第116話:小話・轍(わだち)の旋律(風の◯イムマシンと、希望の光)
800店舗のネットワークを維持するため、ケニーは頻繁に店舗間を移動する。魔導による転移門も検討したが、彼はあえて、魔導馬車に揺られる時間を好んでいた。
1. 独りきりの「聖域」
馬車の御者台に座り、手綱を握る。隣にソラリスやロイがいない、この移動時間だけが、ケニーが「店主」という重圧から解放される唯一の自由時間だった。
異世界の乾いた風が頬をなでる。視界に広がるのは、中世のような荒野と、その先でポツンと灯る24時間のコンビニの看板。
「……さて、今日も一曲いくか」
2. 希望の轍
ケニーの口から自然とこぼれ出したのは、前世で何度も何度も聴いた、あのイントロの旋律。
「夢を◯せて走る車道〜♪」
◯◯ンオールスターズの『希望の◯』。
異世界の街道を走る馬車の車輪が、不思議とあの軽快なピアノの音律とシンクロする。
「……遠く◯く離れゆくエボシ岩……じゃない、あそこにあるのは王国の監視塔か」
歌詞を異世界の景色にパッカーンと当てはめながら、ケニーは声を張り上げた。49歳の男が、少年のように喉を鳴らす。この歌を口ずさんでいる間だけは、前世のしんどい記憶も、異世界の重苦しい責任も、すべて風に溶けていく気がした。
3. 風のタイ◯マシンに乗って
曲調が変わり、今度はより疾走感のある『風の◯イムマシン』が口をつく。
「風の◯イムマシンにのって〜♪」
まさに、今の自分にぴったりではないか。前世からこの世界へと時間を飛び越え、コンビニという名の「光」を届けている。
馬車のスピードを少し上げると、風の音が歌声と重なり、えも言われぬ爽快感がケニーを包み込んだ。
「……いいな。やっぱりこの曲は、移動に合う」
広い空、どこまでも続く道。前世の車の中では味わえなかった「本当の解放感」がここにはあった。
4. 49歳の「パッカーン」な笑顔
ふと、街道ですれ違った冒険者たちが、変な歌を歌っている変な店主を二度見した。だが、ケニーは構わず笑い、手を振った。
「よお、今日もコンビニをよろしくな!」
今のケニーには、ゴールドカードもギルドの権威もいらない。ただ、お気に入りの曲を歌いながら、次の店舗へと進むこの瞬間があれば、明日もまた戦える。
馬車が次の店舗の灯りを見とらえた時、ケニーは歌い終え、静かにハンドル(手綱)を握り直した。
「……よし。休憩はおしまいだ。店を開けようか」
轍の先に、また新しい24時間の物語が待っている。




