File 03 街はずれ公園の秘密
「制服姿の女の子同志が、チューしてるの見たって……」
「……!? それって……」
それって私達のことじゃ? と漏らしかけた言葉を、美沙は寸前で飲み込んでいた。
玲子が肩を震わせて、必死に笑いをこらえていることに気付いたから。
「……ごめん。そういう噂を流したらどうなるか実験してみたいなあ、って話」
「もう! 先輩ひどいです。本気でびっくりしたじゃないですか」
「ふふ、ほんとごめんね」
「ゆるしません」
「ねえ、許して? ほら、これで……」
頬を膨らませる美沙の肩を抱き寄せると、その唇に玲子は自らの唇を重ねていた。
柔らかな感触といちごオレの甘い香り。ゆっくり唇を離せば後輩は、怒りなど最初からなかったように潤んだ瞳で見詰め返してくる。
「先輩、私かわいい?」
「うん、かわいい。世界一」
即答する。美沙は本当に可愛い。玲子は心の底からそう思っている。
ただ最近は少しだけ、彼女の向けてくる純粋な愛情を重たく感じるようになっていた。
それに、大学に行けばもっと可愛い子がいるかもしれない。
私たち、ちょっと距離を置こう。本当は、そう切り出したかったのだけど。
「──これでも?」
見たことのない挑発的な笑みを浮かべた美沙が、抱き着いて唇を重ねてきた。唇をこじあけ潜りこむ彼女の柔らかな舌先は、まるで別の生き物のように蠢いて玲子の舌に絡みつく。
「……!」
初めはあんなぎこちなかったのに、いつからこんな──微かな違和感は、いちごオレの甘みのなか、触れ合う粘膜の淫らな感触に塗りつぶされる。玲子の瞳は、潤んで蕩けてゆく。
「……んぅぐ……!?」
突然、その瞳がいっぱいに見開かれた。
苦しげに美沙の両肩を掴んで引き離そうとするも、逆にその両腕を掴み返される。
細腕から信じられない握力と腕力で、完全に玲子の自由を奪った美沙は、恍惚の表情で彼女の唇を貪っていた。
その口元からぼたぼたと、透明な粘液が糸を引いてベンチにしたたり落ちる。唾液にしては、多すぎる量で。
やがて白目を剥きビクビクと震える玲子の全身から、力が抜け落ちてゆく。解放された両腕はだらりとぶら下がり、美沙は彼女の頭を愛しげに抱え込んで接吻を続けている。
──数分後。ようやく、玲子の唇は解放された。
しかし唇と唇が離れても、長く伸びた舌はつながったまま。
玲子の体をベンチに横たえる間も、ずるり、ずるりと引きずり出される舌は、1メートル以上先でようやく体内から抜け出した。
血混じりの粘液にまみれたその舌先は、花が咲くように三方向に裂けていて、内側にはびっしりと小さな牙が並んでいる。中央にぽっかり空いた真っ黒な穴。
玲子の内臓を貪り喰らった舌は、まるで別の生き物のように──巣穴に還っていくかのように、美沙の口内に吸い込まれる。
最後にコクンと喉を鳴らし、口元にべっとりついた血混じりの粘液を両の手のひらで拭って、元の形状に戻った舌でていねいに舐めとった。
「あっ、そうだ」
思い出したように美沙は、足元に転がっていた自分のいちごオレの紙パックを拾い上げる。
ゴミ箱の近くまでトコトコ歩いてそれを捨ててから、ベンチ横に戻った。
「これでよし。それじゃ先輩、いっしょに還りましょ」
そして満面の笑顔を浮かべながら、もうほとんど骨と皮と制服だけの玲子を愛しげに抱き上げた彼女は──公園の奥、雑木林のほうへ軽やかな足取りで歩き出すのだった。