第123話:月一度の約束(八百の窓口と、約束のスープ)
「……ロイ、勘違いするな。これは慈善事業の真似事じゃない。地域密着型コンビニとしての『当然の義務』だ」
ケニーは、全800店舗のレジ横に設置された募金箱の集計データを、ケニーバンクの端末で確認していた。
1. 「地産地消」の善意
ケニーが定めたルールは明快だった。
「各地の店舗で集まった募金は、そのままその地域の『月1回の炊き出し』の原資にする。王都で集まった金は王都へ、辺境で集まった金は辺境へ。その土地の客が投じた善意は、その土地の空腹を癒やすために使うんだ」
ケニーバンクという金融インフラがあるからこそ、地域ごとの予算管理は完璧だった。どこでいくら集まり、それがいつ、どの村の小麦粉や肉に変わったのか。その透明性こそが、客たちの信頼を勝ち取っていた。
2. コンビニの物流が作る「炊き出しの日」
月に一度、各エリアの店舗が一斉に動く「炊き出しの日」がやってくる。
活躍するのは、普段から商品を運んでいるコンビニの配送トラックだ。徹底した温度管理のもと、新鮮な野菜や大量のカップラーメン、そして「炊き出し専用」の巨大な寸胴鍋が、各地の広場へと運び込まれる。
「……お湯は足りてるか? 麺が伸びないうちに配れよ」
コンビニの制服を着たスタッフたちが、手際よく動く。これは特別なイベントではなく、24時間営業のルーチンに組み込まれた「もう一つの業務」だった。
3. お腹いっぱいの安らぎ
広場には、その日を待ちわびた人々が列を作っていた。
「……あったけぇ。これが、みんなのお釣りで作られたスープか」
「ああ。来月もまた、ここで会おうな」
一杯の温かいスープと、焼きたてのパン。お腹がいっぱいになれば、トゲトゲしていた心は自然と丸くなる。
ケニーの狙い通り、炊き出しが行われる地域の治安は、月を追うごとに劇的に改善していった。争うよりも、次の「炊き出しの日」を楽しみに待つ。そんな穏やかな空気の輪が、800店舗の周辺から波紋のように広がっていた。
4. コンビニという名の「灯火」
ケニーは、王都の店舗の裏で、空になったスープの鍋を片付けるスタッフたちの姿を眺めていた。
「……少しでも、温かい輪が広がればいい。腹が膨れれば、明日のことを考える余裕が生まれるからな」
49歳の男が始めた、レジ横の小さな箱。それは、ケニーバンクという血管を通じ、月に一度、世界中に温かな湯気を立ち昇らせる「約束の場所」となった。
コンビニの灯りは、今や商品を売るだけではない。
「あそこに行けば、誰かが助けてくれる」「あそこがあるから、この街は大丈夫だ」
そんな、目に見えない「心のインフラ」として、異世界の八百の街に深く根を張っていた。




