第14話:教育という名の洗脳(魂の調律)
店舗数が200を超え、王都周辺を埋め尽くす勢いとなった今、ケニーの最大の悩みは「質の劣化」だった。
「システムが完璧でも、末端の『人間』が腐れば、それはただの砂の城だ」
18歳から20歳にかけて店舗を急増させた代償として、接客の乱れや管理の甘さが目立ち始めていた。そこで伯爵家の跡取りとしての権力を持つケニーは、王都郊外に巨大な「人材育成センター」を建設した。
集められたのは、各店舗の店長候補たち。彼らを待っていたのは、異世界の住人がかつて経験したことのない、精神を削る「魂の調律」だった。
1. 狂気の「唱和」訓練
広大な訓練所に、数百人の候補生たちの声が地鳴りのように響き渡る。
「声が小さい! もう一度だ!」
ケニーの指示を受けた鬼教官(元軍人や厳格な騎士たち)が、竹を割るような音を立てて机を叩く。
「いらっしゃいませ!」
「ありがとうございました!」
ただの挨拶ではない。腰の角度、指先の位置、そして声のトーン。すべてが「本部の規定」通りになるまで、朝から晩まで、喉から血が出るほど繰り返させる。
伯爵家の権威を背景にしたこの訓練は、平民や没落貴族の候補生たちにとって、逆らうことのできない「絶対的な儀式」となっていった。
「いらっしゃいませ!」
「ありがとうございました!」
何度も、何度も、意識が遠のくほど繰り返すうちに、彼らの目から個性が消え、代わりに「ケニーの駒」としての光が宿り始める。それは、前世でケニーが最も憎み、そして最も頼りにした「マニュアルによる洗脳」そのものだった。
2. 「伯爵家」という重圧
ケニーは高台から、寸分狂わぬ動きで唱和を続ける候補生たちを見下ろしていた。
伯爵家という立場は、この狂気を正当化させる。
「これは王家の紋章を背負うための試練だ。伯爵家の名に泥を塗る者は、ここを去れ」
その一言で、候補生たちは恐怖と忠誠心を植え付けられ、自ら進んで「マニュアルの奴隷」へと堕ちていく。彼らはもはや、客を人間として見ていない。ただ「システムを回すための対象」として、完璧な笑顔を張り付けたマシーンに変貌していくのだ。
3. 深夜の自責
研修の最終日。漆黒の馬車で帰路につくケニーは、自らの震える指先を見つめていた。
「……俺は、また一人、人間の心を殺したのか」
暗闇の中、独りごちる声は虚しく響く。
前世で自分が一番嫌いだった、あの無機質な挨拶。それを、この世界の若者たちに無理やり植え付けている。伯爵家という立場を利用し、逃げ場を奪い、心を「いらっしゃいませ」という言葉で塗りつぶしていく。
胸の奥が焼けるように痛む。だが、その痛みさえも、次なる「400店舗体制」への熱量に変えていかなければ、この巨大な怪物は維持できない。
「ごめんな……。だが、これが『王都』を救う唯一の道なんだ」
ケニーは、涙を流すことさえ許されない「本部の神」として、再び冷徹な仮面を被り直した。




