5、農民の反乱
手当てを始めてからしばらくたつので、また患部を見せてもらった。藍英の調子は良くなったものの、呪いのあざは相変わらずそのままだった。進行が止まっているという感じだ。
「どうやら、呪い自体には効果がないようですね」
「それでも、調子は良いのでありがたい。そなたのお陰だ。ありがとう」
小蓮は照れて、へへと笑った。藍英は小蓮と過ごすうちに、穏やかな明るい表情を見せるようになっていた。伝承の話もしなくなって、二人の間のぎこちない空気も、いつの間にか消えた。
寝巻姿で会うのも習慣になって慣れてしまった。恥ずかしい気もするけど、小蓮は深く考えないようにした。
症状も止まったので、時間がないのも保留になって良かった。小蓮が藍英を選べば、呪いは解けるのかもしれないが、いろんな考えから今選ぶことはできなかった。自分の伴侶でもあるし、皇帝になるのなら、他の人も関わる話だ。会って間もない人を、選んだりはできない。
藍英は家柄も見た目も申し分ないが、暗殺や呪いのことを考えると危険すぎて現時点でほぼない。
(将軍には悪いけど)
翌朝目が覚めると、母屋の方が騒がしい気がする。
(どうしたんだろう)
起きて、朝ご飯の準備をしている香呂に話を聞いた。
「農民の反乱が始まったんです! もうびっくりですよ!」
「ええ!?」
「ご主人様が、鎮圧に向かうことになって、母屋ではその準備が始まっているのです」
青の軍は先行部隊なので、藍英が行くことになる。農作物が去年不作だった。今年の育ちもよくない。現皇帝は先帝の息子で、臣下と謀反を起こして父を廃位させた。先帝ほどの悪政ではないが、際立ったところもなく30代なので若輩皇帝と呼ばれ、民の評判はイマイチよくなかった。
小蓮は藍英の呪いのことが気になった。毎日手当てをしていたのが、しばらくできなくなると思うと、きっとまずいだろう…
藍英が鎧を着て、離れにやってきた。
「話は聞いたと思うが、しばらく留守にする」
「はい、聞きました。お気をつけて。あの…」
小蓮は花の刺繍が入った、きれいな手巾を出した。
「これを気休めですがお持ちください」
屋敷で自分のために用意されたものだが、無事を祈って渡すことにした。藍英の頬が少し赤くなった。手巾を受け取る。
「かたじけない」
その様子に香呂は、まるで恋人のようだと、口に手を当てて微笑ましく思った。