第127話:沈黙の警鐘(データが示す予兆と、王宮への緊急提言)
王都本店の執務室。深夜、ケニーはケニーバンクの決済端末と連動した「在庫管理マップ」を鋭い眼光で見つめていた。
全800店舗の棚から、今この瞬間に何が消えたのか。そのリアルタイムの動向が、地図上の光点となって不気味に点滅している。
1. 違和感の正体
「オーナー、第47区から第52区にかけて、特定の商品の欠品が相次いでいます。補充が追いつきません」
ロイの報告に、ケニーは椅子から立ち上がった。
「補充を急ぐのはいいが、中身に注目しろ。売れているのは……『栄養補助ゼリー』と『経口補水液(魔導水)』、そして『解熱効果のある薬草茶』だ。しかも、特定の街道沿いの店舗に集中している」
それは、単なる「売れ筋」の変動ではなかった。ビッグデータが示す曲線は、過去のどの季節変動とも一致しない、異常なスパイクを描いていた。
2. 見えない敵との対峙
ケニーは地図上の光点を指でなぞった。
「この街道は、北の鉱山都市からの物流拠点だ。……ロイ、これは流行病の前兆だ。まだ王宮の衛生局も気づいていない、ごく初期の段階だ」
「えっ、まさか……そんなことが、レジの数字だけでわかるのですか?」
「数字は嘘をつかない。体調を崩し始めた人々が、無意識に『手軽で栄養のあるもの』を求めてコンビニに駆け込んでいる。……このまま放置すれば、数日以内に王都全体に広がるぞ」
3. 中央政府への緊急伝達
ケニーは即座にペンを取り、ケニーバンクの機密通信網を使って王宮の厚生担当大臣へ親書を送った。
「……ロイ、これをすぐに届けろ。内容は『流行病発生の可能性。発生源は北街道。潜伏期間は推定三日。直ちに各関所での検疫を強化せよ』だ」
「オーナー、まだ確証もないのに政府を動かすのはリスクが……」
「ビッグデータは『確証』そのものだ。役人が現場の異変を報告書にまとめて王宮に届く頃には、パンデミックが起きている。……いいか、コンビニが一番早く、民衆の『異変』を察知できる場所なんだ」
4. 24時間の防波堤
ケニーの警告を受け、中央政府は半信半疑ながらも検疫を開始した。その数日後、ケニーの予測通り、北からの旅人たちに発熱の症状が次々と現れ始めた。
だが、事前の警告により、王都への流入は最小限に食い止められた。さらに各コンビニには、まるで予知していたかのように必要な栄養食や消毒薬が山積みになっていた。
「……助かったよ。薬師の店は閉まってたが、ここは24時間開いてるからな」
「政府の検疫も早かった。店主さんのおかげだ」
混乱を未然に防ぎ、国家の麻痺を食い止めた功績に、ケニーは静かに安堵の息をついた。
「……また一つ、大きな徳を積めたようだな。49歳にもなって、一国の危機を救うことになるとは」
49歳の男が操るビッグデータ。それは利益を上げるための道具ではなく、異世界の「命の灯火」を守り、国家を導くための、目に見えない守護の盾となっていた。




