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第31話:自由という名の劇薬(丸投げの代償と、深夜の掃除)

「権限を各店長に譲る」というケニーの宣言から三日が経過した。だが、現場で起きたのは自律的な成長などではなく、目を覆いたくなるような「崩壊」だった。

1. 指示待ち人間の暴走とパニック

「自分で考えろなんて、責任を押し付ける気か!」

「仕入れのミスで赤字が出たら、俺たちの首を撥ねるんだろう!」

これまで「パッカーン教」の熱狂と、ケニーの完璧なマニュアルに従うだけだった店長たちは、自由を与えられた途端、本部への不信感を爆発させた。

ある店では、店長が「自分の好きな酒」を棚一面に並べて爆死し、別の店では「欠品が怖い」という強迫観念から通常の5倍のパンを発注し、バックヤードが廃棄の山と化していた。魔導モニターに並ぶのは、前回を上回る真っ赤な「大赤字」の数字だ。

2. 20代の肉体への「ナメ」

ケニーは視察に訪れた店舗で、ベテランの店長から胸ぐらを掴まれんばかりに詰め寄られた。

「おい、若造! 理想論で現場をかき回すな。俺たちは明日食う飯のために必死なんだ。20代の世間知らずな侯爵サマに、何がわかる!」

中身は49歳のベテランオーナーだ。だが、この若く瑞々しい外見は、現場の怒りを受け止めるにはあまりに「重み」が足りなかった。ケニーは反論せず、ただ黙ってその怒りを受け止めた。

3. 深夜のバックヤード、独りの掃除

その日の深夜、ケニーは荒れ果てた店舗に一人残り、モップを手に取った。

廃棄になった大量の弁当を袋に詰め、床の泥汚れを落とす。20代の体力があるはずの体なのに、精神的な疲労で指先が震えていた。

(……クソっ。俺だって怖いよ。全部自分で決めた方が、どれだけ楽か……!)

思わず独り言が漏れる。

(でも、それじゃあアイツらと同じなんだ。数字だけを見て、現場を使い潰して、自分だけが安全な場所にいる……。そんな経営は、もう二度としたくないんだよ……!)

4. 隠れて見ていた目

その時、バックヤードの影で、震える店員とソラリスがその光景を見ていた。

「ケニー様……一人で、あんな……」

高貴な侯爵であり、20代の若者であるはずのケニーが、誰よりも泥臭く、49歳の老練な手つきでゴミを片付けている。その背中には、言葉よりも雄弁な「現場への覚悟」が滲んでいた。

「……明日、もう一回だけ、店長たちと話そう。一歩ずつだ」

ケニーは独り言ち、再びモップを動かした。本当の改革が、この泥沼の中から始まろうとしていた。

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