第27話:暗転のシフト表(49歳の悔恨と、真の再建)
他国進出の最前線にある、とある街道沿いの店舗。ケニーは深夜、お忍びでその店を訪れた。
だが、自動ドア(魔導式)の先で彼を待っていたのは、活気ある「パッカーン教」の熱狂ではなく、どんよりと淀んだ空気だった。
「……いらっしゃいま……せ……」
レジに立つ若い店員の目は、完全に据わっていた。制服は汚れ、棚のパンは乱れ、床にはゴミが落ちている。
かつて、前世の日本で「ブラック企業の店長」として死に物狂いで働いていた頃の自分や、自分が使い潰してきたアルバイトたちの顔が、ケニーの脳裏に強烈にフラッシュバックした。
1. 現場の悲鳴、オーナーの勘
ケニーは黙ってカウンターの内側に入り、事務所の「ワークスケジュール(シフト表)」を手に取った。
そこに並んでいたのは、目を覆いたくなるような数字の羅列だった。
「1人2シフト連勤……? 休憩なしで16時間労働か」
異世界進出という華やかな成果の裏で、ギルド窓口の代行業務という膨大な作業量が、現場の人間を物理的に押し潰していたのだ。
「素材の査定が終わらないんです……。本部からは24時間開けろと言われるし、お客様(冒険者)は待ってくれないし……」
震える声で訴える店長の姿に、ケニーの胸は、まるで古いPOSレジがショートしたような激しい痛みに襲われた。
2. 深夜の自責と「復讐」の意味
その夜、宿に戻ったケニーは、暗い部屋で一人、自分の拳をデスクに叩きつけた。
「俺は何をやってるんだ……。49年も生きてきて、コンビニの表も裏も知り尽くしていたはずなのに」
自分だけは賢い経営者だと思っていた。異世界で成功し、前世の自分を馬鹿にしていた連中を見返してやるのが「復讐」だと思っていた。
だが、その実態はどうだ。自分が作ったのは、前世で自分を苦しめた「搾取のシステム」そのものではないか。
「……本当の復讐は、働いている奴らが『この店で働けて良かった』と笑えることのはずだ。俺がやりたかったのは、人を奴隷にすることじゃない……!」
ケニーは自分を責め、責め抜き、そして涙を拭った。経営プロとしての「冷徹な知略」を、初めて「現場を救うためだけ」に使うと決めた。
3. ソラリスへの宣言
翌朝、憔悴したケニーの様子に気づいたソラリスが、心配そうに駆け寄ってきた。
「ケニー様、お顔の色が……。何か、私の『パッカーン』な祈りが足りませんでしたの?」
ケニーはソラリスの肩を静かに掴み、まっすぐ見つめた。
「ソラリス、違うんだ。宗教でごまかせる時期は終わった。……俺たちは今、最悪の店を作っている」
「……ケニー様?」
「明日から、全店舗の運営方針を180度変える。他国への拡大よりも先に、店員たちが人間らしい生活を送れる『働き方改革』を断行する。……これは経営者としての、俺の最後の戦いだ」
ケニーの瞳には、パッカーン教の教祖の夫でも、侯爵でもない、「一人の泥臭いコンビニオーナー」としての覚悟が宿っていた。




