3、夜の訪問
夜になり、小蓮は白い寝巻に着替えて、寝台に座っていた。鏡で見た自分は、どこからどう見てもきれいに手入れされた娘だ。香油を付けた髪は美しく梳かれ、肌も高級な保湿液でツヤツヤだ。今までで見たことがない、一番きれいな自分だった。
今日の朝まで、固い布団に寝て粗末な食事をしていたのに、今は侍女に風呂と着替えの世話をされて、おいしいご飯を食べて、ふかふかの布団の上にいる。藍英は、きれいにした小蓮に始めは気が付かなった。侍女の咳払いで気が付いた。侍女の一人だと思ったらしい笑。
夜のご飯はとても豪華で、藍英と一緒に食べて、誕生日も祝ってくれた。実家を出てから、ちゃんと祝ってもらったのは久しぶりで、夢のようだった。
いや、上手い話はそんなには続かない!! 手厚いもてなしは、私が伝承の娘だからだ。
トントンと小さく戸を叩く音がする。
「入るぞ」扉が開いて、寝巻姿の藍英が入ってきた。
(やっぱり! いきなり夜を共にする気なの!?)小蓮は焦る。
「待ってください!! 私が選ばなかったらダメなんですよ!」
目をつむって顔を背け、両手を突き出して止めの姿勢をとる。テンぱりながらも、言いたい事は言った。
「はぁ」どさ
藍英はため息をついて、小蓮の横に座って下を向いて頭をかく。
「お前に選ばれるには、どうすればいい? 俺はこういったことに慣れていない」
え? 私より年上なのに。なんだかかわいいと思ってしまった。
「取りあえず、話でもしましょう汗。将軍は何才ですか?」
「25だ」
8才も年上か。将軍からしたら、私はただの小娘だな。そういえば先生は年齢を教えてくれなかった。わざとだと思う。おそらく70代後半ぐらいか。
「将軍が伝説を知っていたきっかけはなんですか? 私は今日、先生から聞くまで知りませんでした」
藍英は、ぽつりと静かに話し始めた。
「幼い頃に、父から聞いたのだ。
父は視察中に、大荷物を持って運ぶのに難儀していた老人に出会った。老人と荷物を運ぶのを手伝うと、老人は父の耳元で伝承の話を囁いた。
『今年、その娘が生まれているはずです』
父は王宮の記録保管庫で、神殿に関する文献を探して、その伝承を見つけた。その話が本当だと思った父は、家に帰ると俺にその話をした。
『お前の時代に、太平の世が来る』 小さな俺の頭に手を置いて父はそう言った。父は戦死したから、それを見ることは叶わなかったが。
俺にはもう、時間がない。戦には疲れた。争いのない世の中にしたい」
(? 診療所に行っていたから、何か病気なのかな? 目にクマがあるから睡眠不足のようだけど)
「それが、伝承の娘を探していた理由なんですね」
将軍の話は、至極全うだったので、小蓮は一まず安心した。そのお父さんの息子だから、光の玉も推したのかな?
将軍のお父さんは、自分の息子に託した。片や先生は、自分が対象者だと考えて、それで結婚しなったと思う。先生は将軍のお父さんの親世代なのに、自分のことしか考えていない! えらい違いだ。小蓮は、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「その老人は、『不吉とされているので、今は誰も知りません』 と言っていたそうだ」
(不吉?)それは先生の話になかった。
「くっ」
藍英は急に、小さく呻いた。左肩を押さえて顔をしかめる。
「今日はいろいろあっただろうから、ゆっくり休め」
そう言うと、少しよろけながら背中を丸めて出ていった。
(調子悪そうだな…。明日にでも聞いてみるか。今日はとにかく疲れた!)
布団がふかふかすぎて、小蓮は秒で寝ることができた。