第38話:カウンター越しの絆(魔法の肉まんと、不器用な親子)
震災の傷跡も消えかけたある夜。静まり返った店内に、一人の少年と、鎧を纏った不器用そうな父親が入ってきた。
1. 「いつもの」が言えない夜
父親は震災の復興作業でずっと家を空けていた兵士だった。 久しぶりに息子と再会したものの、何を話せばいいか分からず、店内には重苦しい沈黙が流れている。
「……何か、好きなものを買え」
父親のぶっきらぼうな言葉に、少年は俯いたまま「……お腹、空いてない」と呟く。 レジに立つケニーは、20代の瞳でその様子を見守りながら、49歳の経験で「この沈黙」の意味を察した。
2. ケニーの「小さな魔法」
ケニーは、レジ横の保温ケースから、ほかほかに蒸し上がった「特製・魔導肉まん」を二つ取り出し、カウンターに置いた。
「これ、試作品なんだ。感想を聞かせてくれないか?」
嘘だと分かるほど下手な言い訳だったが、ケニーの穏やかな笑顔に、父親は少しだけ肩の力を抜いた。
「……ほら、食え。感想を言わなきゃいけないらしいぞ」
二人が並んで、熱々の肉まんを頬張る。
「あちっ、でも……美味しいね、お父さん」
「ああ。……久しぶりに、お前の顔をちゃんと見た気がするな」
3. ソラリスの「お守り」
その様子を隣のレジで見ていたソラリスが、二人の会計を終えた後、そっと小さな「パッカーン・ステッカー」を少年に手渡した。
「これは、離れていても心が繋がるお守りですわ。お父様がまたお仕事に行かれても、この店に来ればいつでもこの味があります。……だから、寂しくありませんわよ」
少年はステッカーを大切そうに胸に当て、父親の大きな手をぎゅっと握り締めた。
4. 24時間、ここに在ること
親子が笑顔で店を出ていくのを見送りながら、ケニーは床を磨く手を止めた。
大きな物流網も、国家との契約も、すべてはこの「温かい食べ物」と「親子が笑い合える場所」を守るための手段に過ぎない。
(……これだ。俺が守りたかったのは、この数分間の幸せなんだ)
49歳のオーナーとして、深夜の静かな店内で噛みしめる喜び。
コンビニの明かりは、今夜も誰かの孤独を溶かしている。




