次の四限があるかどうか、思い出せない
おれは、大学を闊歩している。
今は、十一月十九日。
大学四年。
十四時ちょうど。
今、おれは。
スマホを持っていない。
今、おれは。
次の四限があるかどうかを、思い出せない。
パソコンもない。
スマホは、なくしてしまった。
スマホさえあれば、すぐにそんなこと、確認できるのに。
ていうか最近、おれ、何してたっけ。
食堂の近くに来た。
知ってる顔が映る。
「あれ、達也じゃん。」
「おお、勇気!久しぶり!」
達也はきょとんとした。
「おまえ、何してんの。」
「ちがうんだよ、あんな。」
食堂の窓から差し込む光は、幻想的で華やかで、でも少し儚くて、美しい。
「おれ、なんか。次の四限があったかどうか、思い出せないんだよ。」
「はあ?そんなの、スマホを見れば……。」
「スマホ、忘れた。」
「まじかよ。あ、てか。」
そこまで話した時のおれたちは、一番窓際の席に座っていた。
「なあ、勇気。おれたち、入学式もこうして、話したよな。」
「ああ、そうだったな。おれが、スマホを忘れたとか言って。履修登録できないとか言って。」
「あー、そうそう。そんなことあったなあ。おれ達も、もう、四年生の十一月か。早いなあ。」
「早いなあ。」
「あの時、博人と一緒だったっけ。」
「そうそう。博人と一緒で。」
桜が、舞い散っていた。
おれは、スーツ姿で。緊張の中、新しい世界に足を踏み入れた。
後ろから、声が聞こえた。
「すみません、僕、文学部なんですけど、会場への道、教えてくれませんか……。」
道って……。そのまま進めばあるのに。
男は金髪に青の結び慣れていないネクタイを付けて、短めのツーブロックでまとまっていて、きりっとした目で、ニコッと笑った。
「僕も、文学部っす……。」
「マジで!?おれ、達也!お前は?」
「……勇気。」
「勇気!よろしくな!」
「あ、あの!」
また、後ろから声がした。
重めの前髪で目を少し隠した男がいた。
「おれも、文学部で、博人っていうの!よろしく!」
「博人!おれ、達也!よろしくな!!」
そこで散った桜は、受験勉強を終えたおれ達を祝福しているかのようだった。
「達也、お前何サークル入る?」
「おれはサッカー!ずっとやってきたからさ。勇気は?」
「……まだ決めてない。博人は?」
「おれ、軽音!ギター、大好きだからさ!それより、履修どうしよ」
「あー、履修ね。おれ。心理学入門、受けてみたい。」
「それで心理学入門取ってさ〜。みんなで。楽しかったよな〜。」
その瞬間。
どくん、と。
おれの心臓が大きく鳴った気がした。
「どうした?勇気。」
「いや、なんでもない。」
おれたちは、二百円のカレーライスを買いに行った。
「これ、あの日も食ったよな〜。」
「てかさー、履修登録する前に、飯買いに行かね?」
達也のその言葉を皮切りに、おれたちは動き出した。
メニューを見て、博人は目を丸くする。
「カレー二百円!?やっす!」
おれも驚いた。
「めっちゃ安いな!!!」
おれたちは揃ってカレーを買った。
「……なんで、博人は軽音学部に行きたいの?」
「だって、ずっと軽音やってきたから!」
「達也はサッカーに行くの?」
「当たり前。サッカー、大好きだから。」
おれは少し、俯いた。
「勇気も見つかるよ。いいサークルが。」
「あの後、お前がサッカーサークルに入ってきた時、びっくりしたよ〜。」
それを聴いた時、なぜか、また、鼓動が速くなった気がする。
「おれも、その選択をするとは思ってなかったよ。すごく楽しかった。」
「な!楽しかっただろ!?」
「……うん。」
「なんかテンション低いな〜!!上げてこうぜ!!いえいいえい!!」
「お前テンションたけえなぁー。」
「お前は、四限、何なの?」
「おれは……。ねえよ。そんなことよりさ、あの後。」
「ああ。」
おれは、三人とは偶然にも語学クラスが同じになって。
毎日、一緒に帰ったりして。
学祭の日。
「おれ、ライブやるから、見に来てよ。」
「当たり前だ!」
「……おれも、見に行くよ。」
「ほんと?ほんとか!?ありがとう!!」
その博人のライブはとてもかっこよくて。
隣の達也は、めっちゃ笑ってて。
おれも、思いっきり楽しんでて。
あっという間に、終わって……。
あれ。
すごく、楽しかった思い出なのに。
なんで、こんなに。
悲しいんだろう。
恐れ入りますが、
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