最悪な出会い
7月24日
コンサート会場。
kポップアイドル「AtoZ」のコンサート。暑い、熱い。
「みんなー!愛してるー!」
「キヤー!」
メンバーのジフンが叫ぶと女子達の黄色い歓声が場内
に響き渡る。
メンバーの汗がライトでキラキラひかる。
激しいダンスナンバー汗が飛び散る姿は、本当にかっこいい。
3時間の公演が終わった。
「あ〜、ほんとにかっこ良かった〜」
親友の美優が頬を赤らめ目をキラキラさせながら言う。
「ジフン、何回か、あたしを見てくれた〜」
はるも両手で頬を押さえながら、うっとり目をつむりながら、ジフンの笑顔を思い出す。
「これで明日からまた学校がんばれるね~」
「うん、うん。頑張れる〜」
コンサート帰り、二人の女子高生が憧れのアイドルに会えた喜びと興奮が、まだ冷めない状態ではしゃぎながら歩く。
背の高いスラッとした少女は、夏川はる。高3。
並んで歩く小柄の少女は、はるのクラスメイトで親友の美優。
「あ〜お腹すいたね。なんか食べようよ。」
はるは辺りを見渡しお店を探す。
「そうだね、何が良いかなぁ」
美優も人差し指を口元にあてながら、行きたいお店を思い浮かべる。そこに、美優のスマホに母から電話がかかってきた。
「あ、お母さんからだ。」
美優がスマホを見ると
「あ、じゃあ、あたしちょっと中でドリンク買って来るね」
はるは、ちょうど見つけたコンビニに入って行った。
はるは、コンビニに入りドリンクを選ぶ。
外では美優が母と電話で話している。
はるがドリンクを片手にコンビニを出ると、美優の姿が無い。
「美優?」
辺りを見回すが、美優の姿は無い。
「美優?」
少し不安に思いながら、辺りをさがす。
「美優?あれ、どうしたの?美優。どこ行ったの?」
はるは美優を探し歩くと、狭い路地に、うずくまる少女に抱きつく大柄の男が居た。
はるは、怖がりながらも、恐る恐る少女を遠目から見てみると、それは震える美優だった。
「美優!」
大声で叫んでかけより、はるは、抱きつく男に力いっぱい蹴りを入れて、美優から離した。
ザザッ!
大柄男は勢いよくひっくり返った。
「いってえ!」
「美優、大丈夫!?どうしたの!?」
はるは、美優を抱きしめた。そして、大柄男をにらみつけた。
「おい!変態!美優に何した!」
大柄男は擦りむいた腕をおさえながら、ゆっくり顔を上げようとする。
(ヤバイ!逃げないと!)
はるは、美優を立ち上がらせながら、
「おい!変態!どっか行け!ついて来たら警察呼ぶからな!誰か、誰か助けて!変態です!」
必死に叫んた。
はるの声で、人が集まってくる。その隙に、はると美優は走って逃げた。
大柄男も、うつむきながら、はる達と逆方向に逃げて行った。
ハアハアハア・・・
「はぁ、もう大丈夫よね...」
息をきらせながら、後ろを振り返るはる。
「はぁ、はあ...怖かった」
はるがつぶやくと、美優も息をきらしながら言った。
「はる、違うの..」
「え?」
美優は、はるの顔を見た後、すぐに下を見ながら言った。
「あの人じゃないの。お母さんと電話で話してたら、いきなり男の人に後ろから抱きつかれて、路地まで連れて行かれたんだけど..」
美優は、はるに状況を説明した。
あの時、美優が、男に連れて行かれるところを、たまたま、はると同じコンビニにいた客が見ていた。不審に思った客は後をつけて行くと、美優が男に襲われそうになっていた。急いで男から美優を離すと、男は逃げて行き、美優は怖さのあまり震えて立ち上がれなくなっていた。客は、美優に優しく声をかけていた所を、はるが勘違いしたそうだ。
「マジか...」
動揺するはる。
一方、春に勘違いされた大柄男も友人と合流していた。
「おう、どこ行ってたんだよ。」
「ああ、ちょっとな」
友人の男は大柄男をジロジロ見る。
「お前、コケたのか?」
大柄男のデニムが、はるにけられて転んだ時にやぶれていた。
「ついてねえ..」
大柄男が破れたとこを気にしながらつぶやいた。
「おはよう」
「おはよう」
翌朝、はると美優が通う学校。
「おう!コンサートどうだった?AtoZのコンサート」
二人の親友の廉が声をかける。
はると、美優と廉は中学からの仲良し組で、はるは学年一の秀才で生徒会長。
美優は身長147センチの小柄でおっとりした子。
廉は180センチの高身長で女子にも人気の明るい爽やかイケメンだ。
「すごく良かった〜!ダンスのレベルもかなり高いし、何よりジフンが〜」
キヤ〜!
