第2話:7歳のプレゼンテーション
「父上、お話があります」
その日、俺は父上――この領地の領主であるヘンリーを、あえて書斎ではなく、領地を俯瞰できるバルコニーへと呼び出した。
手には、この3年間で蓄積した「石」と「板」の集大成、羊皮紙に清書された独自のデータシートを握っている。
「なんだケニー。また石を数える遊びに飽きて、新しいおもちゃでも欲しくなったか?」
父上は豪快に笑うが、その顔には隠しきれない疲弊が見える。最近、隣領との物資の買い付け交渉が難航しているのを、俺は「数字」で知っている。
「いいえ。父上。おもちゃはいりません。代わりに、『土地』を貸してください」
「土地だと?」
「はい。北の街道と、西の市場へ向かう道が交差する、あの空き地です」
父上の顔から笑みが消えた。
「あそこは……確かに交通量は多いが、ただの荒れ地だ。店を出そうにも、あの場所には既存の『武器ギルド』も『薬師組合』も興味を示さなかった場所だぞ」
俺は静かに、手元の羊皮紙を広げた。
「父上、これをご覧ください。これは私が3年間、あの辻に座って記録し続けた『通行量』のグラフです」
そこに描かれていたのは、父上が見たこともないような奇妙な波線だった。
「これは……なんだ?」
「人流の波です。父上、あの場所は正午に北からの行商人が、そして午後三時に西からの巡礼者が最も滞留するポイントです。しかし、彼らはそこを通り過ぎるだけで何も買わない。なぜなら、彼らが欲しい『ポーションの小瓶』や『携帯用の保存食』を売る店が、そこにはないからです」
俺はさらに畳み掛ける。
「既存のギルドは、わざわざ街の中心の大きな店舗まで客を歩かせようとします。ですが、客は『今、目の前で』欲しいのです。雨が降れば雨具を、気温が上がれば冷えた飲み物を。私はそこに、あらゆるジャンルの商品を『少しずつ』、しかし『確実に』揃えた店を作ります」
父上は呆然とグラフを見つめている。
「しかし、そんなバラバラな品揃えで利益が出るわけが……」
「出ます。私の計算では、この在庫回転率なら、既存の商店の三倍の効率で資本を回せます。父上、私は『勘』で言っているのではありません。この三年のデータが、そこに店を置けと命じているのです」
沈黙が流れた。
風がバルコニーを吹き抜け、父上が羊皮紙の端を強く指で押さえる。
「……面白い」
父上の声が低く響いた。
「正直、お前の言っていることの半分も理解できん。だが、この執念……ただの子供の遊びではないようだな」
俺は確信した。落ちた(成約だ)。
「いいだろう。一年の期限付きで、その場所を貸してやる。ただし、資金は私の個人資産から貸し付ける形だ。失敗すれば、お前は今後一切、石を数える遊びは禁止だ。いいな?」
「もちろんです。その代わり父上……一つだけ、特別な魔道具の製作を許可してください」
「魔道具? どんなものだ?」
俺は、前世で何度も確認した「あの光景」を思い出しながら、不敵に笑った。
「『離れた場所からでも、店の様子がリアルタイムでわかる鏡』……そして、夜の間も店を昼間のように照らす魔石です。――24時間、不夜城のように輝く店を作るために」
異世界初の「コンビニ」――ケニー・ワンストップ・ショップ。
その第一歩が、いま踏み出された。




