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児童公園に隣接する雑木林の奥に、奇妙な形状の石碑と、古びた小さなお社があることを覚えているのは、近隣に古くから住んでいるお年寄りだけだった。
玲子が個人的なフィールドワークで取材したとき、孫がすっかり相手にしてくれなくてと饒舌だった彼らの口は、その話になると一様に重くなった。
「ミヌロサマは、おっかねえ神様だ。さわるもんじゃねえ」
彼らは口を揃えてそう言った。
そんな中、たまたま道端で出会ったしわくちゃの老婆だけが、少し違った話を聞かせてくれた。
「ミヌロサマ? そらあ読み違えだ」
手渡したメモに彼女は、驚くほどの達筆でこう書いてくれた。
× ミヌロ さま
↓
○ 三叉口 さま
「三叉……それとも三叉口? これ、なんて読むんですか?」
三叉に裂けた口──つい先日仕入れたばかりの舌裂け女の噂を思い浮かべつつ、問いかけた玲子に、老婆は答える。
「これは三叉口様とお呼びするんよ」
「ミシャグヂ……サマ……それって……」
「あー……若い娘さんは、あんまり忌名で呼ばんほうがええか」
そして老婆は歯のない真っ暗な口で、愉しげに笑った。
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