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第144話:食の革命(貴族の鮮度と、プロの敗北)

港町店(第803支店)を中心とした「コールドチェーン(低温物流網)」と「小口多頻度配送」の歯車が噛み合い、聖教国一帯の「食」に劇的な変化が起きていた。

1. 庶民の食卓に起きた「奇跡」

かつて、獲れたての新鮮な魚や、産地直送の瑞々しい野菜を食べられるのは、莫大な運搬費を払える一部の貴族や富豪だけだった。庶民は、市場で売れ残った「目が濁り、匂いの出始めた魚」を濃い味付けで誤魔化して食べるのが当たり前だったのだ。

だが、ケニーのコンビニがそれを変えた。

「……おい、この『バルガス便』の刺身、昨日の晩に海で跳ねてたやつだってよ」

「銅貨数枚で、王宮の晩餐会と同じ鮮度のものが食べられるなんて……。神様、いや、ケニーオーナーのおかげだな」

24時間、常に一定の温度で守られ、一日に何度も運び込まれる「命の輝き」。それは、異世界の階級社会を根底から揺るがす「食の革命」だった。

2. 高級レストランの「屈辱」と「懇願」

この革命に、最も衝撃を受けたのは、街の高級レストランのシェフたちだった。

ある日、港町で一番の老舗レストラン『黄金の波』の総料理長が、数人の弟子を引き連れて第803支店に現れた。

「店主……いや、ケニー殿。単刀直入に言う。この店に並んでいる『契約漁師の白身魚』と『高地直送のハーブ』を、我々の店にも卸してはもらえないだろうか」

ショウは目を丸くした。プライドの高い高級店のシェフが、路地裏のコンビニに食材の供給を乞うなど、前代未聞のことだ。

「……うちの仕入れルートでは、どうしても輸送中に鮮度が落ちる。だが、お前の店の配送箱リーファーコンテナは魔法のようだ。うちの最高級のワインに合うのは、お前の店の『普通』の食材だけなんだ」

3. コンビニは「物流」の王

ケニーは、49歳の老獪な経営者の顔で、静かに首を振った。

「料理長、うちは卸問屋ではありません。……コンビニは、あくまで『地域の皆様の24時間の安心』を守る場所ですから」

「そこをなんとか! 金なら払う!」

「……ですが」

ケニーはそこで、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「レストランの裏口まで配送車(馬車)を回すことは可能です。ただし、条件があります。配送コストの分、商品のデータ……つまり『プロが認めた旬の食材の情報』をケニーバンクに提供していただく。そして、うちの店で売る『贅沢弁当』の監修もお願いしたい」

4. インフラが世界を支配する

結局、高級レストラン側が折れる形で契約は成立した。

コンビニの配送網が、街の最高級の味を支える「インフラ」となった瞬間だった。

ショウが驚きながら尋ねる。

「オーナー、いいんですか? コンビニなのに、レストランの仕入れまで引き受けて……。もう『ただの店』じゃなくなってきてますよ」

「ショウ、物流を支配する者は、その国の『胃袋』を支配するんだ。高級店のプロがうちの品質を認めたという事実は、そのままコンビニの『信頼』という名の最強の看板になる。……これが、インフラとしての完成形だ」

ケニーは、忙しく動き回るコールドチェーンの配送馬車を見送り、心の中で呟いた。

「……貴族も庶民も、食べる喜びは平等だ。それを支えるのがコンビニの誇り……。よし、これでまた一つ、とてつもない『徳』を積めたな」

聖教国の港町。深夜のコンビニの明かりは、今や美食の最前線を支える、消えない希望の火となっていた。

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