と言わんばかりにはしゃぐ二人に
「あ、そうだ。今度の日曜、忘れてないよな?」
廉が思い出したように確認する。
「ああ、わかってるよ。例の自衛隊の航空祭ね」
はるが言うと、廉は、うんうんと頷いた。
廉は高校を卒業したら自衛官になるという夢をもっていた。その為、近くの航空自衛隊基地で行われる航空祭に、週末3人で出かける約束をしていた。
3人で確認していると、始業のチャイムが鳴り、担任が入ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
はるが帰宅すると、母がご飯の準備をしていた。
今日は、はるの好物のオムライスだ。
手を洗い、制服のままダイニングに座る。
「はるちゃん着替えてきなさいよ。」
母が怪訝そうに言う。
「いいの。このままで。面倒くさい。」
はるはスプーンを手に取り
「いただきます。」
長い髪を耳にかけながらオムライスを頬張った。
「はづきはまだ?」
はるが母に尋ねると、
母はグラスに注いだ麦茶をはるに差し出しなが答えた。
「学校帰りに彼氏とご飯食べてくるって。」
「ふうん。」
はるは、少しつまらなさそうに返事をした。
はるは、父と母、高1の妹のはづきと4人暮らし。
勉強は学年トップ。
運動も女子の中では常にトップ。
スタイルも顔も申し分無いはるだが、唯一、他人に負けるのは、人生で一度も異性と付き合った事もなく、告白された事も無い。
そんなはるは、小学校の頃からモテまくり、彼氏が途切れた事のない、はづきが羨ましかった。
日曜、家の近くの航空自衛隊基地。
「うわースゲー、スゲー」
様々な展示物を見ながら廉が大はしゃぎしている。
「ねえ、航空自衛隊って、空揚げが有名なんだよね。食べたい!」
美優もウキウキしている。
それにしても、小さな子供連れの家族から、お年寄り、自衛隊マニアと思われる人まで様々な人が来ていた。
「ブルーインパルスのショーもあるんだよね!楽しみ!」
楽しんでる3人に、一人の自衛官が声をかけて来た。
「高校生?」
振り返る3人。
そこには長身のスラッとした自衛官が立っていた。
180センチの廉より、さらに高身長、モデルのように長い手足と、小さな顔。
そして、一重なのに大きな目と、スッと通った鼻筋。
自衛官にしとくには、勿体ない、モデルか芸能人のような人だ。
はるは、思わず見惚れてしまった。
「あ、はい!今、高3です!卒業したら自衛官になりたくて見学に来ました!」
廉が緊張しながら答えた。声がデカイ。
「そうか。」
自衛官は優しい笑顔で3人を見た。
(カッコいい・・・)
廉も、はるも自衛官に見惚れていた。もちろん、カッコいいの意味は異なるが・・・。
「あのう・・・」
うっとりした表情の二人の隣で、美優が遠慮気味に口を開いた。
「違ってたら、すみません・・・この間、路地で、あたしを助けてくれた方じゃないですか?男に連れて行かれそうになった、あたしを・・・」
「え?」
「え?」
自衛官が驚いた顔で美優を見る。
はるも驚いて声が出る。
(え!?)
自衛官の顔を、まじまじと見ながら、はるは思い出した。
何も悪くない、むしろ友人を助けてくれたヒーローを、容赦なく、思いっきり蹴り飛ばした自分の行動を・・・。
(え・・・えー!!)