7 ビデオの早回し
何日かぶりで食事にあり付いた子供達は、安心したのかすっかり眠りこけていた。
子供達も眠っているし、母親の勤務先はわかったけど夜中に行っても意味がないから、朝まで僕は子供達の無心な寝顔を眺めて居るだけだった。
時間だけが僕の前を通り過ぎる。できれば僕も眠ってしまいたかったが、死んだら眠れないのだと、その時わかった。
壁にかかったアニメ柄の時計をじっと眺める。
秒針は生きていた時とおんなじ速さで回っている。
しかし、と考えてみた。
時間を感じるのは、心なのか、身体なのか。
それは身体で感じるものじゃないだろうか。心臓の鼓動。
鼓動は早くなったり遅くなったりするから、基準にはならないだろうけど、鼓動を感じるという事がすなはち時間を感じるということじゃないか?
そうすると、すでに死んでいる僕には、時間に束縛されるいわれは無いんじゃないだろうか。
僕は二人の寝息だけがする静かな部屋の中で、掛け時計の秒針に集中した。
秒針の動きが速くなった。視線を女の子に向けると、小さな胸が小刻みに上下しているのが見えた。
本当に時間が早く進んでいるのだ。
ちょっと、いやすごく驚いた。
マンションから出て、幹線道路上に漂ってみる。
ビルの十階くらいの高さから見下ろす四車線道路では、深夜だというのに多くのクルマがまるでF1並のスピードで通りすぎていく。
ビデオの早回し状態だ。東の空に目をやると、真っ暗だったその部分がじんわりと明るくなってくるのがわかった。
目覚めた女の子に、僕は最初にベランダに出れないか聞いてみることにしていた。
紙に書いたSOSをそこから投げれば、下を通る誰かが見つけてくれるはずだ。
そう、これなら女の子にもできるだろうし、もしベランダに出れないように鍵がかかっていたとしても、そんなものはガラスを割ってしまえばどうということは無い。
子供たちを助けることができる。
これまでずっと胸の中でもやもや渦巻いていたのが、すっきり晴れ渡った感じだ。
女の子の目が覚めた。
時計は六時を少しすぎたところだった。
何かを探すみたいにきょろきょろしている女の子に、僕は声をかける。
『聞こえるかい?』
耳元でそう呼びかける僕に、女の子は振り向いてくれなかった。
彼女の方も、僕を探しているみたいで、耳をすましているようなのに、こっちの声が届かない。
『ねえ、聞こえないの?』
これまで以上に、大声というか、強い意識で声をかけてみるが、やっぱり聞こえないようだ。
「お兄ちゃん? 居ないの?」
心細そうに彼女はそう言って涙ぐんだ。
昨夜は届いた僕の声が今は届かない。
これはどういうことだろうか。その答えが、僕には何となくわかるような気がした。
昨夜の女の子は、飢餓状態で死に瀕していた。
意識も朦朧だった。
あの世にかなり近いところに居たのだ。だから僕の声が聞こえたんだろう。
今は、女の子も弟も久しぶりの食事ができて飢餓状態を抜け出しているから聞こえないのだ。たぶん。
二人のことは心配だけど、とりあえず置いておいて母親を探すことにしよう。