第4話:不可逆のフランチャイズ契約
「……若様。この契約書、正気ですか?」
開発担当の魔道具師が、震える手で羊皮紙を差し出した。
そこには、俺が前世のコンビニ業界の光と影――その「深淵」を煮詰めて作った『異世界型フランチャイズ契約書』が記されている。
「正気だよ。これは領地を救うための『聖典』だ」
俺は冷ややかに笑った。
契約の柱は三つ。どれも店主の首を真綿で締めるような、合理的かつ悪魔的な条項だ。
24時間営業の絶対義務: 魔道具の灯りで夜も働かせる。交代要員がいなければ店主の家族がレジに立て。店を閉めることは、領主への「反逆」と見なす。
粗利の60%をロイヤリティとして強制徴収: 売上から仕入れ値を引いた利益の「半分以上」を、本部の俺が吸い上げる。赤字になろうが、廃棄が出ようが、俺の取り分は1円たりとも減らさない。
独自通貨の強制導入: 店の支払いは俺が発行する「預り証」を優先させる。これで領民の現金資産をすべて俺のシステムに預けさせる。
「加盟店主には、商売のノウハウと『安全』を売る。その代わり、彼らの人生のハンドルは俺が握る。……一度サインすれば最後。解約には多額の違約金が発生し、一生俺のために働くことになる」
監視の網
さらに、俺は店外の魔道具カメラの設置を加速させた。
「店舗の周囲、半径50メートルを死角なく映せ。これは防犯のためではない。『領民の動向を支配するため』だ」
店外カメラの映像は、本部の俺の部屋に集約される。
誰が、いつ、どこで、誰と密談したか。
誰が、何を買い、どれほどの資産を持っているか。
誰が、酒場で領主館への不満を漏らしたか。
「コンビニは、街に打たれた『杭』だ。杭が増えるほど、俺はこの街のすべてを視覚化できる。……ドミナント戦略とは、物理的な店舗網だけでなく、情報の独占なんだよ」
面接という名の「選別」
スタッフの面接も、もはや「雇用」ではなく「洗脳」に近かった。
「君たちは今日から、俺の『目』であり『耳』だ。レジでの会話、客の服装、顔色……すべてを日報に刻め。優秀な者には地位を、怠る者には……それ相応の『在庫(負債)』を背負ってもらう」
俺の前に並ぶ若者たちは、その圧倒的な「システムの圧力」に飲まれ、ただ頷くしかなかった。
彼らは気づいていない。自分たちが、巨大な巨大な「領地という名の店舗」の歯車に組み込まれたことに。
「さあ、まずはこの街を俺の色に染めよう。一号店が建つ時、それは自由な商売の終わりであり、『効率という名の独裁』の始まりだ」




