時の銃弾でさえも男は先程と同じように軌道を逸らし、巡査と警視の無線機と銃を弾き落とした。

「幾つかの怪しげな武具は破壊させてもらった」

「く、無線機を壊された! これじゃあ応援を呼べない……覚えてやがれ!」

 警視が捨て台詞を吐いて巡査を背負って逃げ去った。因みに巡査は防弾チョッキを着ていたので無事っぽい。

「あなた、何者なの?」

「妹子よ。八四五年も帰らなかった故に兄の顔も忘れてしまったのだな」

 そりゃ忘れるわ……ってか生まれてねーわ。妹子でもねーわ。

 これが、私と自称兄の出会いだった、


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