第120話:再訪の静寂(数日後のカウンターと、勇者の休息)
(前略:数日ぶりに訪れた勇者が、深夜のカウンターでカレーパンとミルクを味わい、西の森での戦いや二十年間の孤独をポツリポツリと語るシーン)
3. 49歳の「聞き役」
男はポツリポツリと、この二十年間の話を始めた。
現代日本から放り出され、勇者という偶像を押し付けられ、孤独に剣を振り続けてきたこと。味方のいない戦場で、死ぬことよりも「忘れ去られること」を恐れていたこと。
「……でも、ここに来れば、あんたがいて、この味がある。二十年ぶりに、自分の居場所を見つけた気がするんです」
ケニーは、かつて深夜の店番をしていた頃、時折現れる「訳ありの常連客」の話を聞いていた時の感覚を思い出していた。
店主は、救世主にはなれない。だが、一人の人間の「孤独」を一時だけ預かる器にはなれる。
4. 勇者の背負う荷物
男が立ち上がり、再び戦場へと戻ろうとした時。
ケニーはレジの奥から、ずっしりと重い一箱をカウンターに置いた。
「……これを持っていってください」
男が怪訝な顔で中を覗くと、そこには整然と並んだカップラーメンが1ケース、詰まっていた。
「これは……?」
「お湯さえあれば、どこでも『あの頃の味』が食べられます。……あんたが一人で野営している時、少しはマシな夜になるでしょう」
男は一瞬、絶句した。黄金のパンも凄いが、この「保存の利く魔法の食事」の価値がどれほどか、勇者である彼には痛いほどわかった。何より、その一箱に込められた店主の「生きてまた来い」という無言のメッセージが、胸に刺さった。
「……悪いな。……本当に、ありがとう」
男は大切そうにそのケースを抱え、深く頭を下げた。
朝の光が差し込む前、男は再びあの名曲を口ずさみながら、今度は迷いのない足取りで外へと踏み出した。
「風のように〜♪」
その背中は、もはや悲劇の勇者ではなく、ただの「行きつけの店を持つ、一人の男」のそれだった。
ケニーは、汚れたカウンターを丁寧に拭き上げた。
800店舗の灯火は、今日、また一人の孤独な魂を、少しだけ軽くした。




