6、先生との再会
藍英は千人の兵を引き連れて大門に到着すると、大門の外に兵を配置した。大門は反乱の知らせが入った時から封鎖されている。出入りしたい者は、東か西の中門に回るしかない。反乱軍は、門からだいぶ離れた所で陣取っていた。
「反乱軍の動きはどうなっている?」
「まだ、動きはありません」
市壁の上から、荒野にいる反乱軍の様子を見た。農具を持った農民達が立っていたが、攻めてくる様子はない。
(2万人ほどいるが、これほどの人数を集める指導者がいるとは、聞いてない)
「首謀者が分かりました。租師念という、薬師の老人だそうです」
「!」(小蓮の師匠ではないか!)
(こんなことをしでかすとは。すでに皇帝にでもなったつもりか)
予測不能な老人だ。出方を見ることにした。
翌日、藍英の屋敷。小蓮は離れの軒下に座って、奥庭を眺めていた。ここは静かだが、反乱が起こるなんて。街中は安定しているので、首都の人間が文句を言うことはないが、農民達は違うだろう。先帝は国庫を食い潰したと言われているので、税金はまだ高いままだ。
(農民達はどうなるのだろうか。そして、将軍はどうするのだろう…)
小蓮はうつむいて考えていた。
「小蓮!」
突然聞いたことのある声がした。この声は、顔を上げると、
「先生!?」
小蓮は思わず大声が出た。杖を持った師念が庭に立っていた。
(先生は神出鬼没!)
小蓮と三歩ぐらいの距離にいた。師念が何をするか分からないのと、逃げた手前どう対処すればいいのか、小蓮は固まる。
「お前を助けに来た。一緒に帰ろう」
(ここは穏便に、先生に合わせよう…)
「見つかったら、どんな罰があるか分かりません。先生は逃げてください」いったいどうやって、ここに入ってきたんだか。
「声がしましたが、お嬢様どうしました?」
小蓮の声を聞きつけて、香呂が庭にやってきた。師念の姿を見て、
「ぎゃー、ドロボー!!」
(助かった!)
小蓮はほっとした。
「また来る!」
(来なくていいから)
「どうした!?」
見張りの衛兵が駆け付けると、師念の姿はもうなかった。
藍英は、市壁の上から反乱軍の様子を見ていた。反乱から3日たったが、反乱軍からの要求や動きは何もなかった。ただ、その場にいるだけだ。
(表向きは、圧政に対する抗議と言ったところだが。恐らく租は、小蓮が俺のところにいるのを突き止めて、俺をおびき出すために反乱を起こしたのだろう。大胆なことをする奴め)
感嘆と呆れが入り混じる。藍英は、ここから離れることはできない。
左肩に痛みが出始めていた。小蓮に会いたいと、ふと思った。
「!」
自分の気弱さに驚く。
(これは治療のためだ! いやいや、小蓮は政略的な婚姻を望まない。素直になるべきか。任務中だというのに、余計なことを考えてしまった)
連絡の兵士がやって来る。
「斥候からの報告です。近くの村の話では、7日だけ抗議のためにここに集まるように言われたそうです。他に、軍が攻撃してきたら後退する、特令の発布のいずれかで解散とのことです。租は自分の名前を使い責任を持つことで、人を集めたようです」
(何もしない農民に手を出すことはできない。危険が少なければ、人は集まりやすい。民の支持を得たい国の足元を見ているな)
「分かった。皇宮に報告に行く。何かあればすぐに知らせろ」
首都に押し入ることはないと分かったので、藍英は離脱することにした。馬を走らせて、皇宮へと向かう。
(小蓮は無事だと良いが)
大人しく連れていかれはしないだろうと、思うしかなかった。
藍英は皇宮に着くと、会議の間で反乱の詳細を報告した。その後、宰相に減税策を耳打ちする。宰相は皇帝に進言した。
「一律の税を取れ高制に変更し、そこから更に五分を減税。減税分を次の豊作の年に上乗せするのはどうでしょうか」
「良いだろう」
大門では会議の決定を受け、ただちに反乱軍に向けて特令が読み上げられた。それを聞いた農民達は、喜んで帰っていった。
首謀者の租だけは罪に問うことになり、懸賞金をかけて指名手配されることになった。