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第一話 最弱魔王様

 魔王領の最東の地、すなわち人間領に最も近い場所に、魔王城はあった。

 今日も、勇者が敗北する。


 「ひ、卑怯だぞ、たかがスライムだって、こんなにいたら……」


 魔王城第一層。

 そこは一万を優に超える大量のスライムで満ちていた。

 スライムは女子供でも倒せるような弱い魔物である。

 しかし、室内に溢れるスライムはどれだけ攻撃しようと減ることがなく、たとえどんなに弱い攻撃でもジワジワとダメージを与えていく。


 「卑怯だって?私、魔王だよ?魔王が卑怯じゃなかったら、誰が卑怯だというのかね?」


 勇者達の視界の上には、魔法で映し出された魔王の姿があった。実に楽しそうに、勇者達を煽る。ひたすら。執拗に。粘着質に。


 「うるさい!卑怯なものは卑怯だ!正々堂々と戦え!」


 「やだね。そんなのにも勝てないなら、私が相手するに値しないもん。」


 というか、と付け加えて、


 「ほらー、負けたやつはなんて言うんだっけぇー?言い訳なんていちいち聞きたくないなー。」


 勇者は実に屈辱的な顔で、非常に言いたくなさそうに、


 「っ!まっ、まいり……参りましたこんちくしょー!覚えてろよー!」


 捨て台詞を吐いて、撤退を開始した。勇者の撤退に合わせて、仲間達も逃げる。魔法使いや聖女だけ、スライムの酸性によって服が溶けて、ボロボロになっていた。魔王の趣味である。


 「逃げんのー?」


 「これは転進だ!後ろ向きに進んでるだけだから、逃げじゃねぇ!」


 「てか服弁償しろー!」


 そうして、勇者達は逃げていった。




 「いやー、楽しかった!」


 魔王城・最上階の魔王の玉座でクレアは一息つく。用意しておいたワインのようなジュースを手に取ると、それを一気に飲んだ。


 「勝利のジュースうんまぁー!」


 そんな彼女に一匹のスライムが近づいた。きっと、第一層から逃げ出してしまったのであろうそのスライムが、クレアに体当たりをする。

 大人なら痛みも感じないような攻撃。そんな攻撃を受けて、魔王は……


 「痛っ!?まってなんでスライムいるの!?ちょ、誰か助け――!」


 半泣きになって騒ぎながら、痛みで悶えていた。


 これが、世界で大魔王と称され、魔族に讃えられ、人族に恐れられる、魔王の実態。

 歴史上でも類を見ない最弱の魔族。

 それが、彼女。

 魔王、クレア・ノクティス。

 人族と魔族の大戦争を終わらせた、大魔王である。

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