第30話:国家を測るレジ(徴税の支配と、王への王手)
王宮の謁見の間。そこには、激怒した国王と、減り続ける上納金に不満を募らせる貴族たちが詰めかけていた。
「ケニー侯爵。貴殿の『働き方改革』とやらのせいで、我が国への上納金が3割も減った。これは反逆にも等しい失態だ」
国王の威圧的な声が響く。だが、20代の若き肉体に宿る49歳の経営者は、震える指先を隠し、不敵な笑みを浮かべた。
1. 「国を没収する」という脅し
「……もはや貴殿に経営を任せてはおけぬ。コンビニのシステム、物流網、魔導レジのすべてを王家が没収し、直轄とする。貴殿は平民に落とし、現場で死ぬまで働かせてやろう」
貴族たちの嘲笑が響く。中身が49歳のケニーには分かっていた。彼らは「システム」さえ手に入れば、自分たちで回せると過信している。前世で、現場を無視して利益だけを吸い上げようとした無能な上層部と、全く同じ顔をしていた。
2. 49歳の「老獪な牙」
ケニーはゆっくりと顔を上げた。その瞳には、若者らしい情熱ではなく、酸いも甘いも噛み分けた経営プロの冷徹な光が宿っていた。
「陛下……。一つ、お忘れではありませんか? 今やこの国の税金の8割は、我が店舗の『収納代行サービス』を通じて納められています」
「それがどうした。没収すれば、その金も王家のものだ」
「いいえ。私が指を一つ鳴らせば、全店舗の通信を遮断します。そうなれば、誰が、どこで、いくら税を納めたか、誰に滞納があるか……そのすべてのデータが消失します。陛下、あなたは明日から『誰にいくら請求すればいいか』すら分からなくなるのです」
3. 国家破綻という名の「チェックメイト」
謁見の間が、凍りついた。ケニーは一歩、王座へ歩み寄る。
「さらに言えば、全店舗の決済流通を停止させれば、市場の物資は止まり、民は飢え、経済は半日で死にます。……私を平民に落とすのは構いません。ですが、その瞬間にこの国は、帳簿も資産もない『盲目の国家』へと転落する」
49歳の経験が、王家の喉元にナイフを突き立てていた。
「私は成り上がりたいのではありません。この国を、働いている者が、そして陛下さえもが誇れる『素晴らしいシステム』に作り変えたいだけなのです。……私を潰すか、私と共に『真の繁栄』を見るか。選ぶのは陛下です」
4. 孤独な勝利と、震える背中
沈黙の末、国王は苦渋に満ちた表情で座り直した。
「……よかろう。改革の猶予を与える。だが、必ず『素晴らしいシステム』とやらを証明してみせよ」
謁見の間を辞し、廊下に出た瞬間、ケニーの膝がガクガクと震え出した。
20代の若い心臓が、限界まで波打っている。
(……死ぬかと思った。前世のクレーム対応より、1万倍きつい……)
そこへ、ソラリスが駆け寄ってきた。彼女は何も言わず、ただ震えるケニーの手を握った。
「……ケニー様。……最高に、かっこよかったですわ」
中身は49歳、見た目は20代。一人の男が、国家を相手に「現場のプライド」を守り抜いた瞬間だった。




