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1章 カゲナ 影と光の はじまり  作者: Kagena
第1章:カゲナ 影と光の はじまり
3/4

第3話 (姉との再会と悪魔の食卓) 5分

異能と魔力が存在するこの世界で、少年・カゲナは“悪魔”と共に生きている。


いつも通りの家族。けれど、そこには普通じゃない日常がある。


今回は、長い時を経て帰ってきた姉との再会

少し騒がしくて、少し危なっかしい、でもちょっと温かい。


これは、家族の形を描く、静かで不思議な夜の物語。

──静かな光に包まれ、意識がゆっくりと浮上していく。

──精神の深層での戦いが静かに終わりを告げた。


ノクシアと天使の少年は、それぞれの主の内へと意識を引き、役目を終えたように静かに沈んでいく。

カゲナとリアのまぶたが、ほぼ同時にゆっくりと開いた。


カゲナ:「……ノク、お疲れ」


リア:「勝ったのね、ノク」


クレアナは微笑みながらうなずく。


クレアナ:「お見事です。おふたりとも、精神の奥底でしっかりと向き合えたようですね」


その言葉に、カゲナとリアは互いを見て、小さく笑い合った。


そして数分後――


ふたりは静かに地上へ戻り、軽く身体をほぐしてから最後の仕上げとばかりに訓練を始めた。

空間を裂くカゲナの技と、炎の霊を操るリアの魔法が何度も衝突し、地面には歪んだ次元のひびや、焦げた跡が点々と残っている。

それは精神の戦いで得た想いを、現実でも確かな力に変えるための本気の鍛錬だった。


やがて、息を切らしながらも達成感をにじませた兄妹は、互いに視線を交わしてから家の中へと戻る。


訓練場から地下への階段を降りていくと、すぐそばの共用スペースの扉が、かすかに軋む音を立てて開いていた。


リア:「……あれ、開いてる?」


カゲナは、その気配に思わず目を見開いた。

扉の先――そこに立っていたのは、彼女――ミレイナだった。


カゲナ:「……帰ってきたんだ」


その言葉に、ミレイナは短く頷く。

ショートヘアの黒髪には、前髪と毛先に燃えるような赤が差していた。赤い瞳はじっとこちらを見つめるが、どこか懐かしさを滲ませた優しさが確かにある。


ミレイナ:「ちょっと見ないうちに、でかくなったね。二人とも」


リア:「ミレイナ姉……ほんとに、帰ってきたんだ、ね!」


リアが思わず駆け寄り、その腕に飛び込む。

ミレイナはリアの頭を軽く撫でながら、やわらかく微笑んだ。


カゲナは一歩、彼女に近づく。

その目には、言葉では言い表せない想いが浮かんでいた。


ミレイナ:「なんだよ、泣くの?」


カゲナ:「泣かない。けど、嬉しい」


共用スペースの隅には、訓練に使った木の人形が倒れたままになっている。

さっきまでの熱気と静寂が交じる中、クレアナがため息まじりに言葉を落とした。


クレアナ:「……再会の空気が重たいですね。今夜はご馳走を用意してありますから、まずは腹ごしらえでもどうぞ」


クレアナがテーブルのカバーをめくると、そこには湯気を立てる鍋料理、焼きたてのパン、香ばしい肉料理がずらりと並んでいた。

ふわりと立ち上る香りに、誰もが自然と席につく。


四人分の席に座り、それぞれが食事を取り始める。

リアは肉に目を輝かせ、ミレイナは静かに味を確かめていた。

カゲナはどこか落ち着かない表情を浮かべながら、隣の姉の様子を見ている。


ミレイナ:「この味、懐かしい。クレアナ、変わってないね」


クレアナ:「ありがとうございます。ミレイナ様こそ、以前より少し柔らかくなった気がします」


ミレイナはふっと笑った。


だが、その時だった。カゲナの身体がぴくりと震えた。


カゲナ:「……あー……ちょっと……ヤバいかも」


リア:「え?」


リアが振り返った時にはもう遅かった。

カゲナの瞳がゆっくりと赤く輝き始め、首筋から肩にかけて黒い模様が浮かび上がってくる。


そして――その身体が、変化を始めた。


髪は少し伸び、黒から深紅へと染まり、指先から足先まで、輪郭がわずかに細く、女性的に変わっていく。

服装はそのままだが、雰囲気がまるで違って見えた。


ノクシア:「――はああぁっ、やっと出られた……!」


姿は、もうカゲナではなかった。そこに立っていたのは、彼の中にいる悪魔――ノクシア。


リア:「ノク……」


クレアナが眉をひそめる。


リア:「出たわね、欲の塊」


だが、反応はそれだけではなかった。


ミレイナ:「おかえり、ノクシア……ほんとに出たのね。また、会えてよかった」


ノクシアは瞬きをした。


ノクシア:「ミレイナ……お前は、怒ってないの?」


ミレイナ:「怒る理由ないでしょ。むしろ、また顔を見られて嬉しいよ」


ノクシアは一瞬、戸惑ったように黙る。だがすぐにニヤリと笑った。


ノクシア:「ふふ、あんたやっぱ好き。ノクに優しい子、大歓迎」


リア:「うわ、また調子乗った」


リアがむすっと言いながらも、どこかホッとしていた。

クレアナだけは、少し警戒を残したまま立ち上がる。


クレアナ:「ノクシア、今日は暴れないでください。せめて食後にしてください」


ノクシア:「大丈夫。今日は暴れないってば……代わりに――ちょっとだけ、食べさせて?」


リア:「……?」


ノクシアが、ゆっくりとテーブルの肉をひょいと取って頬張る。


ノクシア:「ん~~~~~~~! 肉最高~~っ!! やっぱり自由っていいねえ!」


リアとミレイナが笑い出す。


その夜、食卓には不思議な空気が流れていた。

警戒と、安堵と、どこか懐かしい温もりと――

そして、悪魔の笑い声が混ざり合う、奇妙で賑やかな夜だった。



その夜、地下二階の広い共有寝室に、布団が並べられていた。

珍しく、全員が同じ空間で寝ることになった。


リア:「まるで修学旅行みたいだね」


ノクシアがカゲナの身体のまま、嬉しそうに手をあげる。


ノクシア:「修学旅行って楽しいやつだよね? ノク、初体験っ!」


カゲナ:「ノク、しゃべるな、寝ろ」


カゲナが無理やり主導権を取り戻そうとするが、ノクシアはぺろっと舌を出す。


ノクシア:「もう、少しくらい自由にさせてよ〜」


カゲナ:「……じゃあ、端っこでおとなしくしてて」


ノクシア:「は〜い」


布団の並びは、左からリア、カゲナ(のちノクシア)、ミレイナ、そしてクレアナ。

灯りが落ちると、しばらくは誰も何も言わなかった。

ただ、夜の静寂の中で、それぞれの呼吸と、ほんの小さな寝言のような声が混ざり合う。


リア(寝言):「……お姉ちゃん、おかえり……」


ミレイナ:「うん……」


カゲナ(ぼそっ):「……ノク、出たけど、悪くなかったよな……」


ノクシア(心の声):「へへ、でしょ?」


その夜、地下の静かな部屋には、家族の息づかいと、過去と現在が交わる安らかな気配が漂っていた。

ただ一人、クレアナだけは目を閉じず、わずかに開けた目で、ノクシアとミレイナの方を交互に見つめていた。

安心しきるには、まだ少し――慎重さが必要だった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回はカゲナとミレイナの再会、そしてノクシアとの食卓という少し日常寄りの回でした。

またぜひ、彼らの物語をのぞきに来てくださいね!

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