第43話:安価という名の暴力(浸食される市場と、49歳の焦燥)
王都の街角。ケニーのコンビニの目と鼻の先に、敵連合の『王立専売・薬師堂』が巨大な看板を掲げた。
1. 圧倒的な「価格破壊」
「……なんだ、この値段は」
ケニーは、敵の店から出てきた客が持つ買い物袋を見て、言葉を失った。
薬で莫大な利益を出している彼らは、パンやミルク、日用雑貨を「原価割れ」に近い価格で並べていた。いわゆるロスリーダー(目玉商品)戦略だ。
「ケニー様……うちの客数が、昨日の半分以下に落ち込んでいますわ」
ソラリスの声も、かつてないほど沈んでいる。
2. 「見えない品質」の限界
「……あっちの方が安いし、薬も買える。コールドチェーン? トレーサビリティ? そんなの、お腹は膨らまないわよ」
店先で交わされる客たちの容赦ない会話が、ケニーの胸に突き刺さる。
いくら「正しく運んでいる」と訴えても、今この瞬間の「安さ」と「便利さ」という暴力の前では、ケニーのこだわりは「高価な贅沢品」のように扱われていた。
3. 2代目オーナーの「挫折」
49歳のケニーは、前世でも経験した「資本力による殴り合い」を思い出していた。
「……俺がやってきたことは、間違いだったのか?」
先代から受け継いだ「品質への誇り」を異世界でも貫こうとしたが、現実は残酷だ。どれだけ「祈り」を込めて店を開けていても、客がいなければ、そこはただの明るい箱に過ぎない。
4. 運送ギルドの嘲笑
店の前を、敵連合の粗末な荷馬車が土煙を上げて通り過ぎる。
「おい、ケニー侯爵! あんたの丁寧すぎる運送ごっこは、もう終わりだ! 時代は『速さと安さ』なんだよ!」
野卑な笑い声が夜の街に響く。
ケニーは暗い店内で、一人、冷えたコーヒーを握りしめた。
品質を信じて守ってきた自分の「24時間の祈り」が、巨大な資本と利権に飲み込まれようとしていた。




