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第125話:陽炎の警告(魔導冷房のオアシスと、石畳の異変)

王都の正午。太陽は真上から、暴力的なまでの熱を石畳の街道へと降り注いでいた。

周囲の建物が熱を帯び、空気が乾燥した土埃と共に揺らぐ中、ケニーの第1支店だけは、強力な魔導冷房によって涼やかな空気を保ち、「砂漠のオアシス」のように佇んでいた。

1. 崩れ落ちた足取り

「オーナー! 店の入り口横で、高齢の男性が……倒れ込んでいます!」

スタッフの叫び声に、ケニーはレジを飛び出した。

自動ドアが開いた瞬間、熱風が頬を打つ。視線の先には、店舗の白い壁を背に、力なく石畳へ崩れ落ちている一人の高齢男性がいた。

男性は土に汚れた手をつき、必死に立ち上がろうとしている。だが、右半身がまるでもつれた紐のように自由を失い、何度も膝から石畳に叩きつけられていた。

2. 「帰らせてくれ」という拒絶

「大丈夫ですか! 今、中に運びます!」

ケニーが駆け寄り、男性の体を支えようとした。だが、男性の顔は赤らみ、瞳はどこか焦点が合っていない。

「……は、離せ……っ。自分で、帰れるんだ……。ちょっと、眩暈めまいがした……だけだ……。立たせて、くれ……」

ろれつの回らない声で、男性は頑なに助けを拒む。

「家は……すぐそこなんだ……。いいから、放っておいて……くれ……」

熱中症か、あるいは。49歳のケニーは、男性の顔の右半分がわずかに垂れ下がり、右手の指先が震えているのを見逃さなかった。

(……ただの熱中症じゃない。この症状、脳梗塞の兆候だ)

3. 「拒否できない救済」と、魔導救急

「いいえ、そんなことはさせませんよ。今、救急車(魔導救急搬送車)を呼びます」

「……やめろ、大袈裟だ! ……帰るんだ、離せ!」

男性は必死にケニーの手を振り払おうとするが、力が入らない。ケニーは冷静に、しかし断固とした態度でスタッフに命じた。

「ロイ! ケニーバンクの緊急回線で救急要請だ。脳梗塞の疑いありと伝えろ。……それと、保冷剤と冷えたタオルを。首筋を冷やすんだ。救急車が来るまで、一歩も動かさせないぞ」

石畳の街道に、青い魔導光を点滅させた救急車が近づいてくる。男性は不本意そうに「迷惑だ、迷惑だ」と呟き続けていたが、ケニーはその手を離さなかった。

4. 届いた感謝と、積まれた「徳」

数日後。店に一人の若い男性が、菓子折りを持って訪ねてきた。あの時の男性の息子だった。

「店主さん、父を助けてくださって、本当にありがとうございました。……病院の先生から言われました。あの炎天下で、もし無理をして歩き出していたら、途中で倒れて手遅れになっていただろうと。一歩間違えたら、命はなかったと……」

深々と頭を下げる息子。ケニーはそれを静かに受け止め、いつものように冷静にレジを打った。

「……無事で何よりです。うちは24時間、何かあった時に一番に見つけられる場所でありたいだけですから」

息子が去った後、ケニーは手元の端末に表示される「地域貢献ログ」に目を通しながら、独り言を呟いた。

「……良かった。これでまた一つ、徳を積めたな」

真夏の太陽が照りつける中、コンビニの白い看板は、命を守る最後の灯台として、今日も凛として立ち続けている。

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