第59話:見えない前線(六百の灯火と、二代目の兵站)
王国400、帝国200。計600店舗となったコンビニ網は、今や両国の「生活の毛細血管」となっていた。
本店の司令室で、ケニーはPOSデータの微かな「揺れ」を凝視していた。
1. 現場の「違和感」が語る真実
「……ソラリス。帝国北西部の店舗群、昨夜から『日持ちする食料』と『電池』、それに『毛布』の在庫回転率が異常に上がっている」
ソラリスが不思議そうに首を傾げる。「特売の時期でもありませんのに、なぜでしょう?」
「客数は増えていない。一人が買う『量』が増えているんだ。これは買い溜め……いや、『備え』だ。現場の奴らも日誌に書いてる。お客様の表情が、いつもより硬いってな」
ケニーは、49年の人生と2代目オーナーとしての直感で、国境の向こう側で起きている「異変」を察知した。
2. 「物流」という名の先手
「全600店舗の在庫管理を『手動モード』に切り替えろ。王都と帝国のメイン倉庫にある保存食の8割を、今すぐ国境沿いの20の店舗へピストン輸送する」
ケニーの決断は、周囲の商務官たちを驚かせた。
「廃棄リスクが跳ね上がります! そんな大量の在庫、もし何も起きなければ……」
「モノが余るのは俺の責任だ。だが、もし『何か』が起きた時、棚が空だったら? ……その時、死ぬのは俺たちの店を信じてやってくるお客様だ」
ケニーは迷わず、600店舗の物流リソースを一点に集中させる。
3. 深夜四時の「静寂」
数日後の深夜4時。国境に近い店舗のレジに、ケニーは自ら立っていた。
街の灯が消え、静まり返る闇の中で、コンビニの看板だけがこうこうと輝いている。
ミケが足元で不安そうに鳴いたその時、地平線の彼方から、無数の松明の火が近づいてくるのが見えた。
ナイトコミューターである。
4. 24時間の「祈り」
それは、隣国で起きた内乱を逃れてきた、情報の網から漏れていた避難民の群れだった。
恐怖と飢えでパニック寸前の彼らが、暗闇の中に見つけたのは、いつもと変わらずそこにある「コンビニの明かり」だった。
「……いらっしゃいませ。温かいスープ、たっぷり用意できていますよ」
ケニーのその穏やかな声が、極限状態の人々に、この世界にはまだ「日常」が残っていることを告げた。




