平安武士が現代京都に降り立ったときのありきたりな反応
平安京が混沌に満ちておる。
鉄の獣、石の道、四角い屋敷だらけで人も多く、おれの知る京の都の面影は無に等しい。コンビニも乱立しスタバやドンキまである。
しかし、京の雰囲気を保とうとする努力も感じられるな。むやみに高い建物は少なくマクドやローソンの看板も落ち着いた色をしておる……なれど、おれの時代にはそんなものなかったのだから異様なことには変わりない!
おれが修業をしている間、京の都にいったい何が? そもそもおれはどれ程の刻、都を離れていた?
「そこの若人たち、聞きたいことがある」
おれは変わった袴を着た一団に声をかけた。
歳の頃は十代半ばから後半といったところか。
「わあ、本物っぽいお侍さん!」
「刀持ってる!」
「まだ生息してたのか、流石古の都!」
「修学旅行のいい思い出になるわ」
はしゃぐ若人たちに負けぬようおれも声をあげる。
「質問に答えいっ。今は寿永何年じゃ?」
「何年かって聞かれたら令和八年」
「寿永なんて八四四年前に終わりましたけど」
何を言ってるんだこいつらは。
「令和とはなんぞや?」
「だから、今の元号。寿永が終わって元暦 文治 建久 正治 建仁 元久 建永 承元 建暦 建保 承久 貞応 元仁 嘉禄 安貞 寛喜 貞永 天福 文暦 嘉禎 暦仁 延応 仁治 寛元 宝治 建長 康元 正嘉 正元 文応 弘長 文永 建治 弘安 正応 永仁 正安 乾元 嘉元 徳治 延慶 応長 正和 文保 元応 元亨 正中 嘉暦 元徳……」
「うぃきぺでぃあーっ! ……やめい! いっぺんに言うから混乱して奇声をあげてしまったではないか!」
「混乱させてごめんなさい!」
「だが理解した。この変わりようによもやと思ったが……童の頃に母者に聞いたことがある、亀を助けて竜宮城で玉手箱の浦島太郎! 数百年の時を越えた男の話し、それがおれの身にも起こってしまったということだな?」
「そうなんじゃないっすか?」
「京都ってそういうところありそうだもんね?」
愕然。
「そうか、やはりここはおれの知るより未来の京の都……それだけの時が経てば町も変わり果てているのも無理はない。どこへ行けばよいかもわからん」
嘆くおれに一人の娘が地図を差し出した……これは!
「そう、京都は縦横の線がまっすぐ引かれた感じの道が平安の時代から変わらず残っている! 家の場所を覚えていれば同じ場所にはたどり着ける。その地図はあげるから、家が残ってるかは知らないけれど行ってみたら?」
「じゃあ、俺たちそろそろ集合時間なんで行きます」
「そうか、左様ならば」
「さようならば、本物っぽいお侍さん」
若人たちと別れた。
幸いにも道の名前もおれの知るものと概ね同じ。突然時空を超えても道に迷わない、それが京の都の利点だね!
おれは記憶と地図を頼りに南へ向かう。
(兄者が帰ってくるまで、この家は守ります)
生き別れた妹の言葉を思い出す。節原家の実子で一人娘。おれの血の繋がらない妹。
道中、おれは懐かしき匂いに気づいた。忘れるはずもない妹の匂い。
家まではまだ遠いが、いる。この近くに妹が!
クンクンクンクンクンクン……ここだ! 戦場高校というこの大きな建物から妹臭がする。
大きな戦でもあったのか、戦場帰りという風貌の若き侍たちが建物から続々出てくる。その中からおれは、かつてと変わらぬ姿の妹を見つけた。
切れ長の細い目、白い肌、長い黒髪、そして美女に欠かせないしもぶくれのほっぺ!(平安基準)
六〇間ほど離れているし百名ほどの侍のなかに紛れているが、妹の匂いを放つ娘はただ一人。
今すぐ名を呼んで駆け寄ろうと思ったがおれはこらえた。あれから八百年以上経っているのだ。あれが妹ではない可能性も少なからずある。
声をかけずに妹であるかどうかを試す術がひとつある。
妹は節原家で生まれ育ち、道場的な家系の一人娘であるからして剣術も一通り習っている。兵の部類に入る女だ。
おれは若き侍の集団に向かって殺気を放った。
別に殺意があるわけではない。気持ちを込めて目をカッと開くことで、遠くからでもハッとなる現象が兵界隈ではあるのだ。
おれの思った通り、侍集団の中でその娘だけがハッとなっておれに気付いた。妹確定!
「妹子おおおぉぉーーーっ!」
おれは妹の名を呼び駆け出した。




