第28話:覚醒の痛み(謝罪と、一歩ずつの再建)
ケニーは、全店舗へ向けた魔導通信の壇上に立った。だが、その顔に「教祖の夫」としての余裕はない。49歳の、疲れ果てた一人の「店主」の顔だった。
1. 「洗脳」の解除と、凄まじい怒号
「……皆に、謝らなければならない。俺が広めた『パッカーン教』という熱狂は、ただのまやかしだった。俺は、数字のために君たちの心と体を『パッカーン』と壊していただけだ」
ケニーが「24時間営業の廃止」と「教義の否定」を口にした瞬間、通信の向こう側から、これまでにない怒号が響き渡った。
「ふざけるな! 24時間捧げてこそ救われると言ったのはあんたじゃないか!」
「今更休めなんて、俺たちのこれまでの苦労をゴミだと言うのか!」
「売上が落ちたらどうする! 俺たちの生活を保証できるのか!」
他国の店舗からも、王宮からも、凄まじい勢いで批判の念波が押し寄せる。ケニーはそれを遮ることなく、ただ静かに、すべてを受け止めていた。
2. 49歳の深い辞儀(お辞儀)
罵詈雑言の嵐が一段落したところで、ケニーはカメラ(魔導具)に向かって、深く、深く頭を下げた。
「……すまない。すべては、経営者である俺の未熟さが招いたことだ」
49歳の男が、異世界の全店員に向けて見せた「ガチの謝罪」。
「俺は前世でも、同じ過ちで部下を失った。異世界に来てまで、俺は何も変わっていなかった。君たちを奴隷のように働かせ、自分だけが『成功者』の顔をしていた。……本当に、申し訳ない」
その姿には、かつて日本の深夜のバックヤードで、独りシフト表を抱えて泣いていた頃の「一人のオーナー」としての魂がこもっていた。
3. 「一歩ずつ」という、経営者の覚悟
静まり返った通信の向こう側へ、ケニーは声を絞り出した。
「この改革をすれば、間違いなく売上は落ちる。他国の王族からは圧力がかかり、ギルドからも見放されるかもしれない。経営は、明日にも行き詰まる可能性がある」
ケニーはモニター越しに、店長たちの顔を一人ずつ見つめるように語りかけた。
「魔法のような解決策はない。明日から一気に幸せになれるわけでもない。……だが、俺は今日から、一歩ずつ進む。利益ではなく、君たちの『睡眠』を。数字ではなく、君たちの『家族との時間』を。一つずつ、泥臭く取り戻していく。……俺と一緒に、もう一度『正しい店』を作ってくれないか」
4. ソラリスの静かな寄り添い
通信を終え、崩れ落ちるように椅子に座るケニー。
そこへ、ソラリスが静かに近づき、彼の背中にそっと手を置いた。
「ケニー様……。皆様、怒っておられましたわね。でも、あんなに真っ直ぐなあなたの目……私は初めて見ましたわ。……パッカーンなんて言わなくても、今のあなたには、私たちが信じるべき『真実』が宿っております」
ソラリスもまた、熱狂的な教祖から、一人の「経営者の妻」へと脱皮しようとしていた。